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後日談

姉のおめでた(セリフ一言書籍記念SS)②

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 翌日、アンドリューとともに姉夫婦の前に座る。
 愛おしそうにシルヴィアのお腹にそっと手を当て、慈愛たっぷりと姉を見つめるオズワルドは相変わらずだ。

 姉への愛が溢れ出て相変わらず甘いのだけれど、妊娠中だからか甘いだけではないところが一緒の空間にいてわかる。いつもより息がしやすい。
 あくまで以前と比べるとだけれど、私は姉が幸せならそれでいい。それを息苦しいと本人が思わなければ、愛っていいねなのだ。
 そして二人は私の推しなので、二人で、そしてゆくゆくは子どもも込みでさらに幸せになってほしい。

「ヴィア姉さま。体調のほうはどうですか?」
「ええ。もう大分落ちついたので大丈夫よ。それよりもたくさんの食料をありがとう」
「私からも礼を。フロンティアが手がけた野菜だとヴィアの食欲も出るようで、今は安定期も近いというのもあるかもしれないが一時期より落ちついた。ありがとう」
「そうなんですか? それは良かったです」

 それは嬉しい。隊長とシュクリュと姉のためにとたくさんの気持ちを込めて育てた野菜だ。
 美味しく食べてもらえたのならそれがいい。

「ああ。きっとお腹の子どもも喜んでいるだろう」
「楽しみですね」

 どっちに似ても可愛い子である。
 片方に似るのか、目はこっち、鼻はこっちとなるのかはわからないけれど、身内というだけでもう愛しさがある。

 あまり長居はできないので、さっそく今回の訪問の理由の話を切り出す。

「それでですね。ヴィア姉さまに食べてほしくて新たな果物を開発しました。美容にもよい成分入っていてとっても美味しいんです。赤ちゃんに栄養持っていかれる分、良いものたくさん食べてほしくて」

 控えていた侍従にすかさず箱を渡されて、私は姉に見えやすいように箱を開けた。

 イチミカはイチゴとミカンの中間の大きさだ。味は爽やかな甘さ。どれを食べても酸っぱいものはなく均一で甘い。それでいてくどくない。
 つまり、口の中が美味しくて、身体にもめっちゃ美味しい。

「可愛い果物ね。オレンジよりも赤みが強いのね。中も同じ色?」
「ええそうです。オレンジと同系のミカンとイチゴを掛け合わせてできました。しかも中の薄皮もなくて食べやすいんです」
「えっ? なり方がまったく違わない?」

 さすがシルヴィアである。木になってようやく実るミカンと苗からなるイチゴでは違いすぎるので、最初は無理だと私も思っていたけれどなんでもやってみるものだ。

「えへへ。そこはまあ……」
「なるほど。フロンティアの能力ということですね。まあ、そこで濁すのは殿下にも口止めされたということですね」
「はい。そうです」

 ちらりとアンドリューを見ると、いい笑顔でにっこりと笑った。

「悪い魔法ではなく可能性の広がる魔法だが、ここまでなんでもありだといらぬ問題が沸くからな。しばらくは制限するつもりだ。それがいつ解除になるかはわからないが」
「そのほうがいいでしょう。今でも十分この国は恩恵を受けていますしね。もう少し事を起こす前になんとかならないものかとは思いますが」
「今回は姉と赤ん坊への祝いの気持ち、北部のことを考えて新たに開発をと思ったようだからな」
「それを言われれば強く出れませんね。だから厳重注意と。まあ、そう言っても何かあれば突っ走りそうですが」

 とても端整な顔に似合った魅惑的な紫の瞳で見られ、私はうっと顎を引く。
 私自身もちょっと危ういなと思ってすぐに相談したし、アンドリューにもその可能性を言われ身に染みた後なので、アンドリューのブレインと言われるオズワルドの言葉は素直に受け入れる。
 だけど、何か起こす前提って思われているのは解せない。

「そんなに簡単に何か起こることはないと思います」
「だといいのですが」

 まったく信じていないとばかりのそれに、ううーんと口を引き結ぶ。
 確かに問題は起こすかどうかは別としてじっとしているタイプではないし、お野菜たちも活動的なので何かあったときに自分の首を絞めるとこれ以上の反論は控えたら、ふっと横でアンドリューが笑った。
 ぽん、と肩を叩かれて、そのまま肩に手を回される。

「自重は必要だけど無駄に気を張らず、ティアは思うように動いたらいい。ただし、相談確認は大事だ。それと、起こらないようにするのが俺たちの仕事だな。国が荒れたらティアの心が乱れて神木や神獣たちが黙っていない。オズワルド、頼むぞ」
「なるほど。今回はなぜ改めて四人で会う必要がと思ったのですがこういうことですか。国のため、アンドリュー殿下のため、ヴィアのため、私もフロンティア殿下の役に立てるように気合いをいれましょう」

 敬称をつけられてドキリとする。
 つまり、王太子妃としてのサポートをオズワルドが全力ですると宣言したのだ。

 オズワルドの大事なものと私は深く繋がりがあるから、主君の伴侶、自身の伴侶の妹として目をかけてもらっていたけれど、これからは王太子妃としても見ていくぞということだ。
 今までも十分してもらっていたのだけれど。

 ……――推しのサポート。なんだろう、オズワルドのそれめっちゃ怖い。厳しそう。

「あ、ありがとうございます」

 とても心強いのだけど、気持ちがひゅっとなった気がして安息を求めて私は視線を姉へと向けた。
 すると、シルヴィアはふわりと慈愛の微笑みを浮かべる。

 ――ヴィア姉さま好き! 

 やっぱり姉は最高だとほっとする。
 頼もしすぎる二人と、癒やしのシルヴィア、そしていつか会える赤ちゃん。外に出れば、たくさんの仲間たち。そして、やりたいことを自由にさせて守ってくれるアンドリュー。
 私はやっぱり恵まれているなと、そんな彼らの幸せのためにできることは頑張っていこうと心に誓った。

 イチミカと同じように品種改良をしたひとつが騒動の中心となり、右往左往することになるのはもう少し先の話。


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