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第19話 本領発揮

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「次で決まりますね」

 わたあめとワイバーンが戦う中、なんとなく感じたことを言ってみる。

 それとほぼ同時。
 ワイバーンがガバっと大きく口を開いた。

「──ギャオオオオオオオ!」

 ワイバーンの代名詞「ファイアブレス」だ。
 精一杯力を振り絞っているようにも見える。

 対して、姿勢を低く保っていたわたあめ。
 
「──!」

 また一瞬で姿を消した。

「ウォフ!」

 次の瞬間には遠くの壁に張り付いている。
 だが、また次の瞬間には反対の壁。
 さらに天井、地面、また違うの壁。

 それを繰り返して……

「──ウオォォォォォン!!」

 じゅうおうじんにフロア内を駆け回るわたあめ。

「ウォフッ! ハッ! ウォーン!」

 その速すぎる動きは、まるで分身しているよう。

 それも二体や三体じゃない。
 十や二十にも、わたあめが分身して見える。

 うちのペットの中では一番速い、わたあめだからこそできる芸当だ。

《おおおお!?》
《すげえええ!!》
《見えねえ!けど見える!》
《分身してるわけじゃねえよね!?》
《十体ぐらい居るだろこれ!》
《やばすぎる!》

 視聴者も驚いているみたいだ。

「わたあめ!」
「ウォフ!」

 ならば俺も叫ぼう。
 このわたあめの必殺技を。
 俺はワイバーンを指差して声高々に言い放った。

「わたあめラーッシュ!!」
「──ウオォォォォォン!!」

 無数にも分身したように見えるわたあめが、一斉にワイバーンに襲い掛かる。

「ギャオオオオオオ!!」

 巨大な火球は一瞬で消え去り、その勢いのままワイバーン自体も見事に倒す。
 わたあめの勝利だ。

「お疲れ様、わたあめ!」
「ウォ~ン!」

 大きな姿のまま寄ってくるわたあめ。
 俺は頭を抱きかかえるように撫でた。

 そして、衝撃の事実に気づく。
 俺は思わず声を上げてしまった。

「ええ!!」

 カメラに『30万人が視聴中』の文字が映っていたからだ。

「30万人!? あ、ありがとうございますっ!」

《うおっ!?》
《本当だすげえ!》
《戦闘に夢中で気づかなかった!》
《おめでとう!》
《おめでとうございます!》
《30万人おめー!!》

 気づいてなかった人が大半みたいで、一斉におめでとうと流れてくる。
 すごい、嬉しいなあ。

「わたあめのおかげだぞ~」
「ウォ~~~…………ワフっ!」
「ははっ、小っちゃくなったか」
「クゥ~ン」

 敵がいなくなったわたあめは段々と小さくなり、子犬の姿で胸に飛び込んで来る。
 も~愛くるしいなあ、この子は。

 そうして、俺はわたあめを抱きかかえながら改めてカメラに向き直る。

「どうでしたか。わたあめが戦うところは」

《すごすぎ!》
《やばかった》
《めっちゃ興奮した!!》
《わたあめもつええんだなあ》
《あれがフェンリルか》
《速さってすげえ武器》

「だってさ~わたあめ! よかったな」
「クゥ~ン」

 頭をでると、「もっともっと!」とむしろ顔をすりすりさせてくる。

 とても今の勇姿と同じ子とは思えない。
 それが良いところでもあるんだけどね。

《きゃー!》
《可愛い~!!》
《すりすりしてる!》
《ギャップえぐい》
《かっこよさと可愛さ兼ね備えてんのずりいわ》
《こんなのファンなるやん》

 わたあめが褒められると俺も嬉しい。
 そうだ、あれの感想も聞かないと!

「かっこよかったですよね! わたあめラッシュ」

《いや……》
《かっこよくは……》
《うーん》
《そ、そだねー(棒)》

「うええっ!?」

 でも、返ってきたのは想定外の反応。
 そんな、これ以上ない命名だと思ったのに。

《でも、それが逆に良いw》
《確かにホシ君っぽさはある笑》
《ちょっと可愛い》
《フェンリルにつけるにはかわいすぎ笑》
《伝説の種族だもんなw》
《ある意味らしくていいかもw》

「な、なんか喜んでいいのか分からない……」

 まあ、一応受け入れられただけ良し?
 これからも「わたあめラッシュ」を使っていくとするか。

 そうして、尋ねてくるコメントが目に入る。
 
《前はどうやって帰ったんだ?》

「前はナナミをかついで帰りましたね。精神的に疲れていそうでしたし」

《優しい》
《意外とできる男》
《これは惚れちゃってます》

 そう、前に来た時はここで引き返した。
 だけど、あの時に判明していたことがある。

 俺はワイバーンが飛んでいたに目を向ける。

「ここ、さらに深い階層があるみたいなんですよね」

《え?》
《まじ?》
《でもここSランクダンジョンだろ?》

「はい、そうですね」

 コメントや前にナナミが言っていた通り、この『翼竜ダンジョン』はSランクダンジョン。
 ダンジョンの中では最上位・・・ランクとして認定されているみたい。
 
 そして、便利なワープ床で移動できるこの場所は『下層』。
 次の階層はおのずと決まる。

「『深層』へ進んでみたいと思います」

《深層……》
《そうなるよな》
《大丈夫なのか?》
《まあホシ君なら……》
《でも深層だぞ?》
《探索者の俺が言う。やめておいた方がいい》

 俺がそう告げると、案の定反対の声が上がる。
 俺も深層についてはちょろっと調べてきた。

 ダンジョンには、上から上層・中層・下層と呼ばれる階層がある。
 下にいけばいくほど難しいそうだ。

 そんな中で、一部の・・・ダンジョンには深層が存在するという。
 そこは今まで潜ってきたダンジョンとはまるで別世界で、難易度はぐっと上がるらしい。

「んー、でも大丈夫じゃないですか」

 ワイバーンがこれぐらいなら、意外と大したことはないと思う。
 みんな怖がりすぎじゃないかな。

《待て待て》
《ここSランクだぞ》
《Sランク深層ってクリアされたことあったか?》
《多分ないだろ》
《ホシ君でもさすがに……》

「そうですか。……分かりました」

 そこまで言われたら仕方がない。

「先っちょだけですから!」

《おい!?》
《ちょ、誰か止めろ!》
《チャラ男みたいのやめろww》
《それ一番信頼できんセリフww》
《無自覚なんやろうなあw》

「れっつごー」

 俺は奥に向かって歩き出した。
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