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課題とお野菜ズ
隊長の座
しおりを挟む「そろそろいいだろう?」
一通り隊長の肩ぽんぽんを堪能し、隊長に悪いところがないか確認していると、アンドリューが反対側の肩を叩きずっと屈みっぱなしだった私を立たせた。
そして、またそっと腰に手を回される。
添えられる程度だったので、私は気にしないことにして先ほどより隊長の癒やし効果で落ちついた気持ちで王子と対峙した。
「はい。ありがとうございます。殿下、隊長は領を出て大丈夫なのでしょうか?」
「私が見たところは問題ないようだね」
「安心いたしました。そもそも隊長はどうしてここに?」
「視察の帰りに伯爵領に寄ったのだが、そのときにどうしても一緒に連れていけと主張が激しかったから連れてきたよ」
「それは──、ありがとうございます」
王子を使うカブ隊長。
隊長を優遇してくれるのはありがたいのだけど、野菜に使われるとかこの国の王子としていいのだろうか。生みの親としては非常に申し訳ない。
「隊長のことだ。しっかり根回しと準備をしてきたみたいだからね。領での野菜たちの隊長の座は降りたようだよ」
「えっ?」
領での?
「あれはなかなか見物だったな」
そう言うと、くっと笑いそうになったのをこほんっと咳をしてごまかすアンドリュー。
いったい何があったのか。絶対その反応は楽しいことがあったに違いない。
なんで私がいないときにするのかな? 羨ましすぎる。
何があったのかすっごく気になるのですけど。
じとっと抱えている隊長を見ると、またぽんぽんと肩を叩かれる。
ああー、癒される。
来てくれただけでも十分ではあるのだけれど、もうちょっとこう頼ってほしいというか、教えてほしいというか。
むぅっと頬を膨らませると、アンドリューとよじ登ってきた隊長も左右から同時に突かれる。
隊長のひんやりおててはソフトに、アンドリューは頬をへこませるほどに。
むにゅうと押されてアンドリューを見上げると、作られた笑みではなく楽しげに口角が上がった。
「何を考えているのかよくわかるな。ティアのそういうわかりやすいところはいいと思う」
「それは褒めてませんよね?」
「褒めている。そのまままっすぐで素直でいてくれるだけでいい」
こちらに向けられたやけに艶やかな碧眼が、すぅっと柔らかく細められる。
いつものような爽やかな王子の笑顔なのだが、その瞳の奥が近くにいる私にはわかるほど雄弁に情を伝えてきた。
急なアンドリューの本音に、じっとしていられず私はばっと視線を外した。
────やばい、やばい。やっぱり、久しぶりなのもあってアンドリューが眩しい。
せっかく引いたと思った熱が上がってきそうで、私は隊長を再び腕の中に閉じ込めるようにきゅうっと抱きしめて話題を戻した。
「降りたということは領のまとめ役が変わったということですよね? 誰になったのでしょう?」
ぱっと思いつくのは、赤カブの副隊長か美脚大根なのだけど。
私から見て甲乙つけがたく、どちらも隊長の意思を汲み取りそれぞれの役割をしっかりこなしていたのでどちらがなっていても問題ないように思う。
「その辺りは後ほど。今は学園で起きていることをはっきりさせようか。このたびの学園の訪問も、ティアに会いたかったのもあるが隊長がどうしてもすぐに会いに行くべきだと言うのでね」
つまり、隊長はこれから自分のそばに、王都にいてくれるということ?
ジョンから報告を受けていた、隊長含めたお野菜たちの何かを企んでいるような動きはこれに繋がるのだろうか。
だとしたら、隊長の行動はたまに美脚対決とか変な動きもあるけれど、だいたい理由があって動いているのでこれはすごいサプライズだ。
「隊長が?」
「ああ、来てみたらお野菜たちがわんさかいて驚いたよ」
「殿下が来たときにはこのような状態だったんですか?」
「ああ。どうやら今までこっそりと行動していたらしいが、ティアが戻って来る前、私たちが到着する少し前に姿を現わしたようだ」
だから、クラスの雰囲気が落ちつかなかったのか。あと、聞き捨てならない言葉が。
「こっそり?」
「そうだ。こっそりとな。特に何かいたずらをするようでもないから放置するように指示していたが」
ん? 放置指示? えっ?
「殿下は知ってらっしゃったんですか?」
「もちろん」
「もちろん!?」
「非常にティアを心配していたようだ。私もとても心配していたのだけどね。ティアは何も言ってくれないから余計にヤキモキさせられたよ」
ちくっと刺すように言われ、んん? と首を傾げる。
双眸の奥は探るようにゆらゆらと揺れ、当たり前のように口元に笑みを貼り付けているのに違和感を覚えるくらい薄っすらと暗い光が見えた。
それは一瞬で、すぐにいつものように澄み渡った美しい青に切り替わる。
気にはなったけど、そればかり気にしてはいられない。
アンドリューたちと対話している間に、わちゃわちゃとお野菜たちが盛大に動き出していた。あちこちで歓喜の声と咎めるような声が交ざり合い、クラスが一段と騒がしくなった。
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