上 下
2 / 234
再会

再会

しおりを挟む
 女の名がわかった所で、笑顔を作りマルクエンは言う。

「シヘンさんですか、よろしくお願いします」

「い、いえ、その、マルクエンさんのお国の……」

 シヘンは先程言われた国名を忘れてしまい、察したマルクエンがもう一度言う。

「あぁ、イーヌ王国です」

「そう! イーヌ王国……。ごめんなさい、聞いたことがありません」

「そうですか……」

 イーヌ王国は決して小さな国ではないので、名を知らぬという事は、よほど遠い地なのか、もしくは本当に死後の世界なのか。

「あの、どうしてマルクエンさんは森に?」

 シヘンに聞かれ、マルクエンはうーんと悩み言った。

「えぇ、とても信じられない話なのですが、気付いたらここに居たのです」

「そうなのですか、不思議ですね……。あっもしかして記憶喪失ってやつなのかもしれませんね」

 シヘンが言った後に「そうだ」と両手を顔の前で合わせる。

「近くの村の冒険者ギルドへ行きませんか? そこならばきっと誰かマルクエンさんの事か、お国の事を知っているかもしれません!」

 確かに、このまま森に居てもらちが明かないなと思ったマルクエンはその提案を受け入れることにした。

「分かりました。是非ご案内をよろしくお願いします」

「はい!」

 笑顔を作り、シヘンは元気よく返事を返してくれる。

 マルクエンは道中の会話で分かった事がある。この国は『コニヤン』という名であるということ、その中でもここは辺境の土地だということ。

 シヘンは駆け出しの冒険者で、薬草集めをしていたら、急に現れたゴブリンの群れに襲われたということ。

 後は他愛もない話をしていると、村へと付いた。

「あそこがトーラの村です」

 シヘンが指差す方を見ると、のどかな村が見えた。家は四、五十ほどあり、人もポツポツと歩いている。

「良い村ですね」

「ありがとうございます! 私の生まれ故郷なので嬉しいです」

 村の中へ行くと、立派な建物が目に入った。どうやらそこが冒険者ギルドらしい。

 ギルドの中に入ると、冒険者らしき女がシヘンに声を掛けた。

「あれ、シヘンと……。そちらのイイ男はどちら様っすか?」

「マルクエンさんです。さっきゴブリンに襲われた所を助けて貰いました!」

「ゴブリンだって!? 最近、魔王のせいでこの辺りも物騒になったねー。マルクエンさんか、あざっス!」

 女がそう言うと、マルクエンも言葉を返す。

「いえ、騎士として困っている方は見過ごせないだけです」

「あら、冒険者じゃなくて騎士さんっスか。でもこんな村に騎士さんが何の御用で?」

「えぇ、どうも困った事になりまして」

 マルクエンはショートカットで銀髪の女に事情を話した。

「そっかー、ここに来るまでの記憶が無いっすか。それに、私もイーヌ王国ってのは聞いた事がないっスね」

「そうですか……」

 その返事に、マルクエンは落胆する。

「記憶が無いってのなら一応、冒険者として登録されているか確認してみたらどうっすかね」

 女は受付を指さして言う。

「そうですね、万が一って事もあるでしょうし」

 マルクエンは言われるがまま、ダメ元でシヘンと共に受付へと向かった。

「こんにちは、シヘンさん。依頼はどうなりましたか?」

「えぇ、依頼はこなせたのですが……」

 シヘンは森でゴブリンに襲われたこと、マルクエンに助けて貰ったことを話す。

「そうでしたか……。森の依頼も受付のランクを上げないといけませんね。そして、冒険者を助けて頂きありがとうございます。マルクエンさん」

「いえいえ、当然のことです」

 頭を下げる受付嬢に、マルクエンも軽く頭を下げた。

「そして、マルクエンさんですが、冒険者には登録されていないですし、お見かけしたこともありませんね」

「そうですか」

 それはそうだとマルクエンは思う。それならば何故、どうやって自分はあの森に居たのだろうかと考える。

「さて、これからどうしたものか」

 受付を離れ、ギルドの椅子に腰掛けてマルクエンは独り言を言う。

「とりあえず、マルクエンさんお腹空いていませんか? ここは食事も出しているので、良かったらご馳走させて下さい!」

「いえ、そんな訳には」

 と、言いかけたが、確かに腹は減っていた。だが、この国の通貨は持ち合わせていない。

「すみません、シヘンさん。お金は後でお返しするので、お言葉に甘えても良いでしょうか?」

「もちろんです! あと、お金は要りませんよ」

「ですが……」

「いーじゃないっスかマルクエンさん。奢ってもらいましょうよ」

 さきほど話していた女もマルクエンの隣に座ってそう言った。

「名前言ってなかったっスね。私はケイ! ケイ・ゴカークっす」

「ケイさんですか。よろしくお願いします」

 名前を呼ぶと、ケイはニカッと笑う。そんな時、冒険者ギルドの扉が開き、人が入ってきた。

「お、アレは期待のルーキーっすね」

 そう言われ、マルクエンはその方向を見る。思わず声が出て立ち上がった。見間違えようが無い。あの顔、あの格好は……。

「魔剣士ラミッタ!?」

 その声に期待のルーキーはマルクエンを見て叫ぶ。

「え、は? わ、我が宿敵ー!!!?」

 ギルド内は静まり返った。皆がラミッタとマルクエンに注目している。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

処理中です...