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第1話 紅茶の香りは事件の始まりに

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 ここ数百年存在していないゆえに、聖女の存在が伝説となっている王国で、今日も優雅に上品に紅茶を嗜む侯爵令嬢がいた。

「うん、いい香りね」

 彼女の形のいい唇が弧を描いた。
 美しい黄金色の長い髪が太陽によって白く輝く。
 その佇まいの美しさから、彼女は『白百合の君』呼ばれている──。

 白い肌と美しい髪、そして全てを見通すサファイアのような瞳を持った彼女、リュミエット・ミラードは社交界の憧れの的であった。


「お嬢様、本日の紅茶は深い味わいとほのかなローズの香りが特徴の茶葉でございます」

「今日の心地よい春日和にぴったりだわ。ありがとう、ギルバート」

 彼女にそう呼ばれたのは、後ろに控えている執事である。
 ギルバートは、ミラード家の執事であり、リュミエット専属執事でもあった。

 彼もまた端正な顔立ちであったが、それだけでなく彼は非常に有能な執事だ。
 リュミエットが7歳の時、彼は父親から引き継ぐ形で彼女の専属執事になったのだが、当時15歳であり、非常に若くてそれは珍しいことであった。
 最初は彼の仕事に対して不安視する声もあったのだが、リュミエットを誘拐しようという輩を一人で一網打尽にしてみせてからは、誰も何も言わなくなった。

 『白百合には黒い薔薇が潜んでいる』と社交界では噂となり、彼女の品の良さから高嶺の花として近づけない者もいれば、その黒薔薇を恐れて近づけないものもいた。

 そんな彼女ゆえに、慕われはするものの本音を打ち明けられる、そんな友人がおらず少し寂しい思いをしているのも事実であった──。

「お嬢様、本日はいかがいたしましょうか」

 学院から戻ってお茶をしていたリュミエットに、ギルバートが声をかけた。

「そうね、今日はゆっくりお茶をして……それから、う~ん」

 リュミエットは悩ましそうに口元に手をあてた。
 その様子を見て、ギルバートが追加の紅茶を注ぎながら、彼女に提案する。

「では、本を読むのはいかがでしょうか?」
「ギルバート」
「はい、なんでしょう」

 リュミエットは、ギルバートをじっと睨みつけて言った。

「あなた、私が本を読んでいたら警護の必要もないし楽できるって思ってるでしょ」

 頬を膨らませながら言うリュミエットに、ギルバートは満面の笑みで答える。

「おや、バレましたか」
「ほら!! やっぱりっ!!!」

 リュミエットが怒ったその時、二人の耳に声が届く。


「きゃあああああー!!!!!!!」


 甲高い悲鳴に、リュミエットはビクリと肩を揺らした。
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