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第五話
人間嫌いの魔法使い見習い
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魔法使い見習いのサンは、人間が大嫌いだった。だが、試験に合格しなくては魔法使いの免許はもらえない。サンは、5回試験を受けて5回落ちている。原因は、サンが試験を拒否したからだ。
「サン。試験を受けないって、どういう事だ?」
サンの父親で師匠でもあるローディーが心配そうに尋ねる。サンは、そんなローディーに不満をぶつけた。
「なんで人間の願いを叶えなくてはならないの?あいつらは自分勝手だ!やれ金持ちになりたいだの、美女と結婚したいだの。そんなのは、魔法に頼る事じゃない」
魔法使いは、なんでも願いを叶える事ができる。多くの人間はそう思っているのだ。だが、そうではない。魔法使いが叶えられるのは、『本当の願い』だけなのだ。
「サン。人間を嫌いになってはいけないよ」
「なんで、なんで父さんは人間の味方をするの?父さんだって、裏切られたじゃないかっ」
ローディーが寂しそうに笑う。ローディーも、かつて人間から手酷い裏切りを受けた。だが、ローディーは人間を悪く言う事は決してなかった。
「サン。お前は、なぜ魔法使いになりたいんだ?」
「え?」
ローディーの問いかけに、サンは咄嗟に答えられなかった。幼い頃から、魔法使いになるのが当たり前だと思っていたからだ。なぜなんて、考えた事もなかった。
「サン。今度のパートナーに会ったら、何かわかるかもしれないよ」
そう言われ、サンはイヤイヤ試験に参加した。
サンの新しいパートナーは、やたらとニコニコした男だった。朝早くに起きて畑を耕し、夜暗くなったら寝る。年老いた両親と妹と暮らし、楽しみといえば釣りぐらいだ。
(なんて退屈な人生なんだ)
サンは、そんな男を見て溜め息を吐いた。変化もない毎日なんて、退屈で仕方ないだろう。
「よぉ」
男を観察してどれぐらいたったのか、ある日。男がサンに声をかけてきた。
「オレになんか用か?」
「なぁ。あんたの願いごとってなんだ?」
サンがそう聞いたのは、パートナーだからではない。純粋にこの男に興味があったからだ。男は、しばらく考え込んだ。そして、「ない」と言った。
「オレも家族も元気だし、村も平和だ。これ以上の幸せはないな」
男がケラケラと笑う。
サンは、水晶玉を男に翳した。驚く事に、水晶玉には一点の曇もなかった。
「こんな人間もいるんだな」
サンは、自分の考えが間違っていた事を知った。人間だからといって、全員が欲深いわけではないのだ。
「あっ」
男がいきなり大声をあげる。
「な、なんだよ。びっくりするなぁ」
サンが笑えば、男も笑った。
「願い事が1つだけあった」
「なんだ?」
「空を飛んでみたい」
サンは、男の願いをすぐに叶えてやった。魔法のホウキの後ろに乗せて、男の気が済むまで乗せてやった。
はしゃぐ声を聞きながら、サンは思った。
(そっか。俺は、誰かを喜ばせるために魔法使いになりたいんだ)
サンは、男から大事な『何か』を教えてもらった気がした。
「なぁ。あんたの名前は?」
帰る直前、サンが聞いた。そういえば、名前さえ知らなかったのだ。男がニッと笑う。
「サン。サンっていうんだ」
男の名前に、サンは笑った。そして、不思議がる男に教えてやった。
「俺もサンっていうんだ」
男も笑った。
人間嫌いだった魔法使い見習いは、人間が大好きな魔法使いになった。
「サン。試験を受けないって、どういう事だ?」
サンの父親で師匠でもあるローディーが心配そうに尋ねる。サンは、そんなローディーに不満をぶつけた。
「なんで人間の願いを叶えなくてはならないの?あいつらは自分勝手だ!やれ金持ちになりたいだの、美女と結婚したいだの。そんなのは、魔法に頼る事じゃない」
魔法使いは、なんでも願いを叶える事ができる。多くの人間はそう思っているのだ。だが、そうではない。魔法使いが叶えられるのは、『本当の願い』だけなのだ。
「サン。人間を嫌いになってはいけないよ」
「なんで、なんで父さんは人間の味方をするの?父さんだって、裏切られたじゃないかっ」
ローディーが寂しそうに笑う。ローディーも、かつて人間から手酷い裏切りを受けた。だが、ローディーは人間を悪く言う事は決してなかった。
「サン。お前は、なぜ魔法使いになりたいんだ?」
「え?」
ローディーの問いかけに、サンは咄嗟に答えられなかった。幼い頃から、魔法使いになるのが当たり前だと思っていたからだ。なぜなんて、考えた事もなかった。
「サン。今度のパートナーに会ったら、何かわかるかもしれないよ」
そう言われ、サンはイヤイヤ試験に参加した。
サンの新しいパートナーは、やたらとニコニコした男だった。朝早くに起きて畑を耕し、夜暗くなったら寝る。年老いた両親と妹と暮らし、楽しみといえば釣りぐらいだ。
(なんて退屈な人生なんだ)
サンは、そんな男を見て溜め息を吐いた。変化もない毎日なんて、退屈で仕方ないだろう。
「よぉ」
男を観察してどれぐらいたったのか、ある日。男がサンに声をかけてきた。
「オレになんか用か?」
「なぁ。あんたの願いごとってなんだ?」
サンがそう聞いたのは、パートナーだからではない。純粋にこの男に興味があったからだ。男は、しばらく考え込んだ。そして、「ない」と言った。
「オレも家族も元気だし、村も平和だ。これ以上の幸せはないな」
男がケラケラと笑う。
サンは、水晶玉を男に翳した。驚く事に、水晶玉には一点の曇もなかった。
「こんな人間もいるんだな」
サンは、自分の考えが間違っていた事を知った。人間だからといって、全員が欲深いわけではないのだ。
「あっ」
男がいきなり大声をあげる。
「な、なんだよ。びっくりするなぁ」
サンが笑えば、男も笑った。
「願い事が1つだけあった」
「なんだ?」
「空を飛んでみたい」
サンは、男の願いをすぐに叶えてやった。魔法のホウキの後ろに乗せて、男の気が済むまで乗せてやった。
はしゃぐ声を聞きながら、サンは思った。
(そっか。俺は、誰かを喜ばせるために魔法使いになりたいんだ)
サンは、男から大事な『何か』を教えてもらった気がした。
「なぁ。あんたの名前は?」
帰る直前、サンが聞いた。そういえば、名前さえ知らなかったのだ。男がニッと笑う。
「サン。サンっていうんだ」
男の名前に、サンは笑った。そして、不思議がる男に教えてやった。
「俺もサンっていうんだ」
男も笑った。
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