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第一話

孤高のホストは、初恋のシングルファーザーに永遠の愛を誓う

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数あるホストクラブの中でも、とびっきりのイケメンか揃っていると言われる『N』。優しいお兄さん系から、逞しいワイルド系まで揃っていてリピも多い。
そのなかで、女性客から連日熱い視線を送られているのがNo.1のレイヤだ。
金髪のセミロングに、通った鼻筋。ブランド物のスーツを着崩していて、どこか不良っぽさが残っている。だが、彼の魅力は外見だけではない。そのクールな内面が、女性客の心を掴んで離さないのだ。レイヤは、決して女性客に対して甘い言葉を囁いたり営業スマイルを見せたりしない。どれだけ大金を積まれても、決してなびかない。その孤高な印象が、女性客達にはたまらないらしい。彼女達は、レイヤの前では決して醜態は晒さない。レイヤに嫌われまいと、精一杯おしとやかに振る舞うのだ。
「レイヤ。今日もカッコいいわね」
「ねぇねぇ。もしかしてこっち見た?」
と、レイヤの一挙手一投足で大騒ぎだ。
レイヤがいるだけで、『N』は連日満員状態だ。なんとかレイヤを振り向かせようと、連日大勢の女性客が押し掛けてくるのだ。そして、見事に玉砕していく。
ホスト仲間の間でも、レイヤの評価は高かった。No.1でありながら、横柄な態度を取る事はなく、若手へのアドバイスは常に的確だった。彼を慕って『N』に移籍したホストも何人かいる。
だが、一緒に働いているホスト達でさえレイヤのプライベートは知らない。
「なぁ。レイヤさんって、どこに住んでんの?」
「さぁ」
ナンバー1ホスト・レイヤ。そのプライベートは、かなり謎だった。どこに住んでいるのかも。誰と住んでいるのかも。
「本当は、ロボットだったりして」
なんていう、本当か嘘かわからない噂が流れているほどだ。
「お疲れ」
時計を確認すると、レイヤはすぐに帰路へとついた。
(全く。俺をなんだと思ってるんだ?)
店内で囁かれる噂を思い出し、レイヤがチッと舌打ちをする。
レイヤこと、藤本玲哉がホストの世界に身を投じたのは、高校卒業後すぐだった。早く金を貯めて、自分だけの店を開きたかったのだ。そのために、ホストという職業を選択しただけだ。そこに深い意味はない。だが、今は違う。今は、ある理由から玲哉はホストを続けている。帰り道、ケーキと花束を購入した玲哉は、急いで自宅へと向かった。そこは、No.1ホストが住むにしては簡素なマンションだった。
「ただいま」
玲哉がドアを開けて声をかければ、トタトタと可愛らしい足音が聞こえてくる。
「お帰り。れーや」
元気な声と共に、小さな身体が玲哉めがけて走ってきた。今年で3歳になる陸だ。
「陸。待っててくれたのか?」
客には決して見せない、甘ったるく優しい微笑みを浮かべて玲哉が陸を抱き上げる。そして、わざと怒った顔をして見せた。
「もう0時だぞ。早く寝ろ」
「えーっ」
陸の視線が、玲哉が持っているケーキの箱に注がれている。どうやら、起きていた理由はこれのようだ。朝、ケーキを買って帰ると約束していたからだ。
「遅くなってごめん。明日、明日食べよう」
「え~っ」
陸が声を上げる。玲哉が困ったように眉を寄せた。
「ごめん。ごめんな、陸」 
「嫌だっ。今日がいいっ」
ジタバタと暴れる陸に困惑していれば、奥からバタパタと足音が聞こえてくる。
「陸。玲哉を困らせたらダメだよ」
柔らかな声と同時に、白く綺麗な手がヒョイッと陸を抱き上げた。陸の父親である中村光樹だ。
「れーやぁ」
泣きながら両手を伸ばしてくる可愛い陸に、玲哉が苦笑した。
「陸。ケーキは明日な」
陸は頬を膨らませたものの、おとなしく子供部屋のベッドへと入った。光樹が優しく髪を撫でると、すぐに眠ってしまったようだ。
その姿を見届けた後。玲哉が光樹を後ろから抱き締める。空気が、一気に甘いものへと変わった。
「ただいま、光樹」
「お帰り、玲哉」
玲哉が顔を近づければ、光樹が恥ずかしそうに唇を寄せてくる。2人は、長い長いキスを交わした。キスの後、玲哉は買ってきたシャクヤクの花束を渡す。
「シャクヤク?」
「花言葉は、恥じらい。光樹にピッタリだ」
言えば、光樹が頬をほんのりと染める。
「今夜は、特別な日だぞ。覚えてるか?」
「あの日から、今日で1年なんだね」
「今夜は、逃げるなよ」
軽く睨めば、光樹がクスクス笑う。ここのところ、疲れているを理由に逃げられているのだ。
「逃げないよ。でも、加減はしてよね」
恥ずかしそうに光樹が視線を逸らす。今度は玲哉がクスクスと笑った。
「じゃあ、やめとくか?」
「玲哉っ」
思わず光樹が顔を向けると、チュッと頬にキスされる。
「やっと、素直になったな」
玲哉が顔を寄せると、光樹は自然に目を閉じた。唇がしっとりと重なる。
角度を変えてキスをしながら、玲哉が寝室へと光樹を誘った。
2人が出会ったのは、高校時代だ。席が隣同士という事もあり、すぐに友人関係になった。
互いの家を行き来したり、徹夜でテスト勉強もした。
「あの頃から、俺はお前に夢中だった」
シャツのボタンを外しながら、玲哉が懐かしそうに目を細める。側にいるのが当たり前過ぎて、この気持ちに気付けなかった。気づいたのは、卒業式前日だった。下級生に囲まれている光樹を見た時に、無性に腹が立ったのだ。そして、気がついてしまった。自分が、光樹に友情以上の気持ちを抱いているという事を・・・。このままでは、いつか光樹を壊してしまうと思った玲哉はあえて自分から離れた。同窓会に参加したのは、やはり光樹への気持ちを忘れられなかったからだ。再会した時。光樹は、シングルファーザーとして苦労していた。そんな光樹を、玲哉が放っておけるはずがなかった。天然でおっとりしている光樹が危なっかしくて、玲哉は同居する事を提案した。陸の事も可愛くて、玲哉は我が子のように思っている。そして、玲哉は長年の想いを光樹に告白した。
「・・・まさか、受け入れてもらえるとは思わなかった」
玲哉の言葉に、光樹が戸惑ったように視線を彷徨わせる。
「自分でも、驚いてる。玲哉の気持ちが嬉しくて、離れたくないって思ったんだ」
光樹が、愛おしそうに玲哉を見つめる。
「明日は休みだから、ちょっとぐらい平気だろ?」
ベッドに光樹を押し倒し、玲哉がネクタイを外す。そして、恥ずかしそうに瞳を伏せる光樹へと覆い被さった。
「あ、あんまり激しくしちゃダメだよ。陸が起きちゃうから」
「声を、抑えておけよ」
「無茶言わないで、あっ」
玲哉の長くしなやかな指が、すぐに光樹自身を捕らえる。そして、ゆっくりと確実に快感へと導いていく。
「光樹。俺のシャツのボタン、外して」
耳たぶを噛みながら玲哉が甘える。光樹は、震える指で玲哉のボタンを外していった。その間も、玲哉の指は光樹を煽り続ける。鍛えあげられた胸筋や腹筋が現れ、光樹の鼓動を早める。男の色気に満ちている玲哉に、光樹の興奮もどんどん高まっていった。
そして、玲哉の指がゆっくりと光樹のシャツのボタンを外していった。玲哉の愛撫を期待してか、乳首が少しだけ勃っている。玲哉はすぐに小さな突起に吸い付き、舌で舐めたり歯で転がしたりとイタズラをする。
「ん・・・っ、あっ、ん」
声を出さないようにのけぞる姿が、たまらなく色っぽく見える。
(光樹だけだ。俺をこんなに興奮させるのは)
玲哉は、性欲が強い方ではない。光樹にだけ欲情するのだ。
「な、何?どうかしたの?」
ニヤニヤする玲哉に、光樹が戸惑う。
「初めて光樹を抱いた時の事を思い出してたんだ」
玲哉が笑えば、光樹の頬が一気に赤くなる。その日の事は、光樹にとっても忘れられない日だったから。

その日は、かなり蒸し暑い夜だった。陸が眠るのを待ってから、2人でビールを飲んだ。光樹は躊躇ったが、忙しいシングルファーザーにも息抜きは必要だと玲哉が勧めた。そこに下心はなかった。まるで学生時代のように、玲哉と光樹はいろいろな話をした。
「玲哉は、好きな子とかいたの?」
ほろ酔い加減の光樹が聞いてくる。玲哉は適当に誤魔化したが、光樹は引く気はないようだ。
「教えてよ。すっごいモテてたじゃん」
ふと真顔になると、玲哉はまっすぐ光樹を見つめた。
「俺が好きだったのは、光樹だよ」
玲哉が言えば、光樹がプッと吹き出す。
「玲哉って、本当に冗談がうまいよね」
ゲラゲラ笑っていた光樹だが、やがて玲哉の眼差しに笑みを消す。
「まさか、本当に・・・?」
玲哉は、光樹の腕を掴むと強引に抱き寄せた。そして、躊躇う事なく口づけた。光樹が抵抗するように身を捩ったが、玲哉はそのまま半ば強引に身体を重ねた。光樹が暴れそうになると、陸が起きると囁いて抵抗できないようにした。強引に快楽を引き出し、自分のものにしたのだ。
「あ、あの時は痛かったんだからな」
照れ隠しのため、光樹がプイッとそっぽを向く。あの日。玲哉の気持ちは一方通行ではなかった。でなければ、光樹はすぐに陸を連れて出て行っただろう。
「今は?気持ちいい?」
人差し指と中指を揃えて、ゆっくりと光樹の内部を弄る。たちまち、キュッとその部分が縮まった。
「そ、そんな事、言えない・・・っ、あっ」
玲哉の指が、奥のある一点を集中的に擦る。途端に、光樹の指が背中に爪を立ててきた。
「あっ、そこ、ダメだって・・・っ。声が、抑えられない・・・っ、あっ」
光樹が、激しく首を横に振る。愛しい恋人がシーツの上で乱れる様子に、玲哉は目を細めた。タイミングを計りながら、そっと自身の性器を蕾に当てる。
(そろそろだな)
光樹の中に入れた指が、スムーズに出し入れしやすくなり、やがて奥へ誘い込むようにビクビクと震えだした。玲哉は光樹に気づかれないように、ゆっくりと指を引き抜き自身の先端を挿入させた。ハッと光樹の全身が強張る。
「力、抜いてろ」
「んっ」
何度繋いでも、光樹の蕾は最初は抵抗するのだ。慎重に様子を見ながらすべてを収めると、玲哉は焦らずゆっくりと腰を揺らめかせた。互いの喘ぎ声を消すように、激しくキスをしながら快楽を貪る。シーツが一際大きく乱れ、嘘のように静かになる。玲哉と光樹は、互いの背中に指を這わせたまま唇を重ねた。

夜明け。玲哉は、光樹の身体から自身をゆっくり引き抜いた。かなり無理をさせたらしい。光樹は、玲哉の腕の中でグッタリしている。
(ちょっと激しくしすぎたかな)
光樹の身体を綺麗に拭き、静かに抱き上げる。そのまま、陸の部屋へとそっと運んだ。かなり無理をさせたようだが、寝息はとても穏やかだ。
(朝は、やっぱり陸の横がいいよな)
光樹は、とにかく陸を可愛がっていた。離婚後は、誰にも頼らずたった1人で育児をしてきたそうだ。再会した時の、光樹の痩せた顔を思い出す。見ていてとても切ない気持ちになった。
陸の横に寝かせた光樹は、まるで高校生の頃に戻ったようにあどけない。玲哉は、陸と光樹の頬にキスをするとそっと部屋を出た。
(今日も、聞けなかったな)
光樹と陸を愛すれば愛するほど、ある疑問が心を占める。
それは、光樹が誰と結婚をしたかという事だ。
学生時代の光樹は、特に誰とも交際してはいなかった。性格的にも、自ら女性に声をかけるとは考えにくい。
(どんな女なんだろう)
光樹を傷つけ、陸を捨てていった女がどんな人間なのか気になって仕方がなかった。
(俺だったら、絶対に離れたりしないのに)
どれだけ疲れて帰ってきても、光樹と陸が笑顔で出迎えてくれたら、それだけで何もかもが満たされた。
「俺が、ずっと守っていくからな」
まだ面と向かって言った事はないが、玲哉はずっとそう思っている。
いつもと変わらない日常がたまらなく愛しいと、玲哉は改めて思った。




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