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課題とお野菜ズ
自分のこと②
しおりを挟むカルラはご自慢の金の髪を後ろに流すと、冷ややかな視線と隠しきれない憎悪を私へと向けた。
特別に悪いことをしたわけではないとわかっているのに、隙あらば叩かれる陰口もそうだがこの眼差しは不愉快である。
「王太子殿下の婚約者となると、成果を出していなくても余裕があって羨ましい限りです。ですが、私でしたら殿下に見合うべく、少しの時間がもったいなくてはしゃいでなんていられませんわ」
軽く首を振りながら、カルラは視線を私の手元へとやる。
私は手に持っていたものを彼女の視線から隠すように大事に抱えなおし、努めてにっこりと笑った。
「ご心配ありがとうございます。何もしていないわけではありませんので」
「あらそう。でしたら、近々誰もが納得できるものを見せていただけるのかしら?」
さらりと髪をなびかせ、ふふんと高圧的に告げられる。
「そうですね。そのときはぜひマッドリー嬢にも見ていただきたいです」
「それは楽しみですわね。ふふっ、成功するといいですね。それだけ大口を叩いてできなければ、殿下の婚約者としてどうかと思いますもの。地味な田舎のご令嬢の見せ所といえば魔法くらいしかないのですから、殿下を支えるほどの自負がないと堂々と横になんていられませんものね」
応援すると見せかけて、まるで成功することはないとばかりの言葉。
やっぱり何かあるのかと勘ぐってしまいそうになるのを、唇の内側を小さく噛みぐっと堪える。
何かしていたとしても、ここまで大っぴらに話題に出すということは証拠が出てこない自信があるのだろう。
「そうですわ。少なくともカルラ様より成果を上げないと周囲は認めないと思います。未来の王妃様が役立たずなんて周辺の国々にも舐められますから」
「教養や気品もですが、どれだけ殿下をサポートできるかが王妃の資質として大事ですよね」
カルラとその取り巻きである伯爵令嬢たちが続き、カルラこそがふさわしいとばかりに彼女の素晴らしいところをいつものように語る。
現王妃の遠縁にあたるだとか、どれだけ侯爵家が国のために貢献し力を持っているだとか。そんなカルラは素養も容姿もマナーも完璧であると言いたいらしい。
人の粗を探しているその性格は資質の判断に入らないのか? ってものすごく言いたい。
言うとさらに言い返されるだろうから黙っているけれど、親の権力ありきなのわかっているのだろうか。その権力が幅をきかせているのが現実であるが、絶対だとどうして信じられるのだろう。
私の両隣で、ローレルたちがしんなりと眉を寄せた。
ぎゅっと手に握りしめ怒りを我慢するように拳を作り、少しでも私の視界からカルラたちを防ぐように私より半歩前に出た。
「何かしら?」
「……いえ、何も」
それに気づいたカルラがわずかに眉を跳ね上げるが、ミシェルたちは私が反論しない間は同じく発言は控えようと堪えてくれた。
先ほどの会話からも腹に据えかねているようで、肩が震えじわじわと怒りが滲み出ている。
友人たちの行動に感謝していると、取り巻きたちがローレルやバルバラたちの手元を見て鼻で笑う。
「それに貴族令嬢とあろう方たちが、そんな貧相なものを集めているなんてはしたない」
「なっ」
我慢ならないと友人の中でお野菜ズの愛が特に強いローレルが目を吊り上げ言葉を発しようとしたのを、私は慌てて口を塞ぐ。
引き攣りそうになる顔をなんとか笑顔を浮かべキープした。
「集めるのは個人の自由だとは思いますけれど、廊下で話すようなことではなかったですね」
そんな大きな声で話していたわけではなかったのだが、ミニチュアフィギュアの話題では皆興奮していたので認識しているよりということもあるかもしれない。
素直に謝罪すると、ふんと鼻を鳴らされる。
「まあ! すぐに大声を出そうとして、言動も品がありませんわ」
もごもごと私の手の中で話そうとするローレルを見やり、ふんと小馬鹿にしたように顎を上げるとカルラの視線は私に固定された。
田舎といえども伯爵家であり王子の婚約者として、友人の管理もできないのかといった侮蔑を感じる。
太鼓持ちのみ側に置く相手に言われても何も響かないし、いちいち相手を下げる言動にはうんざりする。
友人を悪く言われるのも腹が立つけれど、ここで反論すれば今までの苦労も水の泡だとぐっと我慢する。この忍耐がなかなかのストレスだ。
「仮にも王太子殿下の婚約者なのですから、皆の手本となるよう行動してくれなくては困りますわ。平民からすれば貴族は貴族。田舎者だとかは関係ないのですから、恥ずかしい言動は控えるべきです」
「助言をありがとうございます」
「あまりにも恥ずかしい行動ばかりしていたら、愛想を尽かされるのも時間の問題ですわよ。いっそ、ほかの高貴な方に立場を譲ればあなたも楽なのではないでしょうか?」
自分に譲れって? 相手を下げて自分を上げるような人物に譲る気はない。
それに、王子をというよりは、アンドリューを諦める気は私にはない。
「今のところ、殿下のお役に立ちたいと思っておりますし譲る気はありませんから。愛想を尽かされないように気をつけますね」
「あなたがそう思っていても、殿下の意向はわかりませんけどね。くれぐれも殿下の足を引っ張らないことね。行きますわよ」
「はい。カルラ様」
香水の匂いをたっぷり残して取り巻きとともに去っていくのを見送り、横にいたミシェルと目を合わせ同時にはぁっと息を吐き出した。
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