王子として育てられた私は、隣国の王子様に女だとバレてなぜか溺愛されています

八重

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第2話 秘密の共有

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(やばい……隣国の王子に女だとバレた!?)

「リオ王子ーー?! リオ王子ーーー?!」

 さらに部屋の外ではリオを探すメイドの声が響く。
 部屋には王子、外にはメイド。
 すると、フィルがすたすたとリオのほうへと近寄ってくる。

(もう終わりだ……)

 そうリオは心の中で思ったが、フィルはリオの腕を引っ張るとベッドの脇にあった机に彼女を隠す。
 そして、自身はドアを開けるとメイドに話しかけた。

「リオ王子なら先程あちらのほうに行くのを見た」
「フィル様! かしこまりました、ありがとうございます!!」

 メイドはフィルに深く一礼すると、そのまま足早にフィルの指したほうへと向かって行った。

 部屋に沈黙が訪れたことにより、リオはようやく頭が回ってフィルが自分を助けてくれたことを理解した。
 慌てて持っていた男装用の服に袖を通すと、机の裏からフィルの様子を伺うようにそっと出る。

「フィル……王子ですよね?」
「ああ」
「助けていただき、ありがとうございました」
「別に構わない」

 何の興味もないというように椅子にかけるフィルに、リオは近づいていく。
 性別のことを聞こうか聞くまいかともぞもぞしていると、言いたいことが分かったのかフィルはリオより先に言葉を発した。

「見たことは誰にも言わない、もちろん父上にもだ」
「──っ!?」

 その言葉を言うと、「もういけ」と言って退室を促す。
 リオは精いっぱいのお辞儀での礼をしたあと、部屋をあとにした。


 リオが先程メイドと分かれた廊下の場所にいくと、ちょうど必死にリオを探しているメイドの姿が映った。

「大変申し訳ない!」
「リオ王子!! よかった!!」
「すみません、お手洗いを探していたら迷子になってしまいまして」
「そうでしたか、何事もなくよかったです。それでは食事の間へ向かいましょうか」
「はいっ!」

 こうして何事もなかったかのように食事の間へ移動して、リオは手厚いもてなしを受けて宮殿へと帰った。



◇◆◇



 宮殿に戻ると、サンクチュアリの広間にノエル王がいた。

「おかえりなさい! ずいぶん遅かったのね!」
「申し訳ございません、王から手厚い食事のもてなしをしていただきまして」
「まあ! 毒とか盛られなかった?!!!」
「さすがに大丈夫です」
「はあ……キャロルちゃんに何かあったらあのクソ変態王をぶん殴ってやる!」
「よしてください、母上」

 ありもしない毒盛り未遂事件で騒ぎ立てる母をなぐさめ、ようやくベッドに入ったリオ。
 頭の中では今日のフィルにかばってもらったあの瞬間が思い出される。

(背が高く、綺麗な銀髪の青年。確か年は20歳と聞いていたけど、かなり大人びた感じだった)

 リオはごろんと横向きになり、シーツを引っ張って顔をうずめる。

(本当にばらしてないのかしら?)

 そう不安に駆られながら、うとうととリオは眠りについた──



 翌朝、なんとリオは再び隣国の宮殿に足を運んでいた。

「まあ、フィル様にお会いしたいと」
「はい、同じ年頃だと伺っておりますので、ぜひお話をと」
「それはフィル様も喜びますわ! フィル様には許可をいただいておりますので、自室へご案内いたします」

 メイドに案内され、昨日の順路をなぞるように廊下を進みながらフィルの自室へと到着した。

「フィル様、リオ王子がお見えになりました」
「入れ」

 「失礼いたします」とメイドが言いながら、ドアを開けるとそこには昨日会ったフィルがいた。
 メイドが一礼して去ると、リオはそっとドアを閉める。

「何しに来た」

(さっそく冷たい歓迎だな……)

 窓際の椅子で本を読みながらリオに声をかける。

「まあ、おおよそ俺が誰かに秘密をばらしていないか気になって見に来たというところだろう」

(ば、ばれてる)

「ばらさないといったはずだ」

 そういって本をぱたりと閉じるとリオに近づき、顔を覗き込む。

「安心しろ、どっからどう見ても『女です』という顔をしている」
「そ、そんなことはありません!」
「これで気づかないまわりがバカだな」
「私は立派な男です!」

 そういうリオの顔のすぐ横に手のひらをバンと打ち付けると、身体を密着させる。

「秘密を守る代わりに条件がある」
「条件?」

「毎日俺に会いに来い」
「……はい?」

 にやりと笑うフィルの真意がつかめず、呆然と立ち尽くすリオだった。
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