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第6話 夫のためになにができるか
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「わあ、素敵な市場ですね!」
「ええ、市街地までは遠いのでこちらでまずはと思いましたが、いかがでしょうか?」
「素敵です! 雑貨屋さんなどもたくさんありますし、見るだけで楽しいです」
実際に王都付近の大きな店にもあまり行ったことがなかったエリーヌは、買い物という行為そのものにも興奮していた。
舞台やコンサートが多かった彼女は、あまり買い物自体もしたことがなかった。
もちろん生活に必要な日用品などは使用人が買っていたが、同じ年頃の令嬢たちは皆流行りの店に行ってお茶をしたり、服を買ったりする。
貴族御用達や貴族しか入れない店も多いため、令嬢たちも安心して遊べた。
「これ、すごく綺麗ですね」
「この地方で有名なルジュアル細工ですね」
「るじゅある?」
「何度か重ねて天然樹脂を塗って、そこに香り付きの香料を加えたものを塗るんです。光沢と色合いが特徴の工芸技法です」
太陽にかざしてその光沢と色味を確認してみると、確かに見たことがないほど輝いている。
宝石とも違って複雑な色合いがその工芸品らしさを表していて、エリーヌは一目で気に入った。
「おや、見かけない顔だね。ロザリアが連れているってことはアンリ坊ちゃんのとこのお客人かい?」
「いいえ、彼女はアンリ様の奥様ですよ」
「まあっ! ご結婚なさったんかいっ!」
「ええ、まあ本人はいつものように大ぴらに自分のことは言わないお人ですので、ご報告が遅れて申し訳ございません」
「いいや~! 坊ちゃんに奥様が出来たらもうそれは町みんなで大喜びだよ。奥様はどこかのご令嬢ですか?」
「はい、ブランシェ家のものでした」
「それはっ! ご無礼をお許しください」
「とんでもないです。あの、このネックレスって二つありますか?」
「ん? ええ、色違いでしたら……。ピンクとブルーの二色です」
工芸品屋の店主から商品を見せてもらうと、じっとそれを見つめてみる。
二つのそれはペアになっており、合わせると花の形の縁ができるようになっていた。
「あの……これ、一つずついただけませんか?」
「ええ、もちろんです。坊ちゃんにですか?」
「はい、喜んでくださるといいのですが」
そんな会話をしながら、雑貨屋を後にする。
「アンリ様への贈り物を買いたかったのですね」
「ええ、これ、ロザリアから渡しておいてくれる?」
「嫌です」
「え?」
そう言って店主に綺麗に包んでもらった贈り物を突き返される。
エリーヌはまたよくないことをしたのかと思ったが、そういう返答ではなかった。
「これはエリーヌ様からお渡しください。それと、こちらも」
そう言って大事にしまっておいたのか、胸元からしわくちゃになった紙を取り出して渡す。
「これ……」
「僭越ながら、ゴミではないと判断してとっておきました」
それは今朝方アンリに向けて書いた手紙だった。
結局納得がいかずにそのまま捨ててしまったのだが、それをロザリアは見つけてとっておいたのだ。
(内容があまりにも自分語りになってしまったと思ったけれど、そうよね。素性も知らない人間が妻なのも嫌よね)
「ありがとう、ロザリア、帰ったらアンリ様に渡しに行くわ」
「ええ、きっと今アンリ様はエリーヌ様からの贈り物なら飛んで喜びますわ」
「そうかしら……」
「ええ、そうですわ」
いつものように優しくて柔らかな微笑みを向けて、エリーヌに言った。
(受け取ってもらえるかしら)
エリーヌは帰りの馬車の中で大事に贈り物と手紙を抱えて、思いを込めていた──
「ええ、市街地までは遠いのでこちらでまずはと思いましたが、いかがでしょうか?」
「素敵です! 雑貨屋さんなどもたくさんありますし、見るだけで楽しいです」
実際に王都付近の大きな店にもあまり行ったことがなかったエリーヌは、買い物という行為そのものにも興奮していた。
舞台やコンサートが多かった彼女は、あまり買い物自体もしたことがなかった。
もちろん生活に必要な日用品などは使用人が買っていたが、同じ年頃の令嬢たちは皆流行りの店に行ってお茶をしたり、服を買ったりする。
貴族御用達や貴族しか入れない店も多いため、令嬢たちも安心して遊べた。
「これ、すごく綺麗ですね」
「この地方で有名なルジュアル細工ですね」
「るじゅある?」
「何度か重ねて天然樹脂を塗って、そこに香り付きの香料を加えたものを塗るんです。光沢と色合いが特徴の工芸技法です」
太陽にかざしてその光沢と色味を確認してみると、確かに見たことがないほど輝いている。
宝石とも違って複雑な色合いがその工芸品らしさを表していて、エリーヌは一目で気に入った。
「おや、見かけない顔だね。ロザリアが連れているってことはアンリ坊ちゃんのとこのお客人かい?」
「いいえ、彼女はアンリ様の奥様ですよ」
「まあっ! ご結婚なさったんかいっ!」
「ええ、まあ本人はいつものように大ぴらに自分のことは言わないお人ですので、ご報告が遅れて申し訳ございません」
「いいや~! 坊ちゃんに奥様が出来たらもうそれは町みんなで大喜びだよ。奥様はどこかのご令嬢ですか?」
「はい、ブランシェ家のものでした」
「それはっ! ご無礼をお許しください」
「とんでもないです。あの、このネックレスって二つありますか?」
「ん? ええ、色違いでしたら……。ピンクとブルーの二色です」
工芸品屋の店主から商品を見せてもらうと、じっとそれを見つめてみる。
二つのそれはペアになっており、合わせると花の形の縁ができるようになっていた。
「あの……これ、一つずついただけませんか?」
「ええ、もちろんです。坊ちゃんにですか?」
「はい、喜んでくださるといいのですが」
そんな会話をしながら、雑貨屋を後にする。
「アンリ様への贈り物を買いたかったのですね」
「ええ、これ、ロザリアから渡しておいてくれる?」
「嫌です」
「え?」
そう言って店主に綺麗に包んでもらった贈り物を突き返される。
エリーヌはまたよくないことをしたのかと思ったが、そういう返答ではなかった。
「これはエリーヌ様からお渡しください。それと、こちらも」
そう言って大事にしまっておいたのか、胸元からしわくちゃになった紙を取り出して渡す。
「これ……」
「僭越ながら、ゴミではないと判断してとっておきました」
それは今朝方アンリに向けて書いた手紙だった。
結局納得がいかずにそのまま捨ててしまったのだが、それをロザリアは見つけてとっておいたのだ。
(内容があまりにも自分語りになってしまったと思ったけれど、そうよね。素性も知らない人間が妻なのも嫌よね)
「ありがとう、ロザリア、帰ったらアンリ様に渡しに行くわ」
「ええ、きっと今アンリ様はエリーヌ様からの贈り物なら飛んで喜びますわ」
「そうかしら……」
「ええ、そうですわ」
いつものように優しくて柔らかな微笑みを向けて、エリーヌに言った。
(受け取ってもらえるかしら)
エリーヌは帰りの馬車の中で大事に贈り物と手紙を抱えて、思いを込めていた──
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