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もっと、ヤキモチ妬いてください

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広い会場の中で、その少年はスポットライトと歓声を全身に浴びていた。小柄ながら豊かな声量と、トップレベルのダンステクニック。常に満面の笑顔を絶やさない彼に、老若男女問わず虜になっていった。
「朝陽くーん、こっち向いてぇ」
「朝陽くん、可愛いっ」
宮野朝陽は、ダンサー達と共に優雅に一礼するとステージを後にした。18歳という割りには童顔なため、『可愛い』と称される事が多い。が、本人としては『かっこいい』と言われたいらしい。
「お疲れ様です。朝陽さん」
ステージを降りた朝陽に、長身の男が近づいてくる。マネージャーである松田陵司は、朝陽よりも一回り上の30歳だ。誠実で冷静沈着。朝陽にとってはこの業界で一番頼りになる人物だ。そして、朝陽にとって陵司の存在はそれだけではない。楽屋のドアが閉まった瞬間。
「お疲れ、朝陽」
陵司の腕が旭をギュッと抱き締める。慌てたのは朝陽だ。
「りょ、陵司さん。ダメだよ、汗が・・・」
ジタバタもがくものの、すぐに唇が塞がれてしまう。
「誰も見てないよ」
陵司が誘うように朝陽の唇を舌先でつつく。そして、僅かな隙間から舌を差し入れ、更にはステージ衣装を脱がせていく。やがて、楽屋の中には甘く濡れた音が響いた。
「あっ、はぁ・・・っ」
「ライブ後は、いつにも増して敏感だな」
クスクス笑う声が、朝陽の身体の奥底へと響く。細い足が抱えられ、朝陽は目を閉じた。
誰にも言えないが、2人は単なるアイドルとマネージャーという関係ではない。恋人同士だった。
「もう少し待てなかったんですか?」
衣装に汚れがないかチェックしながら、朝陽が唇を尖らせる。そんな仕草さえかわいくて、陵司は苦笑を浮かべながら抱き締めた。
「誘うなよ。また、熱くなりそうだ」
楽屋のドアを何人かがノックしたが、陵司は全く気にも留めなかった。朝陽としては、いつバレるのかとヒヤヒヤしていた。
(時と場所を考えてほしいな。嬉しいけど・・・)
朝陽の不満は、陵司の節操のなさだ。どこでも構わずキスをしてきたり、楽屋で不埒な行為に出ようとする。でも、誰かに見つかるのではないかという空間で抱かれるのは旭としてもかなりスリリングでたまらない。
(って、何考えてるんだよ。僕のエッチ)
朝陽は、赤くなる頬をパタパタと手で扇いだ。
(こんな事、もし社長にバレたら大変だよね)
アイドルとマネージャーが恋愛というだけでも大騒ぎなのに、男同士となったら更に大変だ。
「これ、新しいドラマの台本」
着替えて車に乗り込めば、陵司が真新しい台本を寄越す。中をパラパラ捲った朝陽は、戸惑ったように陵司を見た。
「陵司さん、これ」
表紙には、ピンク色の文字で『恋したのは男の人?ドキドキルームシェア~僕の初恋物語~』と書かれている。
「今度、朝陽が主演するドラマだ」
陵司が深く溜め息を吐く。
人気BL漫画のドラマ化で、同居した先輩と禁断の恋に落ちていく男子大学生の物語だ。トップスターの佐藤拓真とのW主演とあって、マスコミからもかなり注目されているらしい。本来なら、朝陽にとってはものすごいチャンスなのだ。
「タイトルだけ見たら爽やかなのに、かなり際どいシーンが多くてな」
陵司が複雑な表情で朝陽を見る。朝陽は、グッと拳を握った。
「僕、やるよ。すっごいチャンスだもんね」
もちろん朝陽自身売れたかったが、陵司のためだった。自分の名前が売れれば売れるほど、陵司の評価も高くなると朝陽は思っていた。もし、この時に朝陽がバックミラーを見ていたら、陵司の複雑そうな表情に気付いたかもしれない。

朝陽が陵司にスカウトされたのは、16歳の時だった。友達と買い物をしていたら、いきなり手を握られたのだ。

『原石を、見つけた』

陵司の大きく優しい手に、朝陽はドキドキした。まさに、一目惚れに近かった。特に芸能人になりたかったわけではないが、陵司と一緒にいられるならそれで良かった。最初は、ただ単に年上の男性への憧れだと思っていた。だが、その感情が少しづつ変わってきたのだ。
大勢のファンもできたが、朝陽にとっては陵司のためだけに歌いたいと思うようになった。
この恋は許されない。そう思いながらも、朝陽はどうしようもなく陵司に惹かれた。
その気持ちを伝えたのは、半年前のバレンタィンデー。手作りのチョコにキスを添えて、自分の気持ちを素直に伝えた。

『陵司さんが好きです』

勇気を出しての告白は、即OKだった。

『オレから先に言おうと思ったのにな』

という嬉しい告白付きだった。
それからというもの、朝陽は初めての恋に浮かれていた。だが、陵司との恋が本気になればなるほどその難しさも実感していた。
「朝陽」
「はっ、はいっ」
背筋をシャキンッと伸ばせば、陵司が驚いたような顔をする。
「大丈夫か?無理しなくていいんだぞ?」
心配そうに額に手を当ててくる陵司に、朝陽は慌てて身体を離した。
「だ、大丈夫。これは、役なんだから」
本当は、陵司以外となんて手も握りたくないしキスもしたくない。そんな本心を隠して、朝陽はなんでもないフリをした。

撮影前日。朝陽は、陵司相手に台詞の練習をしていた。
「君が好きなんだ。男だとわかってる。それでも、このまま君を離したくない」
台詞だとわかっていても、陵司の声で情熱的に告白されて朝陽はドキドキした。台本では、ここでディープキスをする事になっている。朝陽は、緊張した面持ちで目を閉じた。が、いっこうに陵司の唇は降りてはこなかった。
「え?」
目を開けると、困ったような陵司の顔があった。
「なんか、複雑だ。朝陽が、俺以外とこんな事をするなんて」
「陵司さん」
陵司がスッと身体を離す。朝陽は、自分が怒らせたのではないかと慌てふためいた。が、陵司はすぐに朝陽を抱き締めて激しいキスをしてくる。
「んっ、んんっ、んっ」
ひとしきり長いキスが終わり、陵司が唇を離す。あまりの気持ちよさに、朝陽はまだどこかぼんやりしていた。
「ガキみたいだな。ヤキモチ妬いて、バカみたいだ」
自嘲する陵司を、朝陽がギュッと抱き締める。
「嬉しいです。すごく」
「朝陽?」
「もっと、ヤキモチ妬いてください」
朝陽は、その広い胸にしがみついた。
「愛してるって、僕の身体に教えてください」
朝陽は、自分でも子供じみていると思った。だが、不安なのだ。陵司が離れていってしまいそうで・・・。
「今の俺は普通の状態じゃない。朝陽を傷つけるかもしれない」
「構わない・・・、んっ」
顔を上げた朝陽は、陵司に奪われるようなキスをされた。あまりにも強く舌を吸われ、朝陽はその場にへたり込む。と、ヒョイッと陵司が横抱きしてくる。
「煽るな。これでも、我慢してるんだ」
困ったような陵司の苦笑に、朝陽はうっとりした。女性とは違う、たまらない色っぽさが陵司にあった。
「我慢なんか、しないでください」
陵司に抱っこされた状態で、朝陽は唇を寄せていった。
見慣れた寝室が、今日は違って見える。朝陽は、まるで初めての時のようにドキドキした。それは、このシチュエーションがかつての光景と重なるからかもしれない。
「あの時も、こんな風でしたね」
ベッドに横たわり、朝陽はヒヤリとするシーツに身を竦める。
初めて身体を繋いだのも、このベッドだった。何をするのかわからないまま、陵司によって優しく性の手解きを受けたのだ。
あの時と違うのは、これから何が起きるのか既に身体が知っているという事だ。
「そうだな。壊さないように抱くのが大変だった」
窓から差し込む月明かりの中で、陵司が乱暴に服を脱いでいく。学生時代はアメフト部に入っていただけあり、陵司の身体はたくましく無駄は所はどこにもない。視線を下の方へ向けた朝陽は、真っ赤になって横を向いた。ギシッとベッドが軋み、陵司がのし掛かってくる。朝陽は、恥ずかしさからギュッと目を閉じた。陵司のあの部分を見て、欲しいと思うなんて・・・。自分がたまらなくいやらしくなってしまった気がした。耳や頬に優しくキスをされ、身体のあちこちを弄られる。
「本当は、誰にも触れさせたくない」
胸や腰を指でなぞられ、朝陽はこれまで感じた事がないもどかしさに熱い息を吐いた。
「ドラマなんて、止めてしまえ」
「そんな・・・っ、あっ」
陵司が下腹部を押し付けてくる。朝陽は、これから自分を貫く陵司の分身に呼吸を整えた。
「陵司さんを、不安にさせてる?」
「少しだけね」
陵司は、ゆっくりジワジワと朝陽の快感を導きだした。男でも乳首が感じると教えてくれたのは、陵司だ。
「俺だけの朝陽にしたい」
陵司の低い囁きと共に、朝陽は激しく貫かれた。
「あっ、ぁあっ、あっ、あぁぁっ」
あまりの強さと快楽に、朝陽は悲鳴のような声を上げた。飛び散った精液が、陵司のたくましい胸や腹筋を濡らしていく。朝陽は、恥ずかしくて嬉しくて変になりそうだった。
「陵司さん・・・っ、怖いっ」
気持ちよくなりすぎて、朝陽は変になりそうだった。
「怖がらなくていい。一緒に、いるから」
小さく震える蕾を、陵司の指が優しくなぞる。その刺激的な感触に、朝陽は思わず陵司の首にすがりついた。
「あっ、あっ、すごい・・・っ、まるで1つに溶けたみたい」
陵司の身体の一部が自分の中に溶けていくような感覚。朝陽は、それだけで満たされた。言葉もなく、2人は激しく抱き合った。

数日後。朝陽が出演するはずだったドラマは、急にキャストが変更となった。表向きは、イメージが違うというものだったが真相は違う。
「どんな手を使ったんです?」
休暇を人気のない避暑地で過ごす事になった朝陽は、プライベートビーチでのんびりしながら陵司に聞く。だが、陵司はただ微笑むだけだ。
「ナイショ」
朝陽を抱き上げた陵司が、イタズラを隠す子供のような顔でウィンクする。そして、コテージへ向って歩き出す。
「どうしても聞きたいなら、ベッドの中で教えてあげる」
朝陽は近づく陵司の顔に、黙って目を閉じた。唇が優しく塞がれる。朝陽は、アイドルである自分は今だけ忘れる事にした。












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