111 / 166
課題とお野菜ズ
自分のこと①
しおりを挟むそもそも付け入る隙を作ってしまった自分が悪いのだろう。
実技での魔法がうまく発動しないことが、ここにきて様々な角度から重圧をもたらしていた。
自分の抱えていることは、自分でしか解決できない。
それができないから、ここ最近の私は考え気味というかいろいろ溜めてしまう。
「店のほうは頼りになる人がたくさんいるから大丈夫かな。それよりも自分のことをなんとかしないとね」
自分で自分を鼓舞しながらも緊急用の魔道具に視線を移し、私はわずかに眉根を寄せた。
わかっていることなのだけど、まったく反応がない。
みんなの手前、若干いつもより明るく振る舞おうとしている自分がいるけれど、落ち込んでいるつもりはない。
なのに、やはりアンドリューと連絡が取れていないことは、噂のこともあって知らず知らずに不安が募っていく。
ずっと鬱々しているわけではない。
ただ、心がもやっとすることが多くなって気持ちが縮こまってしまい、心から楽しいと思うときが減ってしまった。
ここにきて、少しずつ負の感情が蓄積されている感があってすっきりしない。
だから、普段通りの自分らしくあるために隊長たちと戯れたいとなるのだけど、現実的に伯爵領に帰ってのんびり過ごしている時間はない。
「いつまでも言われっぱなしは許せませんから、そろそろ女神の実力をばぁーーんと見せつけてやりたいですわ」
「そうそう。それ。お野菜ちゃんたちの女神であるフロンティアの本領発揮は楽しみです」
「そうよ。なんとか解決策を探しましょう。協力は惜しみません」
ここ最近、私は少しぼんやりと考え事をすることが多くなっていた。
授業が終わるとさらに気が抜けてしまい、ついついいらぬことを考えてしまうというか、まあ、そんな感じである。
それに気づいている友人たちが、やり返すときは手を抜くなと好戦的に応援してくれている。
大袈裟に言っているだけだろうけれど、味方だと示してくれることは嬉しくてふわんと口元が緩む。
「みんな、ありがとう」
気合を入れるため、ぱちんと両頬を叩いた。
何かあるたびにこうやって友人たちに元気をもらってばかりだ。
カルラたちにやたらと絡まれるので気持ちを立て直しても邪魔されてと、本調子とはいかないままで周囲に心配させて気遣わせている自分が情けない。
魔法のこともだけど、関係のない外野からのアンドリューのことを言われて不安になるなんて、もっとしっかりしなければと自分でも思う。
気にはなってもやっぱりこんなことでと多忙なアンドリューには私から連絡しにくく、そもそも自分から連絡をしたことがないのでどのようなタイミングと理由ですればいいのかわからない。
少しだけでも話せたらと思う気持ちは日に日に増し、寮に入ると通常の通信魔道具が光らないか気にする日々に、どうしても気になって高頻度で魔道具を確認することが増えていた。
唐突な私の動きにミシェルは目を見張り、軽く首を傾げて思案げに問いかける。
「フロンティア、殿下のことであれこれ言われるのやっぱりつらい?」
隠していたつもりでも、アンドリューのことを気にしているのはバレていたみたいだ。
私は誤魔化すように、小さくふっと息をついてミシェルを見た。
「うーん。耳に入れば気にはなるけどつらいというのとはまた違うかな。ただ、言われればいろいろ考えてしまうから、自分でもこのうじっとした感じに納得いかないというか」
「まあ、あの人たちもここ最近露骨だから、気にしないなんて無理よね。そばで聞いているだけですごく嫌な感じだし」
私がカルラに絡まれる理由は、当然王太子であるアンドリュー絡みのことである。
一時期、カルラは王太子殿下の婚約者候補に名前が上がったこともあるらしく、婚約者の座が決まらなかった間は身分的に優位なのでまだ余裕があったが、あっさりと私がその地位に収まったことが腹立たしくて仕方がないのだろう。
そこでミシェルがこげ茶色の瞳を心配げに揺らし、ちらりと背後に視線をやり眉を寄せた。
教室からちょうどカルラたちが出てきたところだった。
ミシェルにつられるよう振り返った私と視線が合うと、カルラはすぅっと目を細め勝気な笑みを浮かべる。
「みなさん、廊下で騒いでみっともないですよ」
「それは失礼いたしました」
みなさんと言いながらもカルラの視線は私に固定されているので、私は無理やり笑みを浮かべ、さっさと通り抜けてほしいと願いを込めて廊下の端に寄った。
真ん中を陣取っていたわけではないが、それに習って友人たちも端に寄る。
しっかり三人分通れるはずなのに、カルラは私の前までくるとそこで足を止めた。
面倒くさいなと眉をしかめそうになるのをゆっくりと瞬きをして誤魔化し、ともすれば引き結びそうになる唇の口角を上げ、私はカルラを真正面から見据えた。
1
お気に入りに追加
5,573
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。