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亜人の森

亜人の森

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「魔人と言いましたか? それは誤解です!」

「嘘つけ、私はソイツが空飛ぶの見た」

 曲刀を両手に持って猫耳の女は敵意を剥き出しにする。

「私達は勇者よ。この森の箱を壊しに来たわ」

「黙れ!!!」

 常人の数倍ある速さで突っ込んでくる猫耳の女。

 だが、マルクエンの動体視力の前には無力に近かった。

 一瞬で両手の剣を弾き飛ばし、右手を掴んで後ろに回してねじり上げる。

「なっ!!」

「ちょっと話を聞いてくれますか?」

「バインド!!」

 ラミッタは魔法で猫耳の女を拘束した。身動きができなくなり、倒れそうになるが、マルクエンが支え、ゆっくり地面に置かれる。

「離せ!! 魔人!!」

「だから違うって言ってるでしょ」

 ラミッタは国から発行された勇者の証明書を提示して言う。

「何だそれは!!」

「勇者の証明書よ、知らないの?」

「そんなもの知るか!!」

 どうしたものかとマルクエンとラミッタが考えていると、森の奥から何かが走ってきた。

 森を縫うように駆けて来たのは亜人の群れだ。

「セロラ!! どうした!?」

「コラー!! 魔人だ!!」

 魔人と聞いて亜人の群れは武器を構える。誤解が誤解を生んでしまい、マルクエンとラミッタは頭を抱えた。

「違います! 我々は勇者です!!」

「勇者であれば証明書を持っているはず!!」

「あるわよ、これよ!!」

 距離があったが、視力が良いのか提示されたそれをまじまじと見つめる。

「ラミッタ・ピラ……。マルクエン・クライス……。村に来るっていう勇者と同じ名前だ」

「金髪と白い鎧、茶髪と顔に切り傷。金色の剣。特徴も一致している……」

 コラーと呼ばれた亜人の男は独り言を呟く。

「これは……。失礼しました!!」

「コラー、本当に勇者か!? 私、この女が飛ぶの見たぞ!!」

「それなら、なおさら本物だ。ラミッタ様は空が飛べるらしい」

「ほ、ほんとか!?」

 コラーはマルクエン達に駆け寄り、土下座をしてきた。

「同胞の無礼をお許しください!!!」

 いきなりの事にあたふたするマルクエン。

「そ、そんな。頭を上げてください!!」

 がんとして頭を上げないコラー。マルクエンはしゃがんで肩を持ち、立ち上がらせた。

 ラミッタも襲いかかってきたセロラという猫耳女の拘束を解く。

「こちらも誤解をさせてしまい申し訳ない」

 互いに落ち着いた様なので、マルクエンは話し始める。

「勇者様、ごめんなさい」

 セロラもすっかりシュンとして落ち込んでいた。

「いえいえ、仕方がないですよ」

「勇者様、凄い強い。箱壊して欲しい」

「えぇ、その為に来ましたので」

 マルクエンが言うと、亜人達の顔が明るくなる。

「本当にありがとうございます!! では、早速ですが村までご案内致します!!」

 コラーはそう言って先導してくれたので、マルクエンは馬車を走らせた。

 しばらくすると、森の中が開け、村が見える。
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