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第二部
第25話 もう絶対に離さないから
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いつの間にか泣き疲れてベッドにもたれかかるように眠ってしまっていたソフィは、夕日の日差しで目を覚ました。
『ソフィ、起きて』
暖かい光と共に、ソフィの耳には愛しい人の声が聞こえた。
(ジル……? ああ、夢に出てくれたのね……)
おぼろげにそんな風に思って再び目を閉じようとすると、何かあたたかいものが頬に触れる。
それが自分に呼びかけた人物の唇だと気づくのに、数秒かかった──
「ジル……?」
「おはよう、ソフィ」
その瞳を見ただけで彼女は全てがわかってしまった。
ああ、彼は、もしかして……。
「私がわかるの?」
「ああ」
ソフィは震える唇を抑えるように口元を両手で覆うと、再び涙が頬を伝っていく。
そんな彼女にぐいっと身体を近づくと、優しいジルの指先がその雫を拭う。
「ジルっ!!!」
「ソフィ……」
今までずっと一人で抱えてきたものが爆発して、彼女は彼に思いきりすがるように抱き着く。
消さなくちゃいけない、もう思い出してくれることはないかもしれない、と覚悟していた心が救われて、泣きじゃくる。
「あなたのこと、本屋の前で見たの、あなたはもう他の人が好きなんだって諦めようともした」
その言葉でヴィヴィアと会っていた時を見られていたことに彼は気づく。
彼女にとんでもない誤解と不安を与えてしまったと謝罪した。
「不安にさせてごめん。大丈夫。先生とは話をしていただけなんだ」
「本当?」
「ああ、でも、信じてっていうのも虫のいい話だね。もう一人で彼女とは会わない」
「ううん、私が勝手に勘違いしただけだから。ごめんなさい」
「いいや、僕が悪いことをした。ごめん」
記憶がなかったとはいえ、婚約者である彼女を不安にさせてしまった。
だからこそ、あの言葉を言いたいと思い、彼女の頬に手を添える。
「ソフィ、こんな頼りないところもある僕だけど……」
ふわっと風が吹いて二人を優しく包み込む。
「僕と結婚してください」
「──っ!」
あの時のプロポーズと同じ言葉──
ジルは誓うようにソフィの左指のピンクダイヤのリングに唇を当てる。
自らの心をリングに移すようなその仕草に、ソフィの鼓動がドクンと一つ跳ねた。
そうして彼女の中で小さな頃からの記憶、そして彼に守られたこと、愛された日々を思い出した。
「ジル……一つだけ約束」
「うん」
「もう、絶対に私を置いていかないで」
彼女はジルの頬に手を添えると、優しく彼の唇に自らの唇をちょんと当てる。
そのまま自らの人差し指を彼の唇に当てた。
「私もこの唇に誓ってあなたから離れないことを誓います」
二人は目を合わせて微笑むと、もう一度唇を重ねた。
「ソフィ」
「なあに?」
「僕は絶対に離さないから、お願いされても、もう離してあげないからね」
「大好きなあなたとなら、どんなことも乗り越えられる。絶対に……!」
お互いの存在を確かめるようにぎゅっと抱きしめたその手には、誓いのリングが輝いていた──
***************************
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
もしかしたら非公開にする可能性があるので、今後も読み返したい!などの時に作品が見当たらない場合は、「小説家になろう」のほうをご覧ください。
お手数おかけして申し訳ございません!
『ソフィ、起きて』
暖かい光と共に、ソフィの耳には愛しい人の声が聞こえた。
(ジル……? ああ、夢に出てくれたのね……)
おぼろげにそんな風に思って再び目を閉じようとすると、何かあたたかいものが頬に触れる。
それが自分に呼びかけた人物の唇だと気づくのに、数秒かかった──
「ジル……?」
「おはよう、ソフィ」
その瞳を見ただけで彼女は全てがわかってしまった。
ああ、彼は、もしかして……。
「私がわかるの?」
「ああ」
ソフィは震える唇を抑えるように口元を両手で覆うと、再び涙が頬を伝っていく。
そんな彼女にぐいっと身体を近づくと、優しいジルの指先がその雫を拭う。
「ジルっ!!!」
「ソフィ……」
今までずっと一人で抱えてきたものが爆発して、彼女は彼に思いきりすがるように抱き着く。
消さなくちゃいけない、もう思い出してくれることはないかもしれない、と覚悟していた心が救われて、泣きじゃくる。
「あなたのこと、本屋の前で見たの、あなたはもう他の人が好きなんだって諦めようともした」
その言葉でヴィヴィアと会っていた時を見られていたことに彼は気づく。
彼女にとんでもない誤解と不安を与えてしまったと謝罪した。
「不安にさせてごめん。大丈夫。先生とは話をしていただけなんだ」
「本当?」
「ああ、でも、信じてっていうのも虫のいい話だね。もう一人で彼女とは会わない」
「ううん、私が勝手に勘違いしただけだから。ごめんなさい」
「いいや、僕が悪いことをした。ごめん」
記憶がなかったとはいえ、婚約者である彼女を不安にさせてしまった。
だからこそ、あの言葉を言いたいと思い、彼女の頬に手を添える。
「ソフィ、こんな頼りないところもある僕だけど……」
ふわっと風が吹いて二人を優しく包み込む。
「僕と結婚してください」
「──っ!」
あの時のプロポーズと同じ言葉──
ジルは誓うようにソフィの左指のピンクダイヤのリングに唇を当てる。
自らの心をリングに移すようなその仕草に、ソフィの鼓動がドクンと一つ跳ねた。
そうして彼女の中で小さな頃からの記憶、そして彼に守られたこと、愛された日々を思い出した。
「ジル……一つだけ約束」
「うん」
「もう、絶対に私を置いていかないで」
彼女はジルの頬に手を添えると、優しく彼の唇に自らの唇をちょんと当てる。
そのまま自らの人差し指を彼の唇に当てた。
「私もこの唇に誓ってあなたから離れないことを誓います」
二人は目を合わせて微笑むと、もう一度唇を重ねた。
「ソフィ」
「なあに?」
「僕は絶対に離さないから、お願いされても、もう離してあげないからね」
「大好きなあなたとなら、どんなことも乗り越えられる。絶対に……!」
お互いの存在を確かめるようにぎゅっと抱きしめたその手には、誓いのリングが輝いていた──
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ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
もしかしたら非公開にする可能性があるので、今後も読み返したい!などの時に作品が見当たらない場合は、「小説家になろう」のほうをご覧ください。
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