上 下
457 / 574
裏庭が裏ダンジョンでした外伝『地獄の旅は道づれに』

地獄の旅は道づれに 2

しおりを挟む
 トレイは魔剣片手に魔物達へと突っ込む。向こうもこちらに走り出していた。

 その中の1体を袈裟斬りにすると、切断面から業火が吹き出る。2体目3体目と横薙ぎに、下から縦斬りにと敵を斬った。

 魔物たちは消し炭になって崩れ落ち、煙と共に消える。

「やるじゃないか」

 サーラがわざとらしく拍手をすると、トレイは剣を鞘に収めて言う。

「これでも一応魔法使い兼剣士だったものでね」

 廃墟を出るとトレイは思わず眩しさに目を細める。自分にとっては昨日の事である魔人の根城は、見る影もなく崩れ落ち、緑で覆われていた。

「勇者は今、ここから少し遠くにあるエルフの村に来ているそうだ

「エルフの村か」

「歩きながら説明する」

 2人は廃墟を後にして歩く。そしてサーラはポツリポツリと話し始めた。

「魔人ドソクが居なくなって、魔物も数を減らして、世界は平和になった……。というのは間違いじゃないよ、人間にとってはね」

「人間にとっては?」

「魔物という戦いの対象が無くなった人間は、次にどうしたと思う?」

 少しトレイは考えてから言う。

「お偉いさんが危惧していた隣国との戦争か?」

「いいや、違うね」

 サーラは前を向いて歩いたまま答える。

「亜人だよ、魔物が居なくなった次はオークやエルフや獣人。その辺が標的になった」

「なっ、どういう事だ!?」

 亜人が標的と聞いてトレイは驚く。どういう事だと。

「亜人は人じゃない。人間以下だってね、そう国で決められたんだ」

「そんな話、おかしいだろ!!!」

 トレイは大きな声でサーラに言う。

「私に怒鳴らないでくれ、決めたのはアンタ達人間のお偉いさんだよ」

「あっ…… すまん」

 つい感情的になったトレイは反省した。それを見てサーラは話を続ける。

「亜人は奴隷にしても良いって法律が出来たんだよ。奴隷じゃなくても、重い税が課されるようになった。抵抗するようなら討伐も仕方がないってさ」

「ちょっと待ってくれ、それで勇者が…… オガネがエルフの村の近くに向かっているって事は……」

「そう、抵抗する亜人たちを討伐して回ってるんだ」

 それを聞いてトレイは血の気が引いた。

 自分が信じていた未来は魔人が倒されて、皆が笑顔で居られる世界だったのに。

 だが、実際には、剣として眠っていた間に様々な事が変わってしまっていたのだ。

「勇者が、勇者がそんな事をするなんて!!」

「魔物だって襲って皆殺しにしていたんだ。その延長線上だと考えれば割と納得できるけどね」

「魔物と亜人は違うだろう?」

「あのさ、私って一応、魔人の娘なんだけど」

 つい忘れていたトレイは「あっ……」と言って言葉を失った。気まずい空気になる。

「まー、私達も人間を襲って敵対してたから、仕方ないと言えばそれまでだけどね」

「なんて言うか、すまん……」

「いいさ、私は勇者を殺せればそれで良い」

「もう少し先でエルフの村長と落ち合う事になっている」

「そうか……」

 それ以降トレイとサーラの間に会話は無い。トレイは気まずい沈黙を終わらせるため、一刻も早くそのエルフの村長とやらに会い気持ちだ。

 鬱蒼とした森の中、そこに村長は居た。

「お待ちしておりました。サーラ様」

 そこには如何にもといった老人と付き添いの者が居る。長命のエルフが老人に見えるということは何百年と生きているのだろう。

「そちらが救世主様で?」

「あぁ、勇者をぶっ殺す救世主様だ」

「勝手にそんな物にしないでくれ」

 救世主と言われてトレイは何だか体がむず痒くなった。

「私はエルフの村で村長をしております『ノオ』と申します」

「はは、こりゃどうも。俺はトレイって言います」

 差し出されたシワだらけの枯れた手を握ってトレイは言う。

「それで、国の軍が来るまでどれぐらいだ??」

 サーラが聞くと村長は答えた。

「偵察の話によればほんの数日のうちかと」

「数日か……」

 トレイはそれを聞いてそのまま口に出すしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

半身転生

片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。 元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。 気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。 「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」 実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。 消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。 異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。 少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。 強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。 異世界は日本と比較して厳しい環境です。 日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。 主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。 つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。 最初の主人公は普通の青年です。 大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。 神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。 もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。 ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。 長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。 ただ必ず完結しますので安心してお読みください。 ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。 この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。 その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。 魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。 首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。 訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。 そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。 座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。 全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。 ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語

処理中です...