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第一話
双子のイケメン執事達から、告白されファーストキスを奪われました
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勇人は、物心ついた時から母親と2人暮らしだった。頼れる親戚もなく、生活はかなり苦しかった。それでも、母親と明るい家庭を築いていた。母親が再婚する日までは…。
母の巴が再婚した相手は、平野祥介。あの、平野グループの一族だったのだ。平野グループと言えば、国内外に数多の会社を所有している大企業。祥介は、海外雑貨を扱う会社を経営している。
「あの、母と、その社長は?」
結婚式の後。勇人は、新しい家に案内された。祥介の執事という老紳士が、部屋のあちこちを案内してくれる。が、どの部屋もホテルのスィートルームみたいで落ち着かない。
「社長ではなく、お父様ですよ」
優しく訂正され、勇人は気まずそうに俯いた。
「俺、父親がいなかったから。なんか、照れ臭くて…」
祥介からも父親と呼んで欲しいと頼まれているが、なかなか呼べない。初老の執事は、そんな勇人の複雑な気持ちを理解しているようにニッコリ笑った。
「旦那様と奥様は新婚旅行に行きました」
「新婚旅行?」
聞いてない。勇人は、思わずそう呟いた。
「これから、勇人様のお世話をする執事を紹介致します」
思わぬ言葉に、勇人はかなり慌てた。
「し、執事って?俺まだ高校生ですよ?」
「平野家では、生まれた時から専属の執事がつく事になっております」
ニコニコと微笑む老紳士に、勇人は苦笑いを浮かべる事しかできなかった。
「ここが、勇人様のお部屋です」
老紳士が扉を開けると、そこは勇人の想像を遥かに越えていた。フカフカのカーペットに、一目で高級だとわかる家具。そして、燕尾服に身を包んだ2人の執事が立っていた。
「初めまして、勇人様」
穏やかな声が勇人の名前を呼ぶ。
「私が兄の篤で、こちらは弟の悟です」
勇人は目を見張った。なぜなら、執事は双子だったのだ。男とわかっていても『美しい』としか形容できない顔立ちと、優雅な動作。勇人の緊張感はますます増した。
「よ、よろしくお願いしますっ」
勇人は、思わず深々と一礼してしまった。そんな勇人の姿に、双子の執事達も慌てて頭を下げる。
こうして、勇人とイケメン執事達の新しい生活が始まった。
(なんか、暖かい)
勇人は、自分を包む温もりに自然に笑みを浮かべた。
季節はまだ冬。本当ならまだまだ寒いはずだ。いつもだったら、寒さに震えながら朝を迎えるのに、なぜか今朝は春のように暖かい。勇人は、心地よさを感じながらゆっくりと覚醒へと向かった。
「ん?」
目を開ければ、とんでもないイケメンが目の前で微笑んでいる。勇人は一気に目を覚ました。
「おはようございます。勇人様」
「あ、篤さんっ?」
慌てて起き上がろうとすれば、後ろから伸びてきた腕が勇人をベッドに引き戻す。振り向くと、全く同じ顔が微笑んでいる。
「悟さんっ?」
「おはよう。勇人様」
寝惚けているのか、悟はニッコリ笑うとそのまま頬をグリグリと擦りつけてきた。そのあまりにも濃厚なスキンシップに慌てていれば、篤の手がすぐに引き剥がしてくれる。
「やめないか、悟。勇人様が困ってらっしゃる」
「はいはい」
篤に言われて、悟はパッと手を離した。勇人は急いで起き上がると、交互に2人を見た。
「あ、あの。2人は、なぜ俺のベッドに?」
「昨夜。勇人様が寒そうにしてらしたので…」
「添い寝して暖めてたんだぜ」
左右からギュッと抱き締められ、勇人はホッと安堵した。
「そ、そうだったんですか。ありがとうございます」
ペコッと頭を下げた勇人は知らない。篤と悟がアイコンタクトを取っていた事に…。
「さぁ。着替えましょう」
「えっ。あ、あのっ。自分で…」
「これもオレ達の仕事なんだ」
そう言われれば、勇人は黙っているしかない。篤と悟の手が、勇人の身体からパジャマと下着を脱がせていく。勇人は、明るい日差しの中で股間を押さえて丸くなった。
(この時間が恥ずかしい…っ)
2人は仕事だからと、毎回着替えを手伝ってくれる。だが、全裸を見られる勇人はたまったものではなかった。
「恥ずかしがる事はありません」
「オレ達は、勇人様のものなんだから」
今度は2人がかりで服を着せられる。時折、篤と悟の指が乳首や鼠径部に触れて勝手に身体が跳ねる。
「あ…」
反応してしまった下半身に赤くなれば、篤の指がソコに絡んできた。
「今朝は私が処理致します」
「あ、あのっ。自分で…」
「いーから。篤に任せとけって」
悟が後ろから勇人を抱き締める。勇人は、自分の下半身に伸びる篤の指に慌てて目を閉じた。声を出さないように我慢しながら、勇人は篤の手に欲望を吐き出した。
「健康な証拠です」
目を開ければ、ニッコリ笑っている篤がいた。
(執事って、こんな事もするんだ)
それから、勇人は別の服を着せられる。
この屋敷に住んでからというもの、勇人は1人で着替えた事さえないのだ。そして、自慰行為させ1人ではさせてもらえない。
「あの、明日からは自分で着替えますから、その、アレも…」
しどろもどろに言えば、篤と悟がそれぞれ左右の手を握る。
「それはいけません。私達の仕事です」
「オレ達、クビになっちまう」
そう言われれば、勇人だって逆らえない。篤も悟も、いつも良くしてくれた。広い屋敷で寂しくないのは、いつも2人が側にいてくれたからだ。
(俺が、恥ずかしい思いを我慢すればいいだけだ。うん)
勇人は、顔を真っ赤にして頷いた。双子があからさまにホッとする。
「私達は、勇人様に仕えるのが使命です」
「そうそう。ついでに目の保養・・・、あたたたたたっ」
さりげなく勇人の頬に唇を寄せた悟が、篤に頬をつねられる。そのコミカルなやり取りに勇人が笑えば、篤と悟も笑った。
「ですが、よく私達の違いがわかりますね」
勇人は、これまで1度として篤と悟を間違えた事はない。一卵性双生児である篤と悟を見分けるのは、かなりの至難の技だ。
「起きてる時ならまだしも、寝てる時ならわかんないだろ?」
勇人の髪型を整えながら、悟も不思議そうな顔をした。双子の素朴な疑問に、今度は勇人が首を傾げた。
「こんなに違うんだから、間違うはずないよ」
「…」
当たり前のようにサラッと言った勇人が洗面所に向かうのを見送り、篤と悟は顔を見合わせた。
「私達の眼鏡に狂いはなかったな」
「だな。勇人様こそ、俺達の主だ」
双子は、大きく頷いた。
篤と悟は、互いに双子である事が嫌な訳ではない。だが、これまでの主ときたら実にひどかった。
「名前を覚えてもらうだけで一苦労だった」
「だな。下手すりゃ、小野兄弟だぜ」
小野家特有の亜麻色の髪と瞳を持つ篤と悟は、その見た目の美しさと優秀さから引く手あまただった。だが、誰も2人の違いを理解してはくれなかった。
「それに、なんとも愛らしい」
篤が、脱ぎ捨てられた勇人のパジャマを抱き締める。そして、その残り香を胸一杯に吸い込んだ。
「本当。モロタイプなんだよなぁ」
悟も、勇人の寝ていた場所にダイブする。とにかく可愛いものが大好きな双子にとって、小動物を連想させる勇人の顔立ちはかなりタイプだった。おまけに、素直で純粋な勇人の性格もとても気に入っている。
「普通、執事はオナニーの手伝いなんかしないって」
悟がニヤッと笑う。そして、篤の方を睨んだ。
「明日はオレだからな」
「わかってる」
篤は、自分の手を見つめて溜め息を吐いた。まだ先程の感触が残っている。
双子は、いつしか勇人に恋愛感情を抱くようになっていた。できたら、想いを遂げたいと思うほどに。
篤と悟は、互いに顔を見合わせると、ほぼ同時に宣言した。
「抜け駆けはするなよ」
と。
篤と悟は、小さい時からすべて一緒だった。身長も体重も、好きな食べ物も。そして、恋愛対象も。篤と悟は、それぞれ心の底でこっそりと勇人を手に入れるための計画を考えていた。
一方、勇人は広大な屋敷で迷子になっていた。
(ここ、どこ?)
辺りを見回しても、白い壁が見えるだけで出口さえわからない。ほんの少し探索をしただけでこうなのだから、この屋敷はどれだけ広いのか。適当に角を曲がった瞬間、ドンッと何かにぶつかり勇人は派手に尻餅をついた。
「ってぇ~っ」
「お前か?勇人っていうのは」
名前を呼ばれて顔を上げれば、小柄な少年が冷めた目で見下ろしていた。
「僕は秋久。この家の長男。つまり、お前の兄だ」
秋久の言葉に、勇人は慌てて背筋を伸ばした。そういえば、息子が1人いると聞いていた。秋久は、勇人の顔と身体をジロジロと見つめ眉を潜めた。
「僕から執事を奪ったのが、こんなチンチクリンとはな」
母親がアメリカ人だったらしく、秋久はどこかハーフっぽい顔立ちをしていた。年齢は、勇人よりも1つ上の16歳。
「あいつらを返せ。僕の物だ」
「返せって、彼らは物じゃない」
ムッとして勇人が言い返せば、秋久が眉根を寄せる。
「何言ってんだ?あいつらは物と同じだろ。あれだけ見た目がいい執事はそうそういないんだ。さっさと返せ」
「嫌だ。お前みたいな奴に返すわけないだろっ」
勇人にとって、篤と悟は特別な存在だ。これまで、勇人はいつも1人だった。生まれた頃から母親と2人暮らしだったが、ほとんど顔を合わせる事がなかった。家で、いつも寂しく過ごしていた。
だが、この屋敷に来てからはいつも篤と悟が側にいてくれた。かなりスキンシップが激しいが、彼らは勇人を孤独から解放してくれたのだ。そんな彼らを物扱いされた事が、たまらなく嫌だった。
「生意気な奴めっ」
秋久が手を振り上げる。勇人はとっさに目を閉じた。乾いた音が周囲に響いたが、勇人はどこも痛くはなかった。恐る恐る目を開けると、そこに思いがけない人物の姿があった。
「篤さんっ」
篤は、赤くなった頬を押さえる事もしなかった。だが、その瞳には怒りの光が宿っている。そのなんともいえないオーラに、秋久は何も言えなかった。踵を返すとその場から走り去っていった。
「だ、大丈夫?篤さん」
勇人はオロオロしながら、持っていたハンカチを篤の頬に当てた。その手を、篤がそっと掴む。
「とても、嬉しかったです。あなたが、私達の事を物扱いしないでくれて」
「当たり前だよ。篤さんも悟さんも、僕の大切な人なんだから」
ニッコリ微笑んだ勇人の頬を、篤の両手が優しく包む。そして、そっと唇が重ねられた。
「好きです、勇人様」
「えっ、えっ、好き?えっ?」
予想外の言葉に、勇人は狼狽えた。口を両手で押さえ一歩下がれば、何かにぶつかった。振り向けば悟だ。ものすごい形相で篤を睨んでいる。
「篤。お前…」
「さ、悟さんっ。あの、これは、その…」
慌てて言い訳をしようとする勇人は、次の瞬間。悟にもキスをされていた。
「俺も、勇人様が好きだ」
悟が再びキスをしてくる。今度は、舌を入れられた濃厚な奴だ。勇人の身体が硬直する。
「悟っ。勇人様を離せっ」
篤の腕がすかさず勇人の身体を引っ張る。悟が、ニッコリと笑った。
「これから、容赦なく口説くからな」
「覚悟してくださいね」
何がなんだかわからないまま、勇人は双子から熱い抱擁を受ける事となった。
(ファーストキスだったのに…)
左右から熱烈なキスをされながら、勇人はそんな事を考えていた。
母の巴が再婚した相手は、平野祥介。あの、平野グループの一族だったのだ。平野グループと言えば、国内外に数多の会社を所有している大企業。祥介は、海外雑貨を扱う会社を経営している。
「あの、母と、その社長は?」
結婚式の後。勇人は、新しい家に案内された。祥介の執事という老紳士が、部屋のあちこちを案内してくれる。が、どの部屋もホテルのスィートルームみたいで落ち着かない。
「社長ではなく、お父様ですよ」
優しく訂正され、勇人は気まずそうに俯いた。
「俺、父親がいなかったから。なんか、照れ臭くて…」
祥介からも父親と呼んで欲しいと頼まれているが、なかなか呼べない。初老の執事は、そんな勇人の複雑な気持ちを理解しているようにニッコリ笑った。
「旦那様と奥様は新婚旅行に行きました」
「新婚旅行?」
聞いてない。勇人は、思わずそう呟いた。
「これから、勇人様のお世話をする執事を紹介致します」
思わぬ言葉に、勇人はかなり慌てた。
「し、執事って?俺まだ高校生ですよ?」
「平野家では、生まれた時から専属の執事がつく事になっております」
ニコニコと微笑む老紳士に、勇人は苦笑いを浮かべる事しかできなかった。
「ここが、勇人様のお部屋です」
老紳士が扉を開けると、そこは勇人の想像を遥かに越えていた。フカフカのカーペットに、一目で高級だとわかる家具。そして、燕尾服に身を包んだ2人の執事が立っていた。
「初めまして、勇人様」
穏やかな声が勇人の名前を呼ぶ。
「私が兄の篤で、こちらは弟の悟です」
勇人は目を見張った。なぜなら、執事は双子だったのだ。男とわかっていても『美しい』としか形容できない顔立ちと、優雅な動作。勇人の緊張感はますます増した。
「よ、よろしくお願いしますっ」
勇人は、思わず深々と一礼してしまった。そんな勇人の姿に、双子の執事達も慌てて頭を下げる。
こうして、勇人とイケメン執事達の新しい生活が始まった。
(なんか、暖かい)
勇人は、自分を包む温もりに自然に笑みを浮かべた。
季節はまだ冬。本当ならまだまだ寒いはずだ。いつもだったら、寒さに震えながら朝を迎えるのに、なぜか今朝は春のように暖かい。勇人は、心地よさを感じながらゆっくりと覚醒へと向かった。
「ん?」
目を開ければ、とんでもないイケメンが目の前で微笑んでいる。勇人は一気に目を覚ました。
「おはようございます。勇人様」
「あ、篤さんっ?」
慌てて起き上がろうとすれば、後ろから伸びてきた腕が勇人をベッドに引き戻す。振り向くと、全く同じ顔が微笑んでいる。
「悟さんっ?」
「おはよう。勇人様」
寝惚けているのか、悟はニッコリ笑うとそのまま頬をグリグリと擦りつけてきた。そのあまりにも濃厚なスキンシップに慌てていれば、篤の手がすぐに引き剥がしてくれる。
「やめないか、悟。勇人様が困ってらっしゃる」
「はいはい」
篤に言われて、悟はパッと手を離した。勇人は急いで起き上がると、交互に2人を見た。
「あ、あの。2人は、なぜ俺のベッドに?」
「昨夜。勇人様が寒そうにしてらしたので…」
「添い寝して暖めてたんだぜ」
左右からギュッと抱き締められ、勇人はホッと安堵した。
「そ、そうだったんですか。ありがとうございます」
ペコッと頭を下げた勇人は知らない。篤と悟がアイコンタクトを取っていた事に…。
「さぁ。着替えましょう」
「えっ。あ、あのっ。自分で…」
「これもオレ達の仕事なんだ」
そう言われれば、勇人は黙っているしかない。篤と悟の手が、勇人の身体からパジャマと下着を脱がせていく。勇人は、明るい日差しの中で股間を押さえて丸くなった。
(この時間が恥ずかしい…っ)
2人は仕事だからと、毎回着替えを手伝ってくれる。だが、全裸を見られる勇人はたまったものではなかった。
「恥ずかしがる事はありません」
「オレ達は、勇人様のものなんだから」
今度は2人がかりで服を着せられる。時折、篤と悟の指が乳首や鼠径部に触れて勝手に身体が跳ねる。
「あ…」
反応してしまった下半身に赤くなれば、篤の指がソコに絡んできた。
「今朝は私が処理致します」
「あ、あのっ。自分で…」
「いーから。篤に任せとけって」
悟が後ろから勇人を抱き締める。勇人は、自分の下半身に伸びる篤の指に慌てて目を閉じた。声を出さないように我慢しながら、勇人は篤の手に欲望を吐き出した。
「健康な証拠です」
目を開ければ、ニッコリ笑っている篤がいた。
(執事って、こんな事もするんだ)
それから、勇人は別の服を着せられる。
この屋敷に住んでからというもの、勇人は1人で着替えた事さえないのだ。そして、自慰行為させ1人ではさせてもらえない。
「あの、明日からは自分で着替えますから、その、アレも…」
しどろもどろに言えば、篤と悟がそれぞれ左右の手を握る。
「それはいけません。私達の仕事です」
「オレ達、クビになっちまう」
そう言われれば、勇人だって逆らえない。篤も悟も、いつも良くしてくれた。広い屋敷で寂しくないのは、いつも2人が側にいてくれたからだ。
(俺が、恥ずかしい思いを我慢すればいいだけだ。うん)
勇人は、顔を真っ赤にして頷いた。双子があからさまにホッとする。
「私達は、勇人様に仕えるのが使命です」
「そうそう。ついでに目の保養・・・、あたたたたたっ」
さりげなく勇人の頬に唇を寄せた悟が、篤に頬をつねられる。そのコミカルなやり取りに勇人が笑えば、篤と悟も笑った。
「ですが、よく私達の違いがわかりますね」
勇人は、これまで1度として篤と悟を間違えた事はない。一卵性双生児である篤と悟を見分けるのは、かなりの至難の技だ。
「起きてる時ならまだしも、寝てる時ならわかんないだろ?」
勇人の髪型を整えながら、悟も不思議そうな顔をした。双子の素朴な疑問に、今度は勇人が首を傾げた。
「こんなに違うんだから、間違うはずないよ」
「…」
当たり前のようにサラッと言った勇人が洗面所に向かうのを見送り、篤と悟は顔を見合わせた。
「私達の眼鏡に狂いはなかったな」
「だな。勇人様こそ、俺達の主だ」
双子は、大きく頷いた。
篤と悟は、互いに双子である事が嫌な訳ではない。だが、これまでの主ときたら実にひどかった。
「名前を覚えてもらうだけで一苦労だった」
「だな。下手すりゃ、小野兄弟だぜ」
小野家特有の亜麻色の髪と瞳を持つ篤と悟は、その見た目の美しさと優秀さから引く手あまただった。だが、誰も2人の違いを理解してはくれなかった。
「それに、なんとも愛らしい」
篤が、脱ぎ捨てられた勇人のパジャマを抱き締める。そして、その残り香を胸一杯に吸い込んだ。
「本当。モロタイプなんだよなぁ」
悟も、勇人の寝ていた場所にダイブする。とにかく可愛いものが大好きな双子にとって、小動物を連想させる勇人の顔立ちはかなりタイプだった。おまけに、素直で純粋な勇人の性格もとても気に入っている。
「普通、執事はオナニーの手伝いなんかしないって」
悟がニヤッと笑う。そして、篤の方を睨んだ。
「明日はオレだからな」
「わかってる」
篤は、自分の手を見つめて溜め息を吐いた。まだ先程の感触が残っている。
双子は、いつしか勇人に恋愛感情を抱くようになっていた。できたら、想いを遂げたいと思うほどに。
篤と悟は、互いに顔を見合わせると、ほぼ同時に宣言した。
「抜け駆けはするなよ」
と。
篤と悟は、小さい時からすべて一緒だった。身長も体重も、好きな食べ物も。そして、恋愛対象も。篤と悟は、それぞれ心の底でこっそりと勇人を手に入れるための計画を考えていた。
一方、勇人は広大な屋敷で迷子になっていた。
(ここ、どこ?)
辺りを見回しても、白い壁が見えるだけで出口さえわからない。ほんの少し探索をしただけでこうなのだから、この屋敷はどれだけ広いのか。適当に角を曲がった瞬間、ドンッと何かにぶつかり勇人は派手に尻餅をついた。
「ってぇ~っ」
「お前か?勇人っていうのは」
名前を呼ばれて顔を上げれば、小柄な少年が冷めた目で見下ろしていた。
「僕は秋久。この家の長男。つまり、お前の兄だ」
秋久の言葉に、勇人は慌てて背筋を伸ばした。そういえば、息子が1人いると聞いていた。秋久は、勇人の顔と身体をジロジロと見つめ眉を潜めた。
「僕から執事を奪ったのが、こんなチンチクリンとはな」
母親がアメリカ人だったらしく、秋久はどこかハーフっぽい顔立ちをしていた。年齢は、勇人よりも1つ上の16歳。
「あいつらを返せ。僕の物だ」
「返せって、彼らは物じゃない」
ムッとして勇人が言い返せば、秋久が眉根を寄せる。
「何言ってんだ?あいつらは物と同じだろ。あれだけ見た目がいい執事はそうそういないんだ。さっさと返せ」
「嫌だ。お前みたいな奴に返すわけないだろっ」
勇人にとって、篤と悟は特別な存在だ。これまで、勇人はいつも1人だった。生まれた頃から母親と2人暮らしだったが、ほとんど顔を合わせる事がなかった。家で、いつも寂しく過ごしていた。
だが、この屋敷に来てからはいつも篤と悟が側にいてくれた。かなりスキンシップが激しいが、彼らは勇人を孤独から解放してくれたのだ。そんな彼らを物扱いされた事が、たまらなく嫌だった。
「生意気な奴めっ」
秋久が手を振り上げる。勇人はとっさに目を閉じた。乾いた音が周囲に響いたが、勇人はどこも痛くはなかった。恐る恐る目を開けると、そこに思いがけない人物の姿があった。
「篤さんっ」
篤は、赤くなった頬を押さえる事もしなかった。だが、その瞳には怒りの光が宿っている。そのなんともいえないオーラに、秋久は何も言えなかった。踵を返すとその場から走り去っていった。
「だ、大丈夫?篤さん」
勇人はオロオロしながら、持っていたハンカチを篤の頬に当てた。その手を、篤がそっと掴む。
「とても、嬉しかったです。あなたが、私達の事を物扱いしないでくれて」
「当たり前だよ。篤さんも悟さんも、僕の大切な人なんだから」
ニッコリ微笑んだ勇人の頬を、篤の両手が優しく包む。そして、そっと唇が重ねられた。
「好きです、勇人様」
「えっ、えっ、好き?えっ?」
予想外の言葉に、勇人は狼狽えた。口を両手で押さえ一歩下がれば、何かにぶつかった。振り向けば悟だ。ものすごい形相で篤を睨んでいる。
「篤。お前…」
「さ、悟さんっ。あの、これは、その…」
慌てて言い訳をしようとする勇人は、次の瞬間。悟にもキスをされていた。
「俺も、勇人様が好きだ」
悟が再びキスをしてくる。今度は、舌を入れられた濃厚な奴だ。勇人の身体が硬直する。
「悟っ。勇人様を離せっ」
篤の腕がすかさず勇人の身体を引っ張る。悟が、ニッコリと笑った。
「これから、容赦なく口説くからな」
「覚悟してくださいね」
何がなんだかわからないまま、勇人は双子から熱い抱擁を受ける事となった。
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