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番外編 毒研究の遠征は波乱の予感(1)
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「アンリ様、これはどうなさいますか?」
「ああ、これはそこにしまっておいてくれるか?」
「かしこまりました」
少し夏の陽気が感じられるようになった日、エリーヌとアンリは彼の自室で作業をしていた。
エリーヌとルイスが毒草によって不調になってしまったように、世間には同じようにあの毒草で触れたことによって失明した人がいた。
それによって国王の命を受けて、アンリは薬の研究と本格的な実用化に向けて動き出たのだ。
エリーヌもその補佐役として研究に参加していた。
(あれ、これはなんでしょうか?)
本棚に資料を片付けていたエリーヌは古そうな手帳を見つけた。
手に取ってペラペラとめくってみると、そこにはある地域の地図と二人が研究していた毒草の絵が描かれている。
「アンリ様、これってなんでしょうか?」
「ん?」
研究用の眼鏡をはずしたアンリはエリーヌのほうに振り返った。
手渡された本を確認すると、アンリは怪訝そうな顔で話し始める。
「これは、私の母親の実家がある地域だが、おかしいな。今の地図とかなり地形が異なる」
「そうなのですか?」
「ああ」
そう言ってアンリは地図の下のほうを指した。
「ここに島なんてあっただろうか?」
アンリは机に立てかけてある地図を取り出して、その地域を探し出して見比べてみる。
「やっぱりだな、ここには今の地図に島はない」
手を口元に当てて考え込んだアンリは、何かに気づいたようにまた新たな資料を取り出す。
そうしてせわしなくページをめくっていくと、あるところでその手が止まった。
「これか」
エリーヌは後ろからアンリの手元を覗き込む。
「島の封鎖……?」
「ああ、数日前にある島が封鎖されている」
すると、エリーヌが机の端の方にある封書に気づいて手に取った。
封はすでに開けてあったため、エリーヌは中身を空けて確認してみる。
(あれ、これって王国勅書……?)
国王の署名付きの王国で最も権威ある命令書である。
(どうしてこれが……)
するとそこには『エリカリア島と毒草について、アンリ・エマニュエルに調査を命じる』と書かれている。
(もしかして、アンリ様まさか……!?)
エリーヌは一つの推測をもとに恐る恐るアンリに声をかけてみる。
「あの……アンリ様、これはもしかして」
「ん?」
そう言ってエリーヌから王国勅書を受け取るとじっと見つめた後、それをそっと置いた。
そうしてエリーヌからゆっくりと目を逸らした後、立ち上がて宣言する。
「エリーヌ、私は毒草の研究でエリカリア島に出かけてくる。留守をお願いできるか?」
(アンリ様、また見て内容確認せずに放置したのね……)
相変わらずの夫の悪癖に大きなため息をつくと、エリーヌはアンリの腕を掴んだ。
「ふえ!? エリーヌ!? え、なになに!? ちょっと朝からそんな甘い雰囲気は、えっと、無理だよ、そんな気が早い……」
「私も同行させてください!!!」
「あ……そっちね」
エリーヌからの甘い雰囲気への誘いと(勝手に)勘違いしたアンリは、肩を大きく落とした。
こうして、エリーヌとアンリはエリカリア島の調査へと向かうことになったのだった──。
「ああ、これはそこにしまっておいてくれるか?」
「かしこまりました」
少し夏の陽気が感じられるようになった日、エリーヌとアンリは彼の自室で作業をしていた。
エリーヌとルイスが毒草によって不調になってしまったように、世間には同じようにあの毒草で触れたことによって失明した人がいた。
それによって国王の命を受けて、アンリは薬の研究と本格的な実用化に向けて動き出たのだ。
エリーヌもその補佐役として研究に参加していた。
(あれ、これはなんでしょうか?)
本棚に資料を片付けていたエリーヌは古そうな手帳を見つけた。
手に取ってペラペラとめくってみると、そこにはある地域の地図と二人が研究していた毒草の絵が描かれている。
「アンリ様、これってなんでしょうか?」
「ん?」
研究用の眼鏡をはずしたアンリはエリーヌのほうに振り返った。
手渡された本を確認すると、アンリは怪訝そうな顔で話し始める。
「これは、私の母親の実家がある地域だが、おかしいな。今の地図とかなり地形が異なる」
「そうなのですか?」
「ああ」
そう言ってアンリは地図の下のほうを指した。
「ここに島なんてあっただろうか?」
アンリは机に立てかけてある地図を取り出して、その地域を探し出して見比べてみる。
「やっぱりだな、ここには今の地図に島はない」
手を口元に当てて考え込んだアンリは、何かに気づいたようにまた新たな資料を取り出す。
そうしてせわしなくページをめくっていくと、あるところでその手が止まった。
「これか」
エリーヌは後ろからアンリの手元を覗き込む。
「島の封鎖……?」
「ああ、数日前にある島が封鎖されている」
すると、エリーヌが机の端の方にある封書に気づいて手に取った。
封はすでに開けてあったため、エリーヌは中身を空けて確認してみる。
(あれ、これって王国勅書……?)
国王の署名付きの王国で最も権威ある命令書である。
(どうしてこれが……)
するとそこには『エリカリア島と毒草について、アンリ・エマニュエルに調査を命じる』と書かれている。
(もしかして、アンリ様まさか……!?)
エリーヌは一つの推測をもとに恐る恐るアンリに声をかけてみる。
「あの……アンリ様、これはもしかして」
「ん?」
そう言ってエリーヌから王国勅書を受け取るとじっと見つめた後、それをそっと置いた。
そうしてエリーヌからゆっくりと目を逸らした後、立ち上がて宣言する。
「エリーヌ、私は毒草の研究でエリカリア島に出かけてくる。留守をお願いできるか?」
(アンリ様、また見て内容確認せずに放置したのね……)
相変わらずの夫の悪癖に大きなため息をつくと、エリーヌはアンリの腕を掴んだ。
「ふえ!? エリーヌ!? え、なになに!? ちょっと朝からそんな甘い雰囲気は、えっと、無理だよ、そんな気が早い……」
「私も同行させてください!!!」
「あ……そっちね」
エリーヌからの甘い雰囲気への誘いと(勝手に)勘違いしたアンリは、肩を大きく落とした。
こうして、エリーヌとアンリはエリカリア島の調査へと向かうことになったのだった──。
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