上 下
21 / 23
第二部 婚約者~妃教育編~

第21話 新たな生活の幕開け

しおりを挟む
 フルーリー伯爵当主の代替わりから一か月後、リーズとニコラはいつものように朝食のスープとバケットを食べていた。

「おや、これはベリーかい?」
「そうなの、セリアおばあちゃんから畑の一角を借りて植えてたのが育ったの! 色づきもいいし売ってもよかったんだけど、やっぱりニコラに最初に食べてもらいたくて」
「──っ! 全く俺を乗せるのがうまいんだから」
「別に乗せてなんか……!」
「じゃあ、いただこうかな」

 そう言ってベリーを皿から一つ手に取ると、そのままリーズに差し出す。
 どうして自分に差し出されたのかわからず首をかしげていると、その答えとでもいうかのようにニコラを口を開ける。

「食べさせて」
「えっ!!!」

 思わぬ要求を受けてリーズは顔を赤らめて口をパクパクさせる。
 君が口を開けてどうするのさ、と笑いながら自分でベリーをとろうとした。
 しかし、その手をリーズが止めると、意を決したようにふうと息を吐いて、彼の口に無理矢理入れる。

「──っ!!」
「…………どう? 美味しい?」

 ニコラはリーズの意外な行動に虚を突かれ、そのまま手で顔を覆いながら逸らす。
 もぐもぐと口を動かしながらちらりとリーズに視線を向けると、彼女はテーブルに身を乗り出す勢いで反応を伺っている。
 どうやら相当味の感想が気になるらしい。

 果汁が多く瑞々しい朝採れのベリーは、ほのかな酸味に加えて甘みが後からぶわっと広がる。
 ニコラはじっくりとそれを味わった後で、ようやく口を開いた。

「ふふ、美味しいよ。すごく」
「ほんと?! よかった~」

 安心したように満面の笑みを浮かべると、リーズも一口食べる。

「美味しいっ!!」
「でしょ。一年目からうまくできたね」
「ふふ、教えてくれたセリアおばあちゃんにもお礼言わないと」


 春の陽気が気持ちよく、窓を開けると朝の風が心地よい。
 雪の降るこの地方の寒さが嘘のように、暖かくて過ごしやすい。

 想いを伝え合って以降、二人は甘い新婚生活を送っていた。


 朝食を終えて食器の片づけをしていたリーズに、ニコラが話しかける。

「リーズ、食器の片付けありがとう。終わったら少し話があるんだけど、いいかな?」
「え? 大丈夫だけど、ちょっと待ってね」

 手元にあった最後の皿を洗い終えると、手を拭いてエプロンを脱ぎながらテーブルに座る。

「どうしたの?」
「実は王都から要請が一つあったんだ」
「お仕事?」

 フルーリー伯爵の一件後、キュラディア村に事後処理のために残っていたニコラだったが先日国王よりある命令が下った。

「父上から連絡があった。事後処理の確認は王国側も済んだって。それで……」
「それで?」
「正式に王宮へ戻ることが決定した」
「……え?」

 それはニコラがこの村を去るということ。

(もしかして、このまま会えないってことは……)

 リーズの考えていることがわかったのか、ニコラは安心させるように手を握りながら慎重に伝える。

「そこで一つお願いがあるんだ」
「……私にできることなら」

 ニコラはリーズの目を真っ直ぐに見つめて言った。

「リーズに未来の王妃として一緒に来てもらいたいんだ」

 二人の新たな生活がこうして始まろうとしていた──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

子猫令嬢は婚約破棄されて、獅子となる

八重
恋愛
ウィンダルスの国民は皆生まれた時に、この世界を作ったとされる五神である『獅子』『鷲』『蛇』『山椒魚』『鮫』のうちの一つの神の加護を受ける。 今から100年前に制定された「神位制度」によって、『獅子』が最も良いとされるこの国で、リディ・ヴェルジール公爵令嬢は『獅子』の加護を持つ者として生まれた。 しかし、そんなリディは婚約者である第一王子ミカエラ・ウィンドリアスから、 「そんな貧相な体で明朗さの欠片もないお前は、まるで捨てられた子猫のようだな!」 といわれたことをきっかけに、皆彼女を『子猫令嬢』と呼んだ。 婚約関係もあまりうまくいっていないリディだったが、今度はミカエラの卒業式でなんと婚約破棄される。 彼女は彼がその決断をしないことを願っていたが、叶わなかった。 だから、リディは幼馴染で第二王子であるエヴァンとの計画を実行する。 そうして、『子猫令嬢』リディは、獅子となるために口を開いた──。 ※他サイトでも投稿しております

傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

王太子殿下が私を諦めない

風見ゆうみ
恋愛
公爵令嬢であるミア様の侍女である私、ルルア・ウィンスレットは伯爵家の次女として生まれた。父は姉だけをバカみたいに可愛がるし、姉は姉で私に婚約者が決まったと思ったら、婚約者に近付き、私から奪う事を繰り返していた。 今年でもう21歳。こうなったら、一生、ミア様の侍女として生きる、と決めたのに、幼なじみであり俺様系の王太子殿下、アーク・ミドラッドから結婚を申し込まれる。 きっぱりとお断りしたのに、アーク殿下はなぜか諦めてくれない。 どうせ、姉にとられるのだから、最初から姉に渡そうとしても、なぜか、アーク殿下は私以外に興味を示さない? 逆に自分に興味を示さない彼に姉が恋におちてしまい…。 ※史実とは関係ない、異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。

処理中です...