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課題とお野菜ズ

自分のこと③

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 教室でも散々絡まれてきたのに、授業も終わりあとは寮に帰るだけとなった最後の最後にこれである。
 彼女たちの姿が見えなくなりそっとローレルの口から手を離すと、ぷはっと息を吐き出した彼女がいきり立つ。

「はしゃいではいましたが、廊下の真ん中で人様の通行の邪魔をしたわけでもないのになんなんですの。当てつけでしかありませんわ。さすがに度が過ぎていると思います。やっぱり私が抗議してきてもいいでしょうか?」
「気持ちだけ受け取っておくわ」

 むきぃーと顔を赤くして起こるローレルに、私は緩く首を振った。だけど、怒りの収まらないローレルはぷんぷんと言葉を続ける。

「納得いきません。こんな可愛いミニチュアたちもバカにされたままとか我慢なりませんわ」
「言えば言うほど加熱するだけで現状は変わらないからやめておこう。ローレルが目をつけられるだけだし、流すところは流しておかないと家に迷惑かけることもあるからね」
「ですが」

 なおも言い募ろうとするローレルの肩を叩く。

「本当、その気持ちだけで十分だから。北部の田舎出身であることは事実だし、家の身分も相手よりは低いことも事実。その上、現在は課題の進捗が良くないから余計にね。言わせたい人に言わせておけばいいわ。ありがとう、ローレル」
「むぅぅー、納得いきませんが納得します。ですが、殿下とのことをあのようにおっしゃるなんて。なんで、あんなに上から目線なの? 北部での実績はすごいことですのに」
「殿下と私にまつわる噂、しかも私が捨てられるような話が出回っていたら、マッドリー令嬢たちが何も言わないことのほうが不気味だしそんなに怒らないで」

 縦ロールを揺らしながらぷんぷんと怒るローレルをなだめながら、私は肩を竦める。

「不気味って」
「ここ最近、すごく当たりが強いからね。勢いありすぎてこの話題に食いつかなかったら何か変なもの食べたのかなって心配するレベルだと思うの」

 よくもまあ毎度毎度突っかかってくるなとその熱心さに感心するほど頻繁に絡みにくる侯爵令嬢は、私がアンドリューの婚約者であることが心底気に食わないようだ。
 思わず日頃の溜まった鬱憤とともに毒を吐いてしまった私に、ふっとミシェルが笑いを漏らす。

「不気味よりはマシと思うことにしますわ」

 それが良かったのか、ふっすーと息を吐きながらローレルもなんとか溜飲を下げた。

「それでも、我が領地も周辺の領地もロードウェスター伯爵家のおかげで暮らしは上向きになったのは事実です。殿下は北部の地を気にかけてくださっているお方ですから、フロンティアの存在はとても大きいはずだと思うのですが。南部の者からしたらそれも面白くないのでしょうね」

 少し和やかな空気に戻ったが、ローレルが落ちついてやっと意見が言えるようになったからか、バルバラがぽつぽつと語り悔しげに最後は口を引き結んだ。

「本当よね。フロンティアの友人としてだけでなく、北部の者からしたら彼女の言動は怒りさえ沸いてくるのよね。南部だとか北部だとかどっちが上だとか、同じ国に住んでいるのに価値が違うとばかり。王太子殿下は魔物の件など積極的に動いてくださっているし、そんな方がフロンティアを見初めていることって勝手ながら殿下に好感を持たせていただいているわ。政治的なことを抜きにして、二人が仲良くいてくれたらって応援しているからね。私と同じような気持ちの人は多いと思うの。だからフロンティアも、マッドリー令嬢たちの話すことや噂は気にしないでね。というか、むしろこれについてはいつかぎゃふんと言わせてくれたら嬉しいわ」

 なかなかの長文で切々と訴えるミシェルは、珍しく最後は鼻息荒く告げる。
 私の横であれこれ聞いているだけでも、友人たちはそうとう鬱憤が溜まっているのだろう。巻き込んでしまって申し訳ない。

「ありがとう。ぎゃふん? はわからないけれど、流されてしまうようなことにはならないから」

 アンドリューと会えない日や連絡がない日が続き、噂を耳にするたびに気にはなってしまうし、連絡が取れない今は余計に気持ちが揺らぐが、そればかりを気にしていられない。

 私は何度も何度も励ましてくれる友人たちにまたもや励まされ、ぐっと前を向いた。
 深く息を吸い込み静かに吐き出しながら、まずできることから頑張ろうと、手元にある植木鉢を見た。


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