17 / 33
ほこほこ日和
3
しおりを挟むそんな豆腐のように思考がふにゃふにゃのカワジと違って、その日の座敷童子の姐さまはそれはそれはご満悦で、その後二階に戻るとふふっと笑った。袖で口元を隠し上品に笑ってはいるが、ふふっ、ふふっ、といつまでも楽しそう。
なんだか、自分だけがショックを受けていることにまたショックを受けてつつつっと畳の溝をなぞる行為をしていると、ぽすっと頭に手が置かれた。体温もなにもないが、優しい手つき。
見上げると、アシュラが困ったように眉を下げてこっちを見ていた。意気消沈したカワジをアシュラなりに励まそうと思ってくれているようだ。
『大丈夫か?』
『か?』
『か?』
小さく頷くと、ほっと息を吐き出したアシュラはそれでもずっと頭を撫でてくれた。ゆっくりと先ほどの衝撃が退いていき、人間と話して触られたことを実感していく。
その間、マンが一度階下へと降り再び戻ってくると、カワジの前に切った柿を置く。
『ほれ、これでも食べろ』
食べ物を見ると少し気分が上昇し、こくんと頷き手を伸ばした。
太陽の光をたくさん浴びた綺麗なオレンジの色。爪楊枝を刺すと表面を突き破りずずずっとゆっくりと実に入り込む。固すぎず柔らかすぎず、いい熟れ具合。たまに早かったと思うこともあるので、どんぴしゃりで食べることができると口元が緩む。
『おいしぃぃ~』
甘い果実に適度な歯ごたえ。うん。おいしい!
もぐもぐと食べて全てを口に入れると、流れるようにもう一つを刺してキープする。とられる訳ではないが、ついつい、だ。
『それは良かった。ちょっとは元気出たようだな?』
『うん。でも、触られた……』
『ああ、それはこちらも驚いだ。話に聞いたばかりの壁ドンつきだったな』
『ぐわぁってきて怖かった……』
マンの言葉に眉根を寄せた情けない顔でカワジが答えると、姐さまがふふっとまた笑う。
カワジは複雑な表情のまま、また柿にかじりついた。もぐもぐもぐと口を動かすと柿の甘さがじんわり広がり、喉を通り越して胸まで甘くしみるようだ。ちょっぴり、気分上昇。
『それでも食欲は別のようだな』
『だって、美味しいには逆らえないんだもの~』
マンがにやにやと笑うので、むむぅっとカワジはそれとこれとは別だと口を尖らせた。
『カワジはやっぱり食い気だな』
『違うもん』
『どうだかな。まあ、美味しいもの食べれて元気が出たなら良かったよ』
『……ありがとう』
カワジはふてくされながらも好意は嬉しいのでぽそりと礼を言うと、マンはたぷんと頬を揺らし笑う。
『いや。どういたしまして。なかなか見れない面白いもの見れたしな? 座敷童子も満足そうで良かったじゃないか』
マンが話を振ると、『楽しい時間だったのぉ』とほほほほっと座敷童子は優雅に笑う。
『カワジ、今日のこれも乙女としての一歩よ。ほれ、いつまでもしょげかえるでない。最近妾が仕入れた面白い話をしてやるからの』
ひらりと小さな手を上げこっちにおいでと姐さまに手招きされ、カワジはつつつっと寄っていった。いい子とばかりに頬を白い手で撫でられ、白檀の香りがカワジを包む。
その匂いは懐かしさとともに、カワジの気持ちを落ち着かせる。するりするりと撫でられる細い指の感触に目を細めた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
貧乏神の嫁入り
石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。
この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。
風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。
貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。
貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫?
いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。
*カクヨム、エブリスタにも掲載中。
闇に蠢く
野村勇輔(ノムラユーリ)
ホラー
関わると行方不明になると噂される喪服の女(少女)に関わってしまった相原奈央と相原響紀。
響紀は女の手にかかり、命を落とす。
さらに奈央も狙われて……
イラスト:ミコトカエ(@takoharamint)様
※無断転載等不可
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
声劇台本置き場
ツムギ
キャラ文芸
望本(もちもと)ツムギが作成したフリーの声劇台本を投稿する場所になります。使用報告は要りませんが、使用の際には、作者の名前を出して頂けたら嬉しいです。
台本は人数ごとで分けました。比率は男:女の順で記載しています。キャラクターの性別を変更しなければ、演じる方の声は男女問いません。詳細は本編内の上部に記載しており、登場人物、上演時間、あらすじなどを記載してあります。
詳しい注意事項に付きましては、【ご利用の際について】を一読して頂ければと思います。(書いてる内容は正直変わりません)
CODE:HEXA
青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。
AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。
孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。
※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。
※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋少女と狐の見廻り
紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。
人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。
一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか?
不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる