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第20話 初めての共同作業は毒研究
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エリーヌの歌声を奪った原因と、アンリの弟であるルイスの目を奪った原因が同じ毒草であるかもしれないと判明してから数日後──
アンリの研究室では机を二つ置き、その間にエリーヌとアンリは座っていた。
「アンリ様、この植物は細かく切ればよろしいでしょうか?」
「ああ、必ず手袋をつけてね」
「かしこまりました」
「エリーヌ、これを水に浸しておいてもらえるか?」
「はい、再び10分ほどで大丈夫でしょうか」
「いや、今度は1時間にしてほしい」
「かしこまりました」
背中合わせで二人は何度か振り返って声をかけながら、作業を進めていく。
アンリがいつものように研究を進めつつも、エリーヌがサポートできることをおこなっていた。
まさに二人三脚で進めている『毒』の研究──
エリーヌとアンリが例の毒草を特定した後、すぐにアンリは行動に出た。
次の日に馬車を走らせてルイスが目を患った場所にもう一度向かったのだが、すでに当時と生態系が変わっていたのか一日がかりで探しても見つからなかった。
王宮から距離を置いているにしろ、王族関係者の公務やエマニュエル公爵としての仕事からは逃れられずアンリは翌日から仕事に忙殺されてしまう。
さらに運の悪いことに王国が加盟している同盟国との三年に一度の会議である『四か国会談』の開催が来月に迫っており、その準備の仕事もあった。
こうしたアンリの多忙さに立ち上がったのがエリーヌだった。
公務や仕事をすぐに手伝うことは難しいため、夫妻に届く各お茶会や夜会の招待状の返事や管理を請け負うことにした。
人付き合いがあまり得意ではない夫に代わり、角が立たぬようさらにアンリの負担も減らせるように日程も調整して手紙を書く。
夜会に出席できない代わりに、自分が詫びの贈り物を相手に送るなどの気遣い。
そしてお茶会には自ら進んで参加して、社交界の縁を切れぬように心掛けた。
そんな彼女をさらにロザリアがサポートし、ディルヴァールがアンリを助けた。
まさに一家総出で忙しさに立ち向かった。
そうして出来たわずかな時間を毒草の研究にあてて、二人は寝る間も惜しんで作業を進めていく──
「エリーヌ、君は少し寝たほうがいい」
「いいえ、アンリ様のほうこそ、ひどい顔ですよ」
「その言い方こそひどいんじゃないか?」
「ふふ、では夕食を一緒に食べて、今日はきちんと休みましょう」
「ああ、そうしようか」
ちょうど二人が夕食の話をしていた頃、研究室の扉をノックする音が聞こえた。
「アンリ様、エリーヌ様、夕食のお時間でございますが、本日もここで召し上がりますか?」
「いや、今日はダイニングできちんと取る。ごめん、いつもこんな場所まで運ばせて……」
「──っ!!」
「どうしたのロザリア」
アンリの言葉があまりに衝撃的だったようで、ロザリアは目を丸くしながら思わず次の言葉を紡げずに立ち尽くしている。
そうして、ハッと我に返ったかと思えば小声で話し始めた。
「……なこと、はじめて……」
「え?」
「アンリ様が人並みに食事をとろうとなさっているなんて……いつも研究しながら作業のように召し上がっていたのに……!」
「ロザリア、俺をそんな変人みたいに……」
「変人」と言い放った途端、エリーヌとロザリアは同時にアンリをまじまじと見つめる。
「え?」
「いや、アンリ様は十分変人かと」
「ロザリア!?」
「はい、あまりお見掛けしないお人といいますか、その、えっと、変わってる方……?」
「エリーヌ、それフォローになってないから」
エリーヌはそーっとロザリアに近づくと、ひそひそと内緒話をしている。
二人はアンリは変人か、変人でないかについて討論をしていた。
「だから、変人についてそこまで食いつかなくていいから!!」
──結果、アンリは変人であるかどうか、についてディルヴァールをはじめ、屋敷の者全てに問いかけてみた。
しかし、やはり予想通り「変人でない」と否定をはっきりする声は出てこなかった。
アンリの研究室では机を二つ置き、その間にエリーヌとアンリは座っていた。
「アンリ様、この植物は細かく切ればよろしいでしょうか?」
「ああ、必ず手袋をつけてね」
「かしこまりました」
「エリーヌ、これを水に浸しておいてもらえるか?」
「はい、再び10分ほどで大丈夫でしょうか」
「いや、今度は1時間にしてほしい」
「かしこまりました」
背中合わせで二人は何度か振り返って声をかけながら、作業を進めていく。
アンリがいつものように研究を進めつつも、エリーヌがサポートできることをおこなっていた。
まさに二人三脚で進めている『毒』の研究──
エリーヌとアンリが例の毒草を特定した後、すぐにアンリは行動に出た。
次の日に馬車を走らせてルイスが目を患った場所にもう一度向かったのだが、すでに当時と生態系が変わっていたのか一日がかりで探しても見つからなかった。
王宮から距離を置いているにしろ、王族関係者の公務やエマニュエル公爵としての仕事からは逃れられずアンリは翌日から仕事に忙殺されてしまう。
さらに運の悪いことに王国が加盟している同盟国との三年に一度の会議である『四か国会談』の開催が来月に迫っており、その準備の仕事もあった。
こうしたアンリの多忙さに立ち上がったのがエリーヌだった。
公務や仕事をすぐに手伝うことは難しいため、夫妻に届く各お茶会や夜会の招待状の返事や管理を請け負うことにした。
人付き合いがあまり得意ではない夫に代わり、角が立たぬようさらにアンリの負担も減らせるように日程も調整して手紙を書く。
夜会に出席できない代わりに、自分が詫びの贈り物を相手に送るなどの気遣い。
そしてお茶会には自ら進んで参加して、社交界の縁を切れぬように心掛けた。
そんな彼女をさらにロザリアがサポートし、ディルヴァールがアンリを助けた。
まさに一家総出で忙しさに立ち向かった。
そうして出来たわずかな時間を毒草の研究にあてて、二人は寝る間も惜しんで作業を進めていく──
「エリーヌ、君は少し寝たほうがいい」
「いいえ、アンリ様のほうこそ、ひどい顔ですよ」
「その言い方こそひどいんじゃないか?」
「ふふ、では夕食を一緒に食べて、今日はきちんと休みましょう」
「ああ、そうしようか」
ちょうど二人が夕食の話をしていた頃、研究室の扉をノックする音が聞こえた。
「アンリ様、エリーヌ様、夕食のお時間でございますが、本日もここで召し上がりますか?」
「いや、今日はダイニングできちんと取る。ごめん、いつもこんな場所まで運ばせて……」
「──っ!!」
「どうしたのロザリア」
アンリの言葉があまりに衝撃的だったようで、ロザリアは目を丸くしながら思わず次の言葉を紡げずに立ち尽くしている。
そうして、ハッと我に返ったかと思えば小声で話し始めた。
「……なこと、はじめて……」
「え?」
「アンリ様が人並みに食事をとろうとなさっているなんて……いつも研究しながら作業のように召し上がっていたのに……!」
「ロザリア、俺をそんな変人みたいに……」
「変人」と言い放った途端、エリーヌとロザリアは同時にアンリをまじまじと見つめる。
「え?」
「いや、アンリ様は十分変人かと」
「ロザリア!?」
「はい、あまりお見掛けしないお人といいますか、その、えっと、変わってる方……?」
「エリーヌ、それフォローになってないから」
エリーヌはそーっとロザリアに近づくと、ひそひそと内緒話をしている。
二人はアンリは変人か、変人でないかについて討論をしていた。
「だから、変人についてそこまで食いつかなくていいから!!」
──結果、アンリは変人であるかどうか、についてディルヴァールをはじめ、屋敷の者全てに問いかけてみた。
しかし、やはり予想通り「変人でない」と否定をはっきりする声は出てこなかった。
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