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ほこほこ日和
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しおりを挟む客は誰もいなくなり、店員も口数が少ないので店が静まり返る。
カチャ、カチャっと洗い物の音だけがたまに聞こえる中、ようやく笑い終え落ち着いたコンがこっちにおいでとカワジを横に座らせると、ほつれた髪のゴムをとり優しく手で梳きくくり直してくれた。
「ああぁぁ、笑ったぁ。笑ってごめんね。カワジはどうしてもそれがしたいってことだったら応援するから」
そう言って、にやっと笑う。やれるものならやってみたらと発破をかけられているようにも見え、ちょっぴし不安になった。
──そんなにおかしなお願いごとだったかなぁ?
カワジにとってはとてもとてもいい願い事だったはずだ。
「むぅぅぅ。見てて!! 絶対、絶対叶えてみせるから」
「それがカワジの願いなんだもんね。叶うといいね」
今度は笑わず頷いてくれたので、カワジも嬉しくなってうんうんと頷いた。
「ありがとう!! 頑張るよ!!」
「やる気だねぇ。ちょっとその場で見てみたくなってきたなぁ。いつとかわからないもんね~」
残念そうに告げるコンに、カワジもふよっと眉を下げた。そのことを考えると、どきどき、そわそわしてくる。
「近いうちにっておっしゃっていたけど、どうかなぁ。考えるとドキドキしてきたぁっ」
「いざとなったらカワジは緊張してそうだねぇ」
その時の様子が浮かぶようだと、コンが細めた目の奥がきらりと楽しげに揺らめく。
「うまくできるかなぁ。考えると口から魂魄でそうだけど、絶対成功させてみせるよ」
「神様にもお願いしたからね」
「うん! だから、また座敷童子の姐さまのところに通うつもりだよ。人間の行動をもうちょっと勉強したいし、それに今日のことも報告しておきたいもの」
「ああ、……うん。まあ、カワジがいいなら好きなようにやってごらん。我も顔を出すよ」
「本当? やったぁ!! 姐さまのお話は面白いし、コンも一緒だともっと楽しくなるよねぇ。嬉しいなぁ」
にこにこにこと満面の笑みを浮かべて、また嬉しいなぁと言いながらコンを見つめる。
「そんなに喜んでくれてこっちも嬉しいよ。うまくいくといいね」
「うん!! コンのおかげで人間と話すのも楽しみになってきたし、今日はたくさん遊んでたくさん日に当たって、とっても楽しかったぁ」
「そうだね」
「あっ、ここを出たらケーキを食べに行こう!!」
「さっきお腹いっぱいって言ってなかった?」
「それはそれ~。これはこれ~。デザートは別腹なの。それに兄さまにも何かお土産持って帰りたいし。ね、行こう!!」
「仕方がないなぁ。なら、そこの二階のカフェのガトーショコラでも食べようか」
「わぁ!! あそこのは濃厚なんだよね。口に入れると蕩けるしぃ」
「そうそう。美味しいよね」
「わぁ、考えるだけでよだれが出そう。他にもあるかなぁ?」
「あるんじゃない。食欲の秋、女性にとっては秋のデザートはいつもに増して特別。別腹。ご褒美というからね。新作出てるかもしれないね」
「わぁ!! 見た目も綺麗だから楽しみ~。ね、早く行こう!!」
カワジはぴょこんと立つと、コンのしなやかな女性の手を握り引っ張る。
「こら。そんなに慌てなくても逃げないって」
「でもでもでも~、ケーキたちがこっちにおいでって呼んでる気がするよ~。いや、絶対呼んでいるぅ。コン~、早く行きた~い!!」
「わかったから。本当にカワジは食べるの好きだねぇ」
「うん。美味しいものは心がほんわかするんだもの。食べるだけで、すっごくすっごくほこほこするんだ~」
「ほこほこねぇ。カワジを見ていると、こっちもほこほこするからそうなのかもしれないね。さて、行きますか」
「うん!!」
二人は仲良く手を繋ぎ店を出る。目的のカフェまで、人に紛れてあれやこれやと話ながらゆっくりと歩いて行った。
立ち去ったお店のカワジたちが座った場所は、心なしかきらきら澄んでい見えた。そこに座ったものはいつもより美味しく感じ、みなほっこりして店を後にする者が増え、その席は必ず先に埋まるようになるのはすぐのこと。
本日のカワジのほこほこはまだまだ続くようだ。
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きゃわわぁ〜(*//艸//)♡
感想ありがとうございます‼︎
カワジ愛でられる存在になればと書きましたので、すっごっく嬉しいです⤴︎⤴︎
大和は妖に慣れ過ぎて放置したかったけど、結局耐えきれませんでしたww