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番外編 毒研究の遠征は波乱の予感(3)
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「昔、ここにお二人で……?」
「ああ」
アンリは記憶を手繰るようにして歩きまわり、ケリス草が多くある場所から少し離れた木の幹に向かう。
そこで彼はしゃがみ込むと、土を掘り始めた。
エリーヌも彼の後を追っていくと、アンリは土の中から何かを取り出す。
「それは?」
「幼かった頃、祖父にもらった懐中時計だ」
高級な素材でできているのだろう錆びることもなく木箱の中で眠っていたそれを取り上げると、彼は時計の中を見る。
そこには小さな花が入っていた。
「それ、スイートアリッサムですね」
「覚えていたんだね」
「ええ、アンリ様との想い出のお花ですから」
アンリは嬉しそうすると、懐中時計を閉じて木箱を閉じた。
「さあ、屋敷に入ろうか」
「いいのですか?」
「ああ、もう家主はいないからね」
寂しそうに呟いた彼の後ろについて屋敷の中へとエリーヌは足を踏み入れる。
古びた扉の音を鳴らして二人は屋敷へと入ると、中にはすぐにリビングが広がっていた。
アンリは見覚えがあるのかそのリビングの脇にある廊下を通り過ぎて、奥の執務室へと入っていく。
執務室は今の時間だと日が当たりづらい場所のため、他の部屋より薄暗い。
本棚には本がびっしりと並んでおり、どれもこれも今では古書と言われるものである。
年季の入った机のほうへとアンリは向かい、上に置かれていた書類に目をやった。
「20年前の研究書類だな」
「おじい様は何か研究をなさっていたのですか?」
エリーヌが尋ねると、アンリは机の上に置いてあった小さな箱を手に取って彼女に見せる。
「考古学者だったんだ。特に古城を専門にしていてね、ほら」
「これは、もしかしてお城の欠片ですか?」
「ああ、これはシャボルード城の城壁の一部だね」
エリーヌでも知っている、シャボルード城はこの国で最も綺麗だと言われていた城である。
「初めてみました」
「戦争で壊れてしまったし、一部分でも残っているのが珍しい。確か十個もないはずだよ」
「すごい……」
アンリはその城壁の箱を置くと、後ろの本棚にある本を一つ取り出す。
そうしていくつかのページをめくった後、あるページで目を止めた。
「エリーヌ、ここ見てごらん」
彼女はアンリの手にある本を一緒に見てみた。
そこにはこの島の地図、そして小さな城と、花畑の絵が描かれている。
「ここにサインがあるから、恐らく祖父が書いたものだろう」
なるほどルイスの絵のうまさは祖父似だったのか、とエリーヌは納得した。
鉛筆のみで描かれているが、花の色まで色づいて見えてくるようだった。
「これ、ケリス草でしょうか?」
「ああ、恐らくそうだろう」
アンリが次のページを見ると、このように書かれていた。
『遺物の成分調査から、メイシュード時代前期のエリカリア島には古城があっただろう。
またすくなくとも中規模集落の形成と人々がそこにおり、生活をしていた。
しかし、やがて天候不順と島の大きな変形によって住めなくなり、人々はこの島を放棄したとみられる』
「ケリス草はこの時代からあったのでしょうか?」
「可能性はあるが、なぜ毒草を育てていたのか」
毒草を育てるメリットはいくつか存在する。
例えば戦争をしている国に武器の一つとして輸出していた場合などが考えられる。
しかし、アンリが知る限り王族の歴史でそうした戦争の武器を輸出した事実はない。
エリーヌとアンリは執務室の本をいくつか漁ってみるも、そうした記述のある本は見当たらなかった。
「少し外の調査をしてみるか」
アンリはエリーヌを連れて城跡がある場所へと向かった──。
「ああ」
アンリは記憶を手繰るようにして歩きまわり、ケリス草が多くある場所から少し離れた木の幹に向かう。
そこで彼はしゃがみ込むと、土を掘り始めた。
エリーヌも彼の後を追っていくと、アンリは土の中から何かを取り出す。
「それは?」
「幼かった頃、祖父にもらった懐中時計だ」
高級な素材でできているのだろう錆びることもなく木箱の中で眠っていたそれを取り上げると、彼は時計の中を見る。
そこには小さな花が入っていた。
「それ、スイートアリッサムですね」
「覚えていたんだね」
「ええ、アンリ様との想い出のお花ですから」
アンリは嬉しそうすると、懐中時計を閉じて木箱を閉じた。
「さあ、屋敷に入ろうか」
「いいのですか?」
「ああ、もう家主はいないからね」
寂しそうに呟いた彼の後ろについて屋敷の中へとエリーヌは足を踏み入れる。
古びた扉の音を鳴らして二人は屋敷へと入ると、中にはすぐにリビングが広がっていた。
アンリは見覚えがあるのかそのリビングの脇にある廊下を通り過ぎて、奥の執務室へと入っていく。
執務室は今の時間だと日が当たりづらい場所のため、他の部屋より薄暗い。
本棚には本がびっしりと並んでおり、どれもこれも今では古書と言われるものである。
年季の入った机のほうへとアンリは向かい、上に置かれていた書類に目をやった。
「20年前の研究書類だな」
「おじい様は何か研究をなさっていたのですか?」
エリーヌが尋ねると、アンリは机の上に置いてあった小さな箱を手に取って彼女に見せる。
「考古学者だったんだ。特に古城を専門にしていてね、ほら」
「これは、もしかしてお城の欠片ですか?」
「ああ、これはシャボルード城の城壁の一部だね」
エリーヌでも知っている、シャボルード城はこの国で最も綺麗だと言われていた城である。
「初めてみました」
「戦争で壊れてしまったし、一部分でも残っているのが珍しい。確か十個もないはずだよ」
「すごい……」
アンリはその城壁の箱を置くと、後ろの本棚にある本を一つ取り出す。
そうしていくつかのページをめくった後、あるページで目を止めた。
「エリーヌ、ここ見てごらん」
彼女はアンリの手にある本を一緒に見てみた。
そこにはこの島の地図、そして小さな城と、花畑の絵が描かれている。
「ここにサインがあるから、恐らく祖父が書いたものだろう」
なるほどルイスの絵のうまさは祖父似だったのか、とエリーヌは納得した。
鉛筆のみで描かれているが、花の色まで色づいて見えてくるようだった。
「これ、ケリス草でしょうか?」
「ああ、恐らくそうだろう」
アンリが次のページを見ると、このように書かれていた。
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しかし、やがて天候不順と島の大きな変形によって住めなくなり、人々はこの島を放棄したとみられる』
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「可能性はあるが、なぜ毒草を育てていたのか」
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例えば戦争をしている国に武器の一つとして輸出していた場合などが考えられる。
しかし、アンリが知る限り王族の歴史でそうした戦争の武器を輸出した事実はない。
エリーヌとアンリは執務室の本をいくつか漁ってみるも、そうした記述のある本は見当たらなかった。
「少し外の調査をしてみるか」
アンリはエリーヌを連れて城跡がある場所へと向かった──。
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