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勇者さん

勇者とお夕飯

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「おっ、着いたっスよ」

 勇者との待ち合わせをしていた料理店までやって来た一行。店の前に立っていると、ボーイがこちらに気付いてやって来る。

「いらっしゃいませ」

「えっと、予約していた勇者マスカルさんと一緒に食事を誘われた者っス」

 ケイが言うと、ボーイは目を丸くして礼をした。

「お待ちしておりました。お席までご案内いたします」

 きらびやかな店内の、奥の席へとマルクエン達は案内された。勇者はまだ来ていないみたいだ。

「人を誘っておいて、遅れてくるなんて、いい性格してるわね」

「まぁまぁ、ラミッタ。私達が早く来ているだけだ」

 ムスッとしているラミッタをマルクエンは宥める。

 数分もしない内に勇者達はやって来た。

「お待たせして申し訳ない。皆さんこんばんは」

 爽やかな笑顔で勇者マスカルが登場する。私服の青いワンピースを着ているラミッタに思わず目が行っていた。

 全員が席に座ると、軽いつまみと食前酒のワインが運ばれてきた。

「あー、申し訳ない。私は酒が飲めなくて……」

 マルクエンだけぶどうジュースに取り替えられ「おこちゃま」とラミッタが悪態をつく。

「それでは、出会いに乾杯!!」

 マスカルが乾杯と言い、皆でグラスを上に掲げた。

「自己紹介といきましょうか。私はマスカル。勇者を務めさせて頂いております」

「剣士のゴーダです」

 短く挨拶をするゴーダという男。勇者とは対照的に口数が少ない寡黙な感じだが、体つきを見るに強い戦士なのだろう。

「魔道士のアレラです。皆様よろしくお願いします」

 魔法使いの上級クラスである魔道士を名乗る女、アレラはそう言って軽く会釈をした。二人共マルクエン達より少し年上だ。

「それでは、マルクエンと申します。初心者の冒険者です」

「えっと、じゃあ私も……。シヘンです」

「ケイっす。剣士やってます!!」

 マルクエン達は挨拶をしたが、ラミッタは興味無さそうにワインを飲んでいた。

「ラミッタ、挨拶をだな……」

 催促され、やっと自己紹介を始める。

「ラミッタです。魔剣士をやっています」

 棒読みに近いぐらい感情がこもっていなかった。

「ラミッタさん……。やはり可憐な名前だ」

 マスカルはうっとりとして言う。ラミッタは引いていた。

「皆さんは冒険者になられてどのぐらいでしょう?」

 そう魔道士のアレラが尋ねてくる。

「私は1年ぐらいです」

 シヘンはおずおずと言う。それとは対称的にケイは元気よく答えた。

「1年半ぐらいっス! それなのに勇者様達とお食事が出来て光栄ッス!!!」

 ゴマをするケイ、マルクエンはえーっと、と言った後に話し始める。

「私は冒険者にはなりたてでして」

「そうなのですか? それにしてはお強い様に見えますが」

 剣士のゴーダは、マルクエンの体格と動きを見て只者ではないと直感で感じ取っていた。

「えーっと、遠い国で騎士をやっていまして」

「なるほど、そうでしたか」

 ゴーダはそれを聞いて納得する。マスカルは男のことなんてどうでも良いと思っていたが。

「私は2ヶ月ぐらいです」

 興味なさそうにラミッタが言う。すかさずマスカルはそれに食いついた。

「2ヶ月ですか!? うんうん、冒険者として楽しい時期ですね」

 マスカルは一人頷く。その後、気になっていた事を聞いた。

「それで、皆さんはどういった経緯でパーティを組まれているのでしょうか?」

「えっと、マルクエンさんとラミッタさんの旅に私達は付いていくことにして、それでパーティを組んでいます」

 無口なラミッタの代わりにシヘンが答える。マスカルは天使とこの冴えない男が一緒に旅をしていると聞いてガックリとしていた。

「ラミッタさんと……、マルクエンさんはどういったご関係で?」

「ただの腐れ縁です」

 ラミッタはそっぽを向いて答える。今日はこれ以上に話をしても無理かと悟ったマスカルは笑顔を崩さずに当たり障り無い会話をした。

 その後は、運ばれた料理を堪能し、食事会は解散となる。

「こちらからお誘いしたので、ここはご馳走させて下さい」

「いえ、そういう訳には……」

 マスカルの提案にマルクエン達は遠慮をするが、押し切られる形で夕飯を奢って貰った。
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