呪われ令嬢、王妃になる

八重

文字の大きさ
上 下
12 / 23

第11話 陛下の執務室

しおりを挟む
 魔女との邂逅を終えた二人とセドリックら兵士は王宮へと無事に帰還していた。

「お嬢様っ!」
「アリシア……」
「セドリック様からお嬢様と陛下が魔女に会ったと聞きましたっ! お怪我はありませんか? 大丈夫ですか?!!!」
「落ち着いて。ジェラルド様とセドリック様が守ってくださったから怪我はないわ。大丈夫よ」
「よかった……」

 アリシアは安心したようにそっと息を吐くと、シェリーを抱きしめた。
 ぐすんぐすんと聞こえる声から心から心配をさせてしまったのだと、シェリーは申し訳思うと同時にそこまで思ってくれるアリシアのことを大事に思い抱きしめ返す。



◇◆◇



 それから数日、シェリーは妃教育に、そしてジェラルドは公務にと励んでいた。
 そんな二人は食事は共にするものの、しばらくゆっくりと話すことができずにいてシェリーは寂しく思う。

(最近ジェラルド様とお話ができてない。いつもお忙しそうにされていてとても声をかけられない)

「シェリー様! 手が止まっておりますよ!」
「ごめんなさい、クラリス先生。集中できておりませんでした」
「…………シェリー様、この書類を陛下にお渡ししなければならないのですが、これを今から陛下に届けてもらえませんか?」
「──っ!」

 その言葉がシェリーの心を読んでの発言だと気づき、クラリス先生への感謝の気持ちでいっぱいになる。
 椅子を引いて立ち上がってクラリスに近づくと、書類を受け取ってお辞儀をして部屋を後にする。


 壁に花の画が飾られてある廊下を抜けて左に曲がった先の突き当りが、ジェラルドの執務室だった。
 ノックをすると、「入れ」といつもシェリーのかける声色ではなく公務の時のきびきびとした低めの声が聞こえる。
 シェリーはそっと入ると、遠慮がちに執務机で筆を執っているジェラルドに近づいていく。

 しかし、手紙の執筆に集中しているせいかジェラルドはシェリーであることに気づかない。

「書類などはここに置いておいてくれ、後で見る」

 何か声を掛けようとするシェリーだが、あまりに真剣な表情と声色、忙しそうなその様子に彼女は口をつぐんでしまう。
 ジェラルドと話すのはまた今度にしようと考えたシェリーは、言われた通りに書類を机の上におこうとした。

 その時、ふとシェリーの目についてしまった。

「……? ──っ!!!!」

 シェリーは思わず青い目を見開いて言葉を失ってしまった。
 そして思わず口をついて出てしまったのだ。


「──この写真の女性は誰ですか?」


 その声にどきりとしたように顔を上げたジェラルドは、シェリーのほうを見た。

「シェリー……!」

 その瞬間青く晴れた空が見える窓のほうで、小鳥がチュンチュンと鳴いた──
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄され命を落としました。未練を残して死ぬと魔王が生まれると言われてやり直していますが、私の心残りは叶わぬ恋の相手であるあなたです。

石河 翠
恋愛
長年の婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡されたローラ。彼女は笑顔で承諾し、婚約者と浮気相手である親友の結婚を祝う。 ところが婚約者と親友は恨み言を言わない彼女を逆に責める。困った彼女は悪気なく彼らの悪事を明らかにし、バルコニーから飛び降りた。 実はローラは、世界に魔王を生み出さないために婚約破棄を何度も繰り返していた。婚約者への未練など最初からない。むしろ彼女は、教会の司祭に叶わぬ恋をしていた。 婚約者を許すように彼女を諭す天使は、憧れの司祭と同じ顔をしていて……。 片思いをこじらせた愛が重いヒロインと、ヒロインのためなら天使から魔王へのジョブチェンジも喜んでしまうヒーローの恋物語。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 22506823)をお借りしています。

悪役令嬢が天使すぎるとか、マジ勘弁ッ!!

灰路 ゆうひ
恋愛
それは、よくある断罪シーン。 名門貴族学校の卒業パーティーを舞台に、王太子アーヴィンが涙ながらに訴える男爵令嬢メリアを腕に抱き着かせながら、婚約者である侯爵令嬢クララマリアを卑劣ないじめの嫌疑で追及しようとしていた。 ただ、ひとつ違うところがあるとすれば。 一見悪役令嬢と思われる立ち位置の侯爵令嬢、クララマリアが、天使すぎたということである。 ※別の投稿サイト様でも、同時公開させていただいております。

【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢エレノアは、容姿端麗で優秀な兄姉とは違い、容姿は平凡、 ピアノや刺繍も苦手で、得意な事といえば庭仕事だけ。 家族や周囲からは「出来損ない」と言われてきた。 十九歳を迎えたエレノアは、侯爵家の跡取り子息ネイサンと婚約した。 次期侯爵夫人という事で、厳しい教育を受ける事になったが、 両親の為、ネイサンの為にと、エレノアは自分を殺し耐えてきた。 だが、結婚式の日、ネイサンの浮気を目撃してしまう。 愚行を侯爵に知られたくないネイサンにより、エレノアは階段から突き落とされた___ 『死んだ』と思ったエレノアだったが、目を覚ますと、十九歳の誕生日に戻っていた。 与えられたチャンス、次こそは自分らしく生きる!と誓うエレノアに、曾祖母の遺言が届く。 遺言に従い、オースグリーン館を相続したエレノアを、隣人は神・精霊と思っているらしく…?? 異世界恋愛☆ ※元さやではありません。《完結しました》

辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷
恋愛
 ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。 次期公爵との婚約も決まっていた。  しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。 次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。  そう、妹に婚約者を奪われたのである。  そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。 そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。  次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。  これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む

柴野
恋愛
 おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。  周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。  しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。 「実験成功、ですわねぇ」  イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

処理中です...