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スフィン

能力

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「この塔にはもう用はないな」

 スフィンがそう言いかけた時、女神の声が二人の脳内に響く。

「そうそう、マッサ。あなたにも何か能力を差し上げねばなりませんね」

 それを聞いて、待ってましたと言わんばかりにマッサの胸は高鳴る。

「あなたには、別の世界の勇者も持っていた能力を与えましょう」

「別の世界の勇者の能力……?」

「そうです」

 何が来るんだと、勿体もったいぶらせる女神にマッサはソワソワとしていた。

「名付けて『ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力』です」

「は?」

 女神の言葉にマッサは何を言われたのか理解できない。いや、理解したくない。

「ですから、『ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力』です」

「いや、何すかその能力!?」

 マッサはツッコミを入れた。その後頭をかきむしる。

「別の世界の勇者はこの能力で世界を救いました」

「噓でしょ!! 絶対嘘でしょ女神様!?」

 後ろではスフィンがクククと笑いを堪えていた。

「さぁ、行きなさい人の子よ! 世界を救うのです!!」

「そんな、もっと別の能力に……」

 マッサの訴えもむなしく、女神の声は消えて、扉が開く。




「全然手応えないわね、準備運動にもならないわ」

 塔の外では魔物を蹴散らしながらラミッタが呟く。

 マルクエンも同じだった。マッサの心配もしながら、魔物を簡単に斬り捨てている。

 その時、塔の扉が開いて、二人は振り返った。

 塔の石畳をコツコツと音を鳴らして人が来る。

 スフィンの隣を平然と歩くマッサを見て驚くラミッタとマルクエン。

「マッサさん、大丈夫ですか!?」

 マルクエンが声をかけると、ニッと笑うマッサ。

「大丈夫っす、スフィンさんに治してもらいました!」

「治したって、どういう事よ!?」

 ラミッタの問いにスフィンが口を開く。

「私はこの塔で癒す力を手に入れたらしい」

「癒す力……?」

 ピンと来ていないラミッタだったが、あの重症のマッサの傷が治っているのが何よりの証拠だ。

「そして、この男はククッ……『ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力』だったか? フフッ……、それを手に入れたらしい」

 笑いを堪えながら言うスフィンにマッサは動揺する。

「ちょ、ちょー!! スフィンさん、言わないで!! それは言わないで!!」

「な、何ですか? その能力は」

 困惑するマルクエンだったが、会話をさえぎってマッサは言う。

「そ、そんな事よりも!! スフィンさんも無事能力を手に入れたんですから王都に向かいましょう!!」

 荷物を捨て、馬も逃げ出した為、歩きの旅になるが、文句を言っていられない。

「近くの村で物資を集めましょうや。案内しますぜ!」

「その前に休憩したいんだけど……」

 ラミッタが言うと、「そうでした」とマッサは頭を掻く。

 夜通しで塔に向かい、戦い、疲労はだいぶ溜まっていた。

 すっかり夜が明けて日も登っている。

「手持ちの食料もありませんし、どうしたものか……」

「これだから騎士のおぼっちゃんは……。森があれば食べ物ぐらいなんとかなるわよ」

「そうだな、それでこそルーサの軍人だ」

 シュンとするマルクエン。四人は食料調達のために近くの森へと向かった。
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