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課題とお野菜ズ

チビっこたちのスパイ活動②

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 数体の芽キャベツやラディッシュたちが、えっちらおっちらとふらふらとこちらに向かってきている。
 しかもチビっこたちの手にあるのは、昨日なくしたはずの植木鉢。

 どうぞとばかりに献上され、隊長を下ろし私は植木鉢を大事に受け取った。
 土からうっすらと見えているそれは昨日と変わりないようで、ひとまずほっとする。

「どこにあったの?」

 見つからないことも覚悟していたのに、こんなにあっさりと見つかり、しかもお野菜ズによって手渡されるとは思いもしなかった。

 すると、クラスで大人しい部類の南部の男爵令嬢、茶髪で茶色の瞳のマロリーやカルラ嬢たちのスカートをくいくいっと引っ張った。
 わらわらと寄って集られて、押し出されるように彼女たちが集まるクラスメイトの輪の中から一歩前に出る。

「彼女たちが関係しているということ?」

 カルラたちは日頃の突っ掛かりから不思議ではないけど、マロリーは意外であった。

 どこから失敬してきたのか枝豆たちが運んできた大きめの学園の地図を床に広げると、隊長は私が昨日いた図書館を指し、ちょいちょいと焼却炉の横手を指してはくいくいっとマロリーを指す。
 それに合わせて、ラディッシュたちが自分たちが目撃したんだよとばかりに、ミニチュアフィギュアを置いていく。

 あちこちに配置されるミニチュアに、私は唖然とした。
 いったいいつからどれだけのお野菜たちがこの学園で活動していたのだろうか。

 王都にいる野菜たちのすべての数は把握していない。
 その日の出荷数だけ決めてそれさえ確実ならあとはみな好き勝手に自由に動いているし、カブたちが仲間になってからは伯爵領並のスピードで開拓が進んでいた。

 それでも、あの場所から勝手に出て活動しているなんて考えもしなくて、まじまじとお野菜たちを見る。
 どこかえっへんとばかりに隊長が腰辺りに手を置いたので、もしかしてこれも隊長の指示だったり? 伯爵領から?

 ──これって、スパイ活動ってこと?

 どうやらちょこちょこお野菜たちの幻覚が見えると思っていたのは、本当に彼らが動いていたからのようだ。

 チビっこのスパイ活動……。
 周囲に気づかれずあっちこっちに散って情報収集し、誰の権力に縛られず掲示されるってこれすごくない?

 誰も野菜に監視されているとは思わないだろうし、しゃべれはしないが話している内容はある程度は理解しているらしいので、そこに聡い隊長が加わったらなかなかの情報収集力だと思う。
 もう、どこからどこまで隊長の考えと影響力なのかわからないが、お野菜たちには驚かされっぱなしである。

 うんうん、と頷く隊長とチビっこたち。
 もういっちょとばかりに同じ動作を繰り返し、じぃぃぃぃぃーっと全員でマロリーを見た。

 野菜圧がすごい。
 先ほどまで聞こえていた話し声が一斉になくなり、誰もが口を噤んでこの場の行方を見守る。

 途端、堪えきれなかったのか、マロリーの身体は心配になるほどかたかたと震えだした。
 最初は戸惑いが大きいだけだったそばかすの浮いたマロリーの顔が、次第に青ざめていく。

「なるほど」

 静かなアンドリューの声を皮切りに、うぅっと崩れ落ち泣きじゃくるマロリー令嬢。
 王太子の前で容疑をかけられ、反応からすっかりバレていたが身に覚えがあるらしい彼女はそれ以上誤魔化しきれないと思ったのだろう。

「…………すみません。うっ、ぐすっ、うっ、隠すだけって、それならそこまで問題にならないって言われて……、私には、こうするしか、ぐすっ」

 長い沈黙のあと、マロリーはぐすっ、ぐすっと嗚咽を挟みながら口にした。

 隠すだけ。確かにバレたところで大きな問題にはならないと思ってしまった。
 人の物を勝手にどうこうすること自体してはいけないことだけど、盗むでもなく壊すでもなく、隠すだけ。
 被害者であることを忘れて、私は感心の声を上げた。

「へぇ」

 学生の中のいざこざは、多少は意図をもって見逃されている。
 なぜなら、ここを巣立つと狡猾な猛獣がいる世界で生きていかなければならないのだ。ここで潰れるのなら、それまで。

 綺麗ごとで守られた場所にしようと思えば、大人や権力があるものが介入すればできるのかもしれない。
 だけど、そうすると学園の外に出れば速攻潰される。胆力のある優秀な人材が欲しい王国としては、程よく締めて程よく見逃すようにしているのだろう。

 それらは、アンドリューやオズワルド、姉のシルヴィアの話を聞いて、実際生活してみての私の感想である。
 もちろん学園も過度な行為が発覚した場合は厳しく対処するし、それらを取り締まる組織も学園の中にあり、物を隠すだけではそれらが出張るほどでもない。

 これが何度もとなればまた違ってくるのだろうが、実害を被ったのは今回初めてである。
 実際、二年前のピンクのヒロインがいろいろやらかしたときはしっかり粛清されたし、学園としてのボーダーラインというものがあるのだろう。

 ましてや、ここは魔法学園。
 攻撃(物理的もそうだが、心理的にも)と見なされる魔法は禁止されているが、教科書が汚れないように保護魔法かけるとか己の生活向上面の魔法は推奨されている。

 なので、盗るほうの品位が落ちるのは当然だが、大事なものを簡単に盗られる被害者側も防御がなっていないと評価も下がる。
 だから、先生にも叱られたのだ。

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