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カワジ、卒倒する

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 姐さまの予言なる言葉にも、カップルにもカワジは興奮しまくりだ。早く早くと急かすようにその場でぴょんぴょん跳ねる。

「ほれ、二人の距離が近いから壁ドン以上。つまりゼロ距離までいくかもしれん」

「ゼロ距離って?」

「キッスっというやつだ。ほれ、口と口が」

接吻せっぷんだ」

「接吻」
「接吻」

 アシュラの説明が入る。

「そうそう。昔でいう接吻だ。口と口をぶちゅうとくっつけるやつだ。あれで愛の重さを測るのじゃ」

「ああ、夜道で見たことがある。それに、たまに園児たちが『チュッ』といってしてたりする」

「そう、それだ。今はちまたではキスというらしい」

「さすが、座敷童子の姐さまです。勉強になります」

「ふふふっ。これからそれをかますぞ」

「こんな白昼堂々と。大人が?!」

 ひゃーっ、とよくわからないなりに頬に手を当てカワジは照れて見せる。

 座敷童子がほほほっと優美に「それが流行りというやつじゃ」と笑い、ちろりと男を面白そうに見上げた。

「それは流行りとは言わないだろう。最近みたやつは物陰にかくれてやっておったで。相変わらず、座敷童子はせっかちだな」

 ここでマンが意見を述べる。物陰でやるのが風情だというのに、恥じらいがあってこそだろうとぶつぶつとつぶやく。

「それはそれで奥に連れ込まれてというのもいいがの。今はまさに絶好のタイミングだろう。彼女も期待しておる」

「いや、そうは思わん。さすがにここは人が多すぎる。店員も忙しく動き回っているし落ち着かない」

「マンは古いのお。スリルを味わうというのも恋愛にとってスパイスだ。この落ち着かないなかで意識しあい、そこでぶちゅうとかませば忘れない思い出。イチコロだ」

「だとしても、始めからぶちゅうとは品がないだろう」

「押しも必要だと読んだぞ?」

 やいやいと、するしない、品があるない、と賑やかにテーブルの周囲を囲む妖たち。とりあえず、何か動くことが前提で白熱した会話が飛び交う。
 その時、眼鏡野獣が彼女の手を掴んだ。
 妖たちの視線が一斉に集まる。

「ひゃぁぁ」

「動くぞ」

「どうでるかの?」

「…………」

「……」
「……」

 コクリと息を飲んだ。四妖はじっと見守り、男の行動を待つ。男は彼女の手を掴んだまま動かない。

 まだ、動かない。
 まだ、まだ、動かない。

「まだかっ!!」

「……動かぬのぉ。もしや、これは、焦らしプレイというやつなのかもしれぬ」

 しびれを切らせたマンが叫んだので、座敷童子が乙女脳で解説する。

「これが焦らしプレイ!!」

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