【本編完結】婚約破棄されて嫁いだ先の旦那様は、結婚翌日に私が妻だと気づいたようです

八重

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第10話 夫婦として……

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 相変わらず朝の弱いエリーヌは、朝の日差しの気配を感じながらも眠たい目をこすっては再び目を閉じてしまう。
 朝とはいえだいぶ夏の暑さが出てきたこの頃は、無理矢理起こされるような気がして余計に苦手だった。

「う~ん……」
「おはようございます、エリーヌ様」
「むう……」

 もう慣れた手つきでエリーヌを起こすと、水の入ったコップを手渡す。
 喉が渇いていたのかそれを一気に飲み干したエリーヌは、ようやく起きたというように伸びをする。

「おはようございます、エリーヌ様」
「おはようございます」

 髪を梳きながらロザリアはエリーヌに今日の予定について伝える。

「エリーヌ様、本日少々お仕事をお願いしたく」
「え? 私にできることがあるのですか?」
「はい、奥様しかできないことでございます」

 ロザリアは形のいい唇を上にあげて言った──



◇◆◇



 ロザリアと共に馬車に乗り、エリーヌは町に降り立った。
 先日買い物に来たばかりであったが、やはり彼女にとってここはとても好みであったようで、何度も周りを見渡しては嬉しそうにする。

「ロザリア、今日もお買い物ですか?」
「いいえ、今日は違うのです。こちらへ」

 近くにあった古民家を改築したウッド基調のカフェに入ると、マスターに挨拶をする。
 50代ほどの白髪まじりのダンディーな彼は手を胸に当てて品よくお辞儀をすると、奥の方にあるソファに二人を連れて行く。

「今紅茶をお持ちいたしますので、少々お待ちくださいませ」
「ありがとうございます」

 こうした庶民でも利用できるカフェに来た事は初めてで、エリーヌはやはりここでも好奇心旺盛にまわりを見渡す。
 観葉植物に刺繍の飾り、それにカウンターにはサイフォンなどのコーヒーの道具もあった。
 先程まで何かスイーツを焼いていたのか、バターのような香りが店内に広がる。

「いい香りですね」
「ええ、ここのお料理やスイーツはとても美味しいですよ」

 そうして話しているうちに紅茶が出てきた。
 ストレートティーではなく、ほんのわずかに甘い香りがする。
 匂いからそれがアップルであることがわかった。

 いい匂い、とそれを口にしていた時、カフェの扉が開いた。

「え? エリーヌ?」

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはアンリの姿があった。

「アンリ様? どうして」
「エリーヌこそ」

 まさかの遭遇に驚きを隠せない二人は、きょとんとしてその場に立ち尽くす。
 その様子を気にすることなくアンリの後ろから現れたディルヴァールがロザリアに声をかけた。

「お待たせいたしました。準備ができたようです」
「かしこまりました」

 ロザリアは彼の言う”準備”が何かわかったようで、エリーヌを誘導する。
 皆でそろって外に出たとき、ようやくそれはわかった──


「「「おめでとうございます!!」」」

 大勢の民衆の声がカフェから出てきたエリーヌとアンリに向けられている。

「え?」
「これは……?」

 二人を囲うように町人が大勢集まり、そして口々に祝いの言葉をかけながら拍手をしている。
 さらに建物の上からは花びらが多く巻かれており、二人の視界を華やかに彩った。

「ご結婚おめでとうございます。坊ちゃん」

 手に二人への贈り物を持った年配の女性がエリーヌとアンリに歩み寄って来る。

「おや、ジュリア町長ではないか」
「え……?!」

 エリーヌはその女性に見覚えがあった。
 なぜならば先日ルジュアル細工を売っていた店主だったからだ。

「店主の方!」
「ええ、先日はお買い上げありがとうございました」
「やはり、あれは町長のお店のものだったか」

 二人の胸元にはそのネックレスが光っており、町長は嬉しそうに微笑んでいる。

「ささやかながら、わたくしたち皆からお祝いの品をお渡ししたく集まりました」
「そうだったのか、皆仕事で忙しいところ悪いな」
「いえ、坊ちゃんがご結婚とあらば皆集まります! それに、お二人にお祝いの言葉を言いたかったのです」

 エリーヌのもとに小さな子供がやってきて、花を手渡す。

「エリーヌさま、おめでとうございます!」
「ありがとう」

 しゃがんで花を受け取ったエリーヌは、アンリにそれを見せる。
 ふふっと目を合わせて笑い合うと、その雰囲気に町人たちも皆和んで笑顔を見せた。

「皆、本当にありがとう。私が結婚するなんて、私が一番びっくりしているんだ。エリーヌはとても素敵な女性だから、皆もよろしく頼む。だが……」
「え……?」

 アンリはそう言いながらぐいっとエリーヌを自分自身に近づけて肩を抱く。

「妻に手を出したら許しはしないからな」

 そう言ってふふ、っと冗談っぽく笑った。
 花びらが風で舞い上がり、ひらひらと町中を包み込む。

 アンリはそっとエリーヌの手を握る。

「アンリ様……」

 エリーヌが彼のほうを見上げると、照れ臭そうに目を合わせずに前を向いていた──
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