上 下
1 / 11

第1話 突然の婚約破棄

しおりを挟む
「クラリス・マリエット侯爵令嬢。貴様はエーヴ・クロード伯爵令嬢他ならびにその友人に社交の場で侮辱の数々をおこなった。よって、王太子であるこの私、ディオン・フォルジュに相応しくないと判断して、婚約破棄を言い渡す。そして、私に相応しい知性を兼ね備えたエーヴ・クロード伯爵令嬢を新しい婚約者とする」

 妃教育の最中に呼び出されたから何かと思えば、いきなり婚約破棄の申し渡しですか。
 特に驚きもしない私に対して、王太子であるディオン様は私を蔑んだ目で見遣り、そしてその隣には弱々しそうに彼を頼りながらも、彼に見えないようににやついているクロード伯爵令嬢がいる。

 なるほど、最近やたらと私が悪者にされるような事案が多く発生していたのもこのためですか。

 先日のお茶会の時も紅茶をクロード伯爵令嬢は自らこぼしてドレスを汚したのに、それを私のせいにしていたわね。
 ああ、そうそう、階段でわざと躓いて転んでみせて、私を指さして「押された!」と言い張ってたし。
 他にも私がクロード伯爵の悪口を言っていたとか、私が家の権威を振りかざしてるとかいろいろ噂を立ててたらしいですし。
 そんなの誰が信じるのだろうか、と思っていたけど、まさかこの王太子が信じるとは……。
 しかも、その悪女──クロード伯爵令嬢と今度は婚約なさる気なんて。

「なんだ? あまりの自分の悪事に言葉が出ないか?」

 なんですって? 「自分の悪事」にですって?
 言葉が出ないのはあなたが単純にバカだからよ。
 ああ、あなたを信じていた私がバカみたいじゃない……。

 クロード伯爵令嬢はディオン様の前でか弱い女の子を演じると、彼は「俺が守るから!」といった感じで彼女のうるうるした目を見つめる。
 そうね、まあ彼女は可愛らしい見た目でいかにもお姫様のようなふわっとした雰囲気。
 でもその奥に隠された悪女の顔を、彼はまだ気づいていなさそう。

 はあ、こんな男と離れられてむしろ清々するわ。
 私は最後の別れといわんばかりに素晴らしく品のある動きでカーテシーをすると、笑顔を浮かべて言い放つ。

「ええ、ぜひとも婚約破棄をお受けいたしますわ。クロード伯爵令嬢、王太子殿下をどうぞよろしくお願いいたします」
「なっ!」

 唖然とその場で立ち尽くすディオン様と、頬を引きつりながら顔を歪めるクロード伯爵令嬢。
 ええ、その顔、いい気味だわ。せいぜいそのバカ男に一生振り回されていなさい。
 それに、もうあなたはこれで終わりね。

 私はスカートを翻して二人に背を向けると、そのまま両手を扉を開けて退室した──


 煌びやかな絵画や彫刻品の数々が並んでいる廊下を歩きながら、私は少しばかり感傷に浸る。

 気づいていたのよ、ディオン様に好きな人ができたことを。

 知っていたのよ、その人はふんわりとした柔らかい髪と笑顔で皆を魅了するクロード伯爵令嬢だってこと。

 わかっていたのよ、いずれ私はもうあなたの傍にいられなくなることを。


 私は段々勉学にも励まなくなった彼に、何度も何度も声をかけてきちんと勉強をしてほしいとお願いしたわ。
 だけど、いくら私があなたに言っても、あなたの耳に、心にはもう私の思いは届かなかった──

 このままではあなたは王太子でいられなくなってしまうわ、と言ったけどそれもだめだった。
 「そんなことになるわけない」って言い張って、また彼女のところへ行ってしまった。

 あなたを思う気持ちはもう、届かないわね……。

 そう、なら仕方ないわね。
 あなたにはそれ相応の罰が待っているでしょう。

 あなたが選んだのよ、破滅する未来を──
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

いつの間にかの王太子妃候補

しろねこ。
恋愛
婚約者のいる王太子に恋をしてしまった。 遠くから見つめるだけ――それだけで良かったのに。 王太子の従者から渡されたのは、彼とのやり取りを行うための通信石。 「エリック様があなたとの意見交換をしたいそうです。誤解なさらずに、これは成績上位者だけと渡されるものです。ですがこの事は内密に……」 話す内容は他国の情勢や文化についてなど勉強についてだ。 話せるだけで十分幸せだった。 それなのに、いつの間にか王太子妃候補に上がってる。 あれ? わたくしが王太子妃候補? 婚約者は? こちらで書かれているキャラは他作品でも出ています(*´ω`*) アナザーワールド的に見てもらえれば嬉しいです。 短編です、ハピエンです(強調) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。

乗せられなければ死なずに済んだでしょうに……悲しいことです

四季
恋愛
エリカ・ミレニアムには、幼いうちに家の都合で婚約した婚約者がいた。 二人は仲良かったのだけれど……。

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

皆が憧れる彼の婚約者だった時代がありました

四季
恋愛
私がまだ二十歳だった頃、婚約者がいました。

婚約破棄されたおかげで素敵な元帥様と結ばれました

百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で婚約を破棄された伯爵令嬢のタミーは、気分転換で王都に来ている。凱旋パレードの事故に巻き込まれて、踏んだり蹴ったり。だけどそんなタミーを助けてくれたのは、無骨で優しい元帥ジョザイア・カヴァデイルだった。 (完結済) ======================== (他「エブリスタ」様に投稿)

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます

夜桜
恋愛
 令嬢アリスとアイリスは双子の姉妹。  アリスは辺境伯エルヴィスと婚約を結んでいた。けれど、姉であるアイリスが仕組み、婚約を破棄させる。エルヴィスをモノにしたアイリスは、妹のアリスを氷の大地に捨てた。死んだと思われたアリスだったが……。

婚約破棄をしてくれてありがとうございます~あなたといると破滅しかないので助かりました (完結)

しまうま弁当
恋愛
ブリテルス公爵家に嫁いできた伯爵令嬢のローラはアルーバ別邸で幸せなひと時を過ごしていました。すると婚約者であるベルグが突然婚約破棄を伝えてきたのだった。彼はローラの知人であるイザベラを私の代わりに婚約者にするとローラに言い渡すのだった。ですがローラは彼にこう言って公爵家を去るのでした。「婚約破棄をしてくれてありがとうございます。あなたといると破滅しかないので助かりました。」と。実はローラは婚約破棄されてむしろ安心していたのだった。それはローラがベルグがすでに取り返しのつかない事をしている事をすでに知っていたからだった。

処理中です...