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第一話
未熟な魔法使いは、騎士の甘い誘惑に逆らえない
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「えっと、確かこうするんだよな」
ショウは、見よう見まねで手を大きく振り上げた。しばらくすると、地面から小さな芽がニョキッと出てくる。
「やったっ」
だが、それだけだった。本来なら、芽はあっという間にスクスクと大きくなり、たくさんの果物が収穫できるはず。だが、そうはならない。
「あれ?あれ?」
結局。芽はすぐに枯れてしまった。
東の森に住む美しく偉大な魔法使いローレンス。彼を師匠に持つショウは、かれこれもう3年も修行をしている。本来なら、既に一人前になっているはずなのに。その気配は全くない。と、どこからか笑い声が聞こえてくる。ショウは見なくても、その声が誰なのかすぐにわかった。
「相変わらず意地悪ですね。バトラー様」
振り向けば、案の定そこには騎士のバトラーがいた。短く切り揃えた黒髪に、柔らかな茶色の瞳。いつもニヤニヤして、つかみどころがない人物だ。
「成長しねーな、お前は」
「してますよっ。先週までは、芽さえ出なかったんだから」
ショウがモゴモゴと言い訳をする。太陽の光を浴びて、漆黒の髪がツヤツヤと光を放った。バトラーの瞳が優しく細められる。ショウはその瞳がまともに見れなくて顔を背けた。
(どうしょう。こんな気持ちをバトラー様に知られたら)
ローレンスの弟子になった日。ショウは初めて王室騎士のバトラーと顔を合わせた。その太陽のように眩しい笑顔は、ショウの心を掴んで離さなかった。これが恋なのだと自覚してからは、言葉を交わすだけで緊張する。
(知られたら、きっとバカにされる。笑われる)
バトラーは遠慮のない男だ。きっと大声で笑われてしまう。ショウは、自分の秘めた想いを壊されたくなくて蓋をした。好きだなんて、とてもではないが知られたくなかった。
「はいはい。それより、ローレンスは?」
キョロキョロと辺りを見回しながらバトラーが聞く。ショウの胸がチリッと痛んだ。
(バトラー様とローレンス様は幼馴染みと聞いているが、本当に…?)
本当にそれだけの関係なのだろうか。バトラーがここに来るのは、大抵ローレンスを訪ねての事だ。ショウに会いに来た事など、1度もなかった。
「先生はちょっと外出していて…。あの、何かあったんですか?」
「ちょっとかすり傷をしただけなんだが」
バトラーの手の甲には、赤い筋が数本走っていた。ショウの顔から血の気が引く。
「た、大変じゃないですかっ。治療薬を持ってきますっ」
「大袈裟だな」
ショウの慌てようにバトラーが呆れたように笑う。騎士たるもの、怪我を恐れていては敵は倒せない。バトラーは、ショウが治療薬を持ってくる間、部屋の中をあちこちと見回した。バトラーにはよくわからない珍しいものがたくさん置かれている。ふと、小瓶に入ったピンクのあめ玉が目に留まった。まるで内側から光っているようにキラキラと美しい。バトラーは小瓶を開けると、その1個を取り出した。
「あめ玉?」
バトラーは、あめ玉を掌で転がした。なんとも甘そうで美味しそうだ。
「バトラー様、お待たせしました」
ショウは治療薬を持ってくると、丁寧にバトラーの傷口を洗浄し、包帯を巻いた。ローレンスがいれば、こんな傷は治癒魔法ですぐに治せるのだが、未熟なショウができるのはこれぐらいだ。
「これで終わりです。バトラー様、それは?」
バトラーがあめ玉を見つめているのを見て、ショウが怪訝そうに声をかけた。
「さぁな」
「多分、ローレンス様が作った物でしょう」
ローレンスは、ありとあらゆる秘薬を知っている。そのため、家の中にはあちこちこのような秘薬があるのだ。菓子と間違えないようにと、ショウは何度も注意された。
「もしかして、強くなる薬かもな」
楽しげに言ったバトラーが、自分の口にあめ玉を放り込もうとする。その手をショウが慌てて止めた。
「だ、駄目ですっ。なんの秘薬かもわからず…」
「なーんちゃって」
バトラーは、叫ぶショウの口にあめ玉を放り込んだ。コクンッとショウの喉が鳴る。
「そのあめ玉の正体、オレは知っているんだ。惚れ薬なんだ」
「ほ、惚れ薬?」
サッとショウの顔が青ざめる。バトラーは、狼狽えるショウを自身の膝に乗せた。そして、夜空のように美しいショウの藍色の瞳を見つめる。いつものふざけた笑顔は消え、ショウをドキドキさせた。
「オレの事、どう思う?」
「ど、どうって…」
「男として、魅力的に見えるか?」
聞くと、ショウの頬がどんどん赤くなっていく。どうやら、惚れ薬の効果はあったらしい。逃げようと腕の中でもがくショウを、バトラーが容易く抱き締める。
「答えてくれ。ショウ」
自分の心臓がドキンッドキンッと高鳴る音に、ショウの理性が次第に溶けていく。それでも、なんとか気丈に振る舞った。
「バトラー、様は…、とても、魅力的です。あの、手を離して…ください…っ」
バトラーの指が、ショウの太ももをなぞる。指は、どんどん鼠径部へと向かった。身体の中心に熱が集まるのを感じて、ショウはオロオロした。
「オレは、ずっとショウが好きだったんだぞ」
バトラーのやや厚い唇が、ショウの顎や首筋をなぞる。その度に、ショウの身体がビクビクと跳ねた。付け根にある果実は、更に熱くなってきた。
「うそ、です。だって、バトラー様は、いつも意地悪を…」
「お前があんまりかわいいから、つい意地悪をしてしまうんだ」
バトラーの大きな手が、ポ~ッとしているショウの髪を撫でる。そして、そのまま抱き込んだ。ショウが甘えるように目を閉じる。
(効いてきたな)
バトラーは気付かれないように息を吐き出すと、ショウの小さくてツンと尖った唇を塞いだ。舌を絡めれば、ショウの方から積極的に吸ってくる。バトラーの胸が、喜びで一杯になった。
(やっと、この日が来たか…)
バトラーが初めてショウと会ったのは、彼がまだ11歳の頃だ。ローレンスに憧れ、弟子になるために田舎からやって来たらしい。最初は、真面目なショウをからかっていただけだった。だが、次第に美しく成長していくショウにバトラーは本気の恋をした。彼が16歳になったら交際を申し込もうと思っていたのだ。だが、ショウはバトラーが苦手らしくいつも避けるのだ。このままでは、ショウを他の誰かに取られる。それでなくても、ローレンスはやたらとショウに甘いのだ。もしかしたら、ローレンスもショウを好きなのかもしれない。そんな焦りがバトラーを冷静ではいられなくした。そこで、以前ローレンスから聞いた惚れ薬の力を借りる事にしたのだ。
(我ながら情けないが…)
だが、どうしてもショウの心と身体が欲しかった。バトラーは、服の上からショウの股間をまさぐる。
「汗をかいてるな」
「あ、や…っ」
前を寛げれば、ショウは既に興奮していた。惚れ薬には、多少の媚薬が混ざっていると聞いていた。とても、性欲に敏感になるのだと…。バトラーは、ショウの視線がそこに注がれている事を意識しながら指で摘まんだ。
「小さくて、とても、かわいい」
微笑んで、摘まんだ部分をコリコリと刺激する。ショウの細い腰がビクビクと震えて限界を訴えた。
「あ…っ、あっ、や…っ」
ショウは、普段とは比べ物にならないほど艶めいて見えた。半開きの唇からは舌が見えて、バトラーを誘惑する。
バトラーは、ショウに深々と口付けながら手の中の小さな宝物を愛でた。
「んっ、ん…っ」
ショウの爪先がビクンッと震えて、バトラーの手から蜜が溢れる。
「かわいかったぞ、ショウ」
バトラーが微笑めば、ショウの顔色がスッと変わった。
「ショウ?」
「バトラー様」
虚ろな瞳がバトラーを見つめる。そして、ショウの方から激しく口付けしてきた。
「んっ、んんっ?」
小さな手に頬を包まれ、まるで息さえも奪いそうな勢いで吸われる。何が起きたのかわからず慌てたバトラーは、ローレンスから聞いた言葉を思い出した。
『この惚れ薬は、本能を無限に引き出す作用があるらしい。かなり危険だ。改良が必要だな』
つまり、今目の前にいるショウはあらゆる抑圧から解放された状態なのだ。
「お、落ち着け。ショウ」
荒々しく押し倒してくるショウに、バトラーは焦った。185センチもあるバトラーと、160センチもないショウではまさに大人と子供ぐらいの差がある。それなのに、ショウの力に抵抗出来ないのだ。
「ずっと、ずっとお慕いしていました。初めて会った時から…」
トロンとした眼差しをしたショウが、バトラーの下半身に顔を埋める。そして、普段の彼ならば絶対にしないような行為を始めた。
「よ、よせっ。嬉しいが…っ、お前らしくないっ」
慌ててショウの顔を離そうとすると、ショウが顔を上げた。その瞳に涙が浮かぶ。
「ショ、ショウ?」
「やっぱり、バトラー様は先生を…」
「は?ローレンス?」
なぜここでローレンスの言葉が出てきたのか、バトラーにはサッパリわからなかった。だが、ショウにはそんなバトラーの戸惑いは伝わらないようだ。
「バトラー様は、僕のものだ。誰にも、先生にも、渡さないっ」
ショウの全身から魔力が迸る。その眩しさに、バトラーは思わず顔を背けた。
「我が下僕達。彼の者を捕らえよっ」
ショウが叫べば、どこからともなくシルクのリボンが伸びてきてバトラーの四肢の自由を奪ってしまう。
「な、なんの真似だっ」
バトラーは、目の前のショウを信じられない気持ちで見上げた。あどけない笑顔は消えて、妖艶な笑みを浮かべている。そして、自ら全ての衣服を脱ぎ捨てた。白く滑らかな裸体が惜しげもなく晒された。
(違う。オレが欲しいのは、こんなショウじゃない)
バトラーが心奪われたのは、優しく笑うショウだ。身体だけが欲しいわけではない。
衣服を脱がされ身体のあちこちに口付けをされながら、バトラーはなんとか対策を考えた。不意に側の小瓶が目に入る。バトラーは、その小瓶でショウを元に戻す事を考えた。
「バトラー様、抱いてください…っ」
ショウは自らの指で蕾を解すと、バトラーの下半身を受け入れようとした。
バトラーは、そんなショウに静かに語りかける。
「前から、お前が好きだった」
バトラーの声にショウの動きがピタリと止まる。暗闇のような瞳に光が戻った。
「好き、僕を?」
ショウの心に残っている理性が、少しづつ戻ってきた。
「いつも一生懸命で、努力家で、健気で…。ずっと側にいて欲しいって思ったんだ」
「本当…に…?」
ショウがバトラーの方に身を乗り出す。
(今だっ)
バトラーは縛られた手を伸ばすと、手近な小瓶を倒した。小瓶の中から吸魔草が飛び出してきて、ショウの裸体に絡む。
「え…っ」
「すまない。ショウ」
吸魔草。その名の通り魔力を吸い取る草だ。魔力が暴走した時などに使うもので、それ以外の害はない。吸魔草がショウの身体を這い回り、魔力を吸いだしていく。
「あっ、はあっ、あっ、ああ…っ」
悶えるショウはそれはそれでかなり魅惑的で、バトラーは思わず生唾を飲み込んだ。
(な、何を考えてるんだ…っ)
バトラーは自分の下半身を諌めた。
「あ…っ」
魔力を全て吸い取られたショウが、バトラーの腕の中へと落ちてくる。バトラーは、その裸体を抱き締めるとそのままショウの意識が戻るのを待った。
「すみません…、僕…」
意識を取り戻したショウが顔を真っ赤にして謝る。どうやら、覚えているらしい。バトラーは、そっとその頬に手を添えた。
「オレこそ、すまない。惚れ薬なんて使ってしまって…」
ショウはますます赤くなると身体を丸めた。
「ショウ?」
「あんな姿を、見られるなんて…」
自身の乱れた姿を思いだし、ショウは涙が止まらなかった。惚れ薬の効果もあったのだが、あれはショウの『願望』だ。バトラーを独り占めしたい。自分の身体にその熱を刻み付けたいと思ってしまった。
「嫌いに、なりましたよね?」
震えるショウを、バトラーは覆い被さるように抱き締めた。
「バトラー様?」
「嫌いになるはずないだろ」
バトラーの指がショウの顎を持ち上げる。
「いつも生意気な黒く大きな瞳も、文句しか言わないバラのような唇も。愛しくてならなかった」
「やっ、あっ」
バトラーの太い指がショウの小さく尖った乳首を優しく摘まむ。そして、指先でコリコリと捻った。ショウは未知の感覚に思わずバトラーに抱きついた。
「魔力を取り戻すには、これが一番早いんだろ?」
以前、ローレンスから聞いた事がある。失った魔力を簡単に補うには、魔力を持つ者と交わるのがいいと。
「オレも、多少の魔力はある」
つまり、これは治療の1つなのだ。バトラーの言葉に、ショウが小さく頷いた。
「んんっ、ふっ、んっ」
これまで誰とも性的な接触をした事がないショウは、バトラーの愛撫に感じ頬を染めた。やっと唇を解放されたものの、舌をさんざん吸われていたから、うまく言葉が話せない。
「すごく、色っぽいな」
バトラーがショウの小さく可愛らしい性器を喉元までくわえ込む。ショウの悲鳴など聞こえないように、舌で隅々まで舐め回した。そして、バトラーの手は小さな尻を左右から揉む。
「あっ、んっ、やっ、あっ、ああっ、あっ、んんっ」
初めてのねっとりとした感触に、ショウは声を上げ続けた。左右に広げられた尻は、バトラーの指をなんなく受け入れてしまう。ショウの誰も知らない蕾は、バトラーによってどんどん赤く淫らに咲いていった。
「このまま、オレのものにする。いいな?」
数本の指に激しく突かれ、ショウが悲鳴を上げる。だが、その悲鳴は決して不快だからではない。
「僕なんかで、いいんですか?」
バトラーがフッと笑う。
「ショウがいいんだ」
いつも意地悪なバトラーの目元が優しく細められる。トクトクとショウの鼓動が高まっていった。バトラーの甘い誘惑に、ショウは身を委ねる決意をした。
いつも意地悪ばかり言うバトラー。ショウの魔法を下手くそと言いながらも、ローレンスに怒られた時にはいつも慰めてくれた。ショウにとって、契る相手はバトラー以外考えられなかった。
「僕も、バトラー様が好きです。これまでも、これからも…」
震える声で言えば、バトラーが嬉しそうに抱き締めてくれる。そして、ショウの中へとバトラー自身が挿入された。
「ああっ、あっ、んっ」
ビクッビクッと大きく震えながらショウが達する。バトラーはショウの手足に絡み付いたままの吸魔草を断ち切ると、腕の中に小さな身体を抱き留めた。
「バトラー、様・・・」
ショウが自分からバトラーに口付けをねだる。こんな形でバトラーと結ばれるなんて、思ってもいなかった。
「大好きです」
バトラーは、ショウの汗をかいた額に口付けた。ショウは、何度も何度も激しく腰を揺さぶられ、やがて意識を手放した。
「全く。私の可愛い弟子になんて事をしてくれたんだ」
帰宅したローレンスは、全裸のままベッドで眠るショウと、彼を抱き抱えるように不適に笑うバトラーを睨んだ。
「怒るなよ。これのせいだ」
バトラーが小瓶の中のあめ玉を指差す。ローレンスは溜め息を吐いた。
「…なんて事を」
「怒るな。両想いだったんだ」
「知ってる。だから邪魔したかったのに…」
「おいおい」
ローレンスは自身のマントを広げ、ショウの裸体を覆った。そっと疲れた頬を撫でれば、たちまち肌の血色が良くなった。
「この子をどうするつもりだ?」
「もちろん大事にするさ。やっと長年の片想いが叶ったんだぜ?手放す理由はない」
「ズルいな」
「人の事が言えるか?うちの見習い騎士をまんまと喰ったくせに」
ローレンスは、コホンッと咳払いをした。
「近々、正式にショウを迎えにくるよ。俺の専属にする」
「こんな未熟な魔法使いをか?」
「お前より数百倍可愛い」
2人のそんな会話を、眠るショウは知らない。ただ、愛する者に抱かれる幸せに目を閉じた。
ショウは、見よう見まねで手を大きく振り上げた。しばらくすると、地面から小さな芽がニョキッと出てくる。
「やったっ」
だが、それだけだった。本来なら、芽はあっという間にスクスクと大きくなり、たくさんの果物が収穫できるはず。だが、そうはならない。
「あれ?あれ?」
結局。芽はすぐに枯れてしまった。
東の森に住む美しく偉大な魔法使いローレンス。彼を師匠に持つショウは、かれこれもう3年も修行をしている。本来なら、既に一人前になっているはずなのに。その気配は全くない。と、どこからか笑い声が聞こえてくる。ショウは見なくても、その声が誰なのかすぐにわかった。
「相変わらず意地悪ですね。バトラー様」
振り向けば、案の定そこには騎士のバトラーがいた。短く切り揃えた黒髪に、柔らかな茶色の瞳。いつもニヤニヤして、つかみどころがない人物だ。
「成長しねーな、お前は」
「してますよっ。先週までは、芽さえ出なかったんだから」
ショウがモゴモゴと言い訳をする。太陽の光を浴びて、漆黒の髪がツヤツヤと光を放った。バトラーの瞳が優しく細められる。ショウはその瞳がまともに見れなくて顔を背けた。
(どうしょう。こんな気持ちをバトラー様に知られたら)
ローレンスの弟子になった日。ショウは初めて王室騎士のバトラーと顔を合わせた。その太陽のように眩しい笑顔は、ショウの心を掴んで離さなかった。これが恋なのだと自覚してからは、言葉を交わすだけで緊張する。
(知られたら、きっとバカにされる。笑われる)
バトラーは遠慮のない男だ。きっと大声で笑われてしまう。ショウは、自分の秘めた想いを壊されたくなくて蓋をした。好きだなんて、とてもではないが知られたくなかった。
「はいはい。それより、ローレンスは?」
キョロキョロと辺りを見回しながらバトラーが聞く。ショウの胸がチリッと痛んだ。
(バトラー様とローレンス様は幼馴染みと聞いているが、本当に…?)
本当にそれだけの関係なのだろうか。バトラーがここに来るのは、大抵ローレンスを訪ねての事だ。ショウに会いに来た事など、1度もなかった。
「先生はちょっと外出していて…。あの、何かあったんですか?」
「ちょっとかすり傷をしただけなんだが」
バトラーの手の甲には、赤い筋が数本走っていた。ショウの顔から血の気が引く。
「た、大変じゃないですかっ。治療薬を持ってきますっ」
「大袈裟だな」
ショウの慌てようにバトラーが呆れたように笑う。騎士たるもの、怪我を恐れていては敵は倒せない。バトラーは、ショウが治療薬を持ってくる間、部屋の中をあちこちと見回した。バトラーにはよくわからない珍しいものがたくさん置かれている。ふと、小瓶に入ったピンクのあめ玉が目に留まった。まるで内側から光っているようにキラキラと美しい。バトラーは小瓶を開けると、その1個を取り出した。
「あめ玉?」
バトラーは、あめ玉を掌で転がした。なんとも甘そうで美味しそうだ。
「バトラー様、お待たせしました」
ショウは治療薬を持ってくると、丁寧にバトラーの傷口を洗浄し、包帯を巻いた。ローレンスがいれば、こんな傷は治癒魔法ですぐに治せるのだが、未熟なショウができるのはこれぐらいだ。
「これで終わりです。バトラー様、それは?」
バトラーがあめ玉を見つめているのを見て、ショウが怪訝そうに声をかけた。
「さぁな」
「多分、ローレンス様が作った物でしょう」
ローレンスは、ありとあらゆる秘薬を知っている。そのため、家の中にはあちこちこのような秘薬があるのだ。菓子と間違えないようにと、ショウは何度も注意された。
「もしかして、強くなる薬かもな」
楽しげに言ったバトラーが、自分の口にあめ玉を放り込もうとする。その手をショウが慌てて止めた。
「だ、駄目ですっ。なんの秘薬かもわからず…」
「なーんちゃって」
バトラーは、叫ぶショウの口にあめ玉を放り込んだ。コクンッとショウの喉が鳴る。
「そのあめ玉の正体、オレは知っているんだ。惚れ薬なんだ」
「ほ、惚れ薬?」
サッとショウの顔が青ざめる。バトラーは、狼狽えるショウを自身の膝に乗せた。そして、夜空のように美しいショウの藍色の瞳を見つめる。いつものふざけた笑顔は消え、ショウをドキドキさせた。
「オレの事、どう思う?」
「ど、どうって…」
「男として、魅力的に見えるか?」
聞くと、ショウの頬がどんどん赤くなっていく。どうやら、惚れ薬の効果はあったらしい。逃げようと腕の中でもがくショウを、バトラーが容易く抱き締める。
「答えてくれ。ショウ」
自分の心臓がドキンッドキンッと高鳴る音に、ショウの理性が次第に溶けていく。それでも、なんとか気丈に振る舞った。
「バトラー、様は…、とても、魅力的です。あの、手を離して…ください…っ」
バトラーの指が、ショウの太ももをなぞる。指は、どんどん鼠径部へと向かった。身体の中心に熱が集まるのを感じて、ショウはオロオロした。
「オレは、ずっとショウが好きだったんだぞ」
バトラーのやや厚い唇が、ショウの顎や首筋をなぞる。その度に、ショウの身体がビクビクと跳ねた。付け根にある果実は、更に熱くなってきた。
「うそ、です。だって、バトラー様は、いつも意地悪を…」
「お前があんまりかわいいから、つい意地悪をしてしまうんだ」
バトラーの大きな手が、ポ~ッとしているショウの髪を撫でる。そして、そのまま抱き込んだ。ショウが甘えるように目を閉じる。
(効いてきたな)
バトラーは気付かれないように息を吐き出すと、ショウの小さくてツンと尖った唇を塞いだ。舌を絡めれば、ショウの方から積極的に吸ってくる。バトラーの胸が、喜びで一杯になった。
(やっと、この日が来たか…)
バトラーが初めてショウと会ったのは、彼がまだ11歳の頃だ。ローレンスに憧れ、弟子になるために田舎からやって来たらしい。最初は、真面目なショウをからかっていただけだった。だが、次第に美しく成長していくショウにバトラーは本気の恋をした。彼が16歳になったら交際を申し込もうと思っていたのだ。だが、ショウはバトラーが苦手らしくいつも避けるのだ。このままでは、ショウを他の誰かに取られる。それでなくても、ローレンスはやたらとショウに甘いのだ。もしかしたら、ローレンスもショウを好きなのかもしれない。そんな焦りがバトラーを冷静ではいられなくした。そこで、以前ローレンスから聞いた惚れ薬の力を借りる事にしたのだ。
(我ながら情けないが…)
だが、どうしてもショウの心と身体が欲しかった。バトラーは、服の上からショウの股間をまさぐる。
「汗をかいてるな」
「あ、や…っ」
前を寛げれば、ショウは既に興奮していた。惚れ薬には、多少の媚薬が混ざっていると聞いていた。とても、性欲に敏感になるのだと…。バトラーは、ショウの視線がそこに注がれている事を意識しながら指で摘まんだ。
「小さくて、とても、かわいい」
微笑んで、摘まんだ部分をコリコリと刺激する。ショウの細い腰がビクビクと震えて限界を訴えた。
「あ…っ、あっ、や…っ」
ショウは、普段とは比べ物にならないほど艶めいて見えた。半開きの唇からは舌が見えて、バトラーを誘惑する。
バトラーは、ショウに深々と口付けながら手の中の小さな宝物を愛でた。
「んっ、ん…っ」
ショウの爪先がビクンッと震えて、バトラーの手から蜜が溢れる。
「かわいかったぞ、ショウ」
バトラーが微笑めば、ショウの顔色がスッと変わった。
「ショウ?」
「バトラー様」
虚ろな瞳がバトラーを見つめる。そして、ショウの方から激しく口付けしてきた。
「んっ、んんっ?」
小さな手に頬を包まれ、まるで息さえも奪いそうな勢いで吸われる。何が起きたのかわからず慌てたバトラーは、ローレンスから聞いた言葉を思い出した。
『この惚れ薬は、本能を無限に引き出す作用があるらしい。かなり危険だ。改良が必要だな』
つまり、今目の前にいるショウはあらゆる抑圧から解放された状態なのだ。
「お、落ち着け。ショウ」
荒々しく押し倒してくるショウに、バトラーは焦った。185センチもあるバトラーと、160センチもないショウではまさに大人と子供ぐらいの差がある。それなのに、ショウの力に抵抗出来ないのだ。
「ずっと、ずっとお慕いしていました。初めて会った時から…」
トロンとした眼差しをしたショウが、バトラーの下半身に顔を埋める。そして、普段の彼ならば絶対にしないような行為を始めた。
「よ、よせっ。嬉しいが…っ、お前らしくないっ」
慌ててショウの顔を離そうとすると、ショウが顔を上げた。その瞳に涙が浮かぶ。
「ショ、ショウ?」
「やっぱり、バトラー様は先生を…」
「は?ローレンス?」
なぜここでローレンスの言葉が出てきたのか、バトラーにはサッパリわからなかった。だが、ショウにはそんなバトラーの戸惑いは伝わらないようだ。
「バトラー様は、僕のものだ。誰にも、先生にも、渡さないっ」
ショウの全身から魔力が迸る。その眩しさに、バトラーは思わず顔を背けた。
「我が下僕達。彼の者を捕らえよっ」
ショウが叫べば、どこからともなくシルクのリボンが伸びてきてバトラーの四肢の自由を奪ってしまう。
「な、なんの真似だっ」
バトラーは、目の前のショウを信じられない気持ちで見上げた。あどけない笑顔は消えて、妖艶な笑みを浮かべている。そして、自ら全ての衣服を脱ぎ捨てた。白く滑らかな裸体が惜しげもなく晒された。
(違う。オレが欲しいのは、こんなショウじゃない)
バトラーが心奪われたのは、優しく笑うショウだ。身体だけが欲しいわけではない。
衣服を脱がされ身体のあちこちに口付けをされながら、バトラーはなんとか対策を考えた。不意に側の小瓶が目に入る。バトラーは、その小瓶でショウを元に戻す事を考えた。
「バトラー様、抱いてください…っ」
ショウは自らの指で蕾を解すと、バトラーの下半身を受け入れようとした。
バトラーは、そんなショウに静かに語りかける。
「前から、お前が好きだった」
バトラーの声にショウの動きがピタリと止まる。暗闇のような瞳に光が戻った。
「好き、僕を?」
ショウの心に残っている理性が、少しづつ戻ってきた。
「いつも一生懸命で、努力家で、健気で…。ずっと側にいて欲しいって思ったんだ」
「本当…に…?」
ショウがバトラーの方に身を乗り出す。
(今だっ)
バトラーは縛られた手を伸ばすと、手近な小瓶を倒した。小瓶の中から吸魔草が飛び出してきて、ショウの裸体に絡む。
「え…っ」
「すまない。ショウ」
吸魔草。その名の通り魔力を吸い取る草だ。魔力が暴走した時などに使うもので、それ以外の害はない。吸魔草がショウの身体を這い回り、魔力を吸いだしていく。
「あっ、はあっ、あっ、ああ…っ」
悶えるショウはそれはそれでかなり魅惑的で、バトラーは思わず生唾を飲み込んだ。
(な、何を考えてるんだ…っ)
バトラーは自分の下半身を諌めた。
「あ…っ」
魔力を全て吸い取られたショウが、バトラーの腕の中へと落ちてくる。バトラーは、その裸体を抱き締めるとそのままショウの意識が戻るのを待った。
「すみません…、僕…」
意識を取り戻したショウが顔を真っ赤にして謝る。どうやら、覚えているらしい。バトラーは、そっとその頬に手を添えた。
「オレこそ、すまない。惚れ薬なんて使ってしまって…」
ショウはますます赤くなると身体を丸めた。
「ショウ?」
「あんな姿を、見られるなんて…」
自身の乱れた姿を思いだし、ショウは涙が止まらなかった。惚れ薬の効果もあったのだが、あれはショウの『願望』だ。バトラーを独り占めしたい。自分の身体にその熱を刻み付けたいと思ってしまった。
「嫌いに、なりましたよね?」
震えるショウを、バトラーは覆い被さるように抱き締めた。
「バトラー様?」
「嫌いになるはずないだろ」
バトラーの指がショウの顎を持ち上げる。
「いつも生意気な黒く大きな瞳も、文句しか言わないバラのような唇も。愛しくてならなかった」
「やっ、あっ」
バトラーの太い指がショウの小さく尖った乳首を優しく摘まむ。そして、指先でコリコリと捻った。ショウは未知の感覚に思わずバトラーに抱きついた。
「魔力を取り戻すには、これが一番早いんだろ?」
以前、ローレンスから聞いた事がある。失った魔力を簡単に補うには、魔力を持つ者と交わるのがいいと。
「オレも、多少の魔力はある」
つまり、これは治療の1つなのだ。バトラーの言葉に、ショウが小さく頷いた。
「んんっ、ふっ、んっ」
これまで誰とも性的な接触をした事がないショウは、バトラーの愛撫に感じ頬を染めた。やっと唇を解放されたものの、舌をさんざん吸われていたから、うまく言葉が話せない。
「すごく、色っぽいな」
バトラーがショウの小さく可愛らしい性器を喉元までくわえ込む。ショウの悲鳴など聞こえないように、舌で隅々まで舐め回した。そして、バトラーの手は小さな尻を左右から揉む。
「あっ、んっ、やっ、あっ、ああっ、あっ、んんっ」
初めてのねっとりとした感触に、ショウは声を上げ続けた。左右に広げられた尻は、バトラーの指をなんなく受け入れてしまう。ショウの誰も知らない蕾は、バトラーによってどんどん赤く淫らに咲いていった。
「このまま、オレのものにする。いいな?」
数本の指に激しく突かれ、ショウが悲鳴を上げる。だが、その悲鳴は決して不快だからではない。
「僕なんかで、いいんですか?」
バトラーがフッと笑う。
「ショウがいいんだ」
いつも意地悪なバトラーの目元が優しく細められる。トクトクとショウの鼓動が高まっていった。バトラーの甘い誘惑に、ショウは身を委ねる決意をした。
いつも意地悪ばかり言うバトラー。ショウの魔法を下手くそと言いながらも、ローレンスに怒られた時にはいつも慰めてくれた。ショウにとって、契る相手はバトラー以外考えられなかった。
「僕も、バトラー様が好きです。これまでも、これからも…」
震える声で言えば、バトラーが嬉しそうに抱き締めてくれる。そして、ショウの中へとバトラー自身が挿入された。
「ああっ、あっ、んっ」
ビクッビクッと大きく震えながらショウが達する。バトラーはショウの手足に絡み付いたままの吸魔草を断ち切ると、腕の中に小さな身体を抱き留めた。
「バトラー、様・・・」
ショウが自分からバトラーに口付けをねだる。こんな形でバトラーと結ばれるなんて、思ってもいなかった。
「大好きです」
バトラーは、ショウの汗をかいた額に口付けた。ショウは、何度も何度も激しく腰を揺さぶられ、やがて意識を手放した。
「全く。私の可愛い弟子になんて事をしてくれたんだ」
帰宅したローレンスは、全裸のままベッドで眠るショウと、彼を抱き抱えるように不適に笑うバトラーを睨んだ。
「怒るなよ。これのせいだ」
バトラーが小瓶の中のあめ玉を指差す。ローレンスは溜め息を吐いた。
「…なんて事を」
「怒るな。両想いだったんだ」
「知ってる。だから邪魔したかったのに…」
「おいおい」
ローレンスは自身のマントを広げ、ショウの裸体を覆った。そっと疲れた頬を撫でれば、たちまち肌の血色が良くなった。
「この子をどうするつもりだ?」
「もちろん大事にするさ。やっと長年の片想いが叶ったんだぜ?手放す理由はない」
「ズルいな」
「人の事が言えるか?うちの見習い騎士をまんまと喰ったくせに」
ローレンスは、コホンッと咳払いをした。
「近々、正式にショウを迎えにくるよ。俺の専属にする」
「こんな未熟な魔法使いをか?」
「お前より数百倍可愛い」
2人のそんな会話を、眠るショウは知らない。ただ、愛する者に抱かれる幸せに目を閉じた。
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