101 / 166
不調と新たな問題
新たな問題①
しおりを挟む緊急事態だと連絡を受け私たちはお忍びで指定された場所に訪れ、室内へと案内された私は周囲をそれとなく見回した。
重厚で華美な装飾を施した部屋は、王都での商談用に最近建てられた商会の持ち物のひとつ。
北部にある商会のどの建物とも違った趣に、土地の気風に合わせ金をかけた調度に商売人の意気込みを感じるものだった。
私たちが訪れたということはすでに連絡が入っていたのか、階段を上って案内された部屋にリヤーフに立って出迎えられ促されるままソファに座る。
「ようこそおいでくださいました。アンドリュー殿下、お久しぶりでございます」
「ああ。活躍は耳に入っている」
「光栄でございます。フロンティアお嬢様も本日は足をお運びいただきありがとうございます」
「初めての緊急連絡でびっくりしたわ。リヤーフは少し精悍になった?」
「男振りが上がったと評判ですよ」
にっと楽しげに笑って混ぜ返しているが、多忙を極めたリヤーフの頬は若干こけ、ここ最近の激務を物語っている。
前回店に来訪して知った実情も改めて説明を受けている。そのときは裏がないか確認しながら対応してみせると息巻いていたリヤーフであったが、さすがに今回のことは体力的にも精神的にも大変であったようだ。
「それは良かったわね。倒れないようにだけ気をつけてね。目はやる気に満ち溢れてるから心配ないとは思うけど」
「ありがとうございます。今までになくやる気が漲っていますのでしっかり成果をもぎ取ってくる所存です」
いつも思う。商魂たくましいリヤーフはこの仕事は天職であるのだろう。
南北の経済格差で進出できなかった王都での商売を、シュタイン商家は着実にものにしていっている。
リヤーフの手腕次第で伯爵領の野菜たちの売れ行きも変わるので、頑張っているのはいいのだが身体を壊さないようにしてもらいたい。
「そう。それで緊急の用事というのは?」
「はい。そのことですが、まさか殿下もご一緒にご足労いただけると思っておりませんでした」
そう言ってちらりとアンドリューのほうへとリヤーフが視線を走らせたが、王子はなんてことはないとばかりに茶をすする。
「ああ。例の話なのだろう。ここで一緒に聞くほうが早いと思ってな。これはアージリア産の茶葉だな。状態がいい」
例の?
なんのことだろうとアンドリューを見上げると、「すぐわかる」とぽんっと頭を叩かれ意味深に笑みを返されるだけだった。
ついでに、「美味しいからティアも飲んでみろ」と促され、私も口をつける。
匂いから独特苦みや酸味がきついのかと考えたが、まろやかな舌触りで状態がいいというアンドリューの言葉も頷けた。
「やはり殿下が情報を流してくださっていたのですね。それにしてはずいぶんと婉曲な形でしたが」
「情報はただではない」
「そうですね。それはよぉーくわかっております。ですが、事前におっしゃってくださっていたら遠回りせずに済んだことも多々ありましたので。その茶葉の確保にはずいぶん苦労しましたので、お気に召していただけたようで良かったです」
リヤーフもこめかみがぴくぴくしている。言葉にもちょこちょこ棘があるので、いろいろ大変だったのだろう。
「それくらい自身で見極めたどり着けないようでは困る。品質の保持と一定の量を確保できるなら考えよう」
「だいぶ苦労しましたけど、ずいぶんと勉強になりました。さすが、はら」
「はら? なんだ?」
腹黒って言いそうになった? 危ないな。リヤーフはよほど疲れているようだ。
「いえ。聡明で手ぬかりのない殿下が味方で心強いと思います。茶葉に関しては、いつもの従者の方にお話しても」
「そうか。そうしろ」
「ありがとうございます」
この茶葉は王子に飲んでもらうためにリヤーフは用意したのだろう。
反応の良さにちゃっかり売り込んでいるし、それも楽しそうに対応しながらも話が進んでいく。
王子と商人。立場は違えど、二人とも腹を探るのに慣れ笑顔の裏であれこれ策略を練るのに長けた二人である。
いわば腹黒同士の話はトントン拍子に進むので、私も妙な感心を覚えてしまう。
「お二人とも、場を設けたのですから私にもわかるように教えてくださいませんか?」
自分だけ知らない事実があることに対して、仲間外れにされたとは思わない。
商売に関してはリヤーフに任せているし信用している。アンドリューに関しても、私のことを思って動いてくれていたのだろう。
情報を提供する気になったから私の前で隠さず話しているのだろうし、そろそろ本題に移ってほしい。
1
お気に入りに追加
5,577
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。