上 下
97 / 166
不調と新たな問題

心ここにあらず②

しおりを挟む
 
 貴族社会に限らず、優劣がある以上常に競争心や妬みなどはつきもので、他人を貶め己の地位向上を謀る者はどのコミュニティーにも一定数存在する。
 そういった社会でどのように切り抜けるかも実力のうちであり、過度な行いは推奨されないが多少はそういったものは黙認されるシステムである。

 地位が高ければ高いほど、目立てば目立つほどそのような対象になりやすい。
 悪巧みをするほうが悪ではあるが、簡単に落ちるようなものは軟弱者認定され貴族社会では信頼を得られない。
 跳ね返すほどのものを身につけることが必須であり、その力がまた高みにいる者を強くする。

「その反応はティアも考えていたということだな」
「なくはないかなくらいですが」

 私は田舎出身で貴族社会に疎いが、前世の情報もありその辺りは理解しているつもりだ。
 ここ最近、カルラに煽られ続けたので、さすがに楽天的だと言われる私でももしかしたらと疑う気持ちは避けられない。

 授業のときはただただショックであったが、お野菜たちが元気に動いている姿を見ていると、その可能性もあるかもしれないと思うようになった。
 どちらかといえば、今後活動しているお野菜ズに影響を与えるかもしれない不調よりは、そうであったほうが気分的にマシだ。

 だけど陥れられているほうがいいとは、さすがに心配してもらっている人たちに口に出しては言えない。
 不調か意図的か。どちらにしても問題は山積みだ。

 どちらであった場合も、私は向き合ってその都度対処するしかない。
 改めて指摘されたことで決意を固めていると、頬を撫でていたアンドリューの手が顎を掴みさらに視線を合わせるよう覗き込んでくる。

「そうは言っても心配なのは変わりない。どうか無理だけはしないように」
「ありがとうございます」

 こつんと額を合わせ、鼻が触れるか触れないところで告げられ、吸い込まれるような美しい双眸に間近でとらわれ自然と笑みがこぼれた。

 この瞳を見ながらアンドリューと話していると、軽んじるわけではないけれど小さなことだと、気持ちを大きく持てる。なんとかなると思えるから不思議だ。
 プラチナブロンドの髪がさらりと頬を撫でていく感触にさえ、私の気持ちを押し上げる。

「さて、せっかく二人でいるのだからそろそろ恋人として俺に集中してくれないか?」
「集中?」

 後頭部に手が回り、押しとどめようとした両手を片手であっさり掴むと、ふわっと掠めるだけのキスをされた。

「俺ができることはティアを応援することと、二人のときは至福だと感じてもらえること。少なくとも俺といるときはそんな心配事など忘れるくらい俺のことで埋め尽くしたい」
「これ以上ないというくらい埋め尽くされてます」
「まだ足りない」

 その言葉を実行するかのように唇が重なり今度は深く貪られ、苦しさとともに甘い息が私の鼻から抜ける。

「ふ、……んっ」
「ティア。部屋に行こうか」
「……はい」

 くいっと腰を抱かれ、断らないよなときらきらと爽やかな笑顔を振りまかれる。
 ここで否定しようものなら、いつ誰が入ってくるかもわからない場所で実行される。それよりかは、王子の部屋のほうがまだいい。
 承諾すると、嬉しそうに目を細めたアンドリューにもう一度唇にキスを落とされる。

「ふっ。素直だなティア」
「だって」
「俺に慣れてきてくれて嬉しいよ」

 アンドリューの笑みが深くなり、ちゅっとかわいい音とともに眦に口づけされた。
 男女の関係が次の段階に進んでから肌と肌の触れ合いも増え、アンドリューの手練手管に翻弄される日々。

 外でもどこでも平然と手を出してくる相手に、室内でことが済んでいる現状を良しとするしかないとなんとか自分に言い聞かせ、会えばすっかり手を出されるのが通常になっていた。

 満足げな吐息とともにアンドリューは軽々と私を抱えると、慣れた動作で移動する。
 抵抗しても仕方がないんだと、私はそっとアンドリューの逞しい胸板に頬を擦り付けた。

 トクトクトクといつもよりやや速い鼓動はアンドリューも平静ではないことを示しているようで、その事実に胸がきゅっと苦しくなるほど高鳴った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【完結】邪神の呪い〜ベテラン冒険者の俺、モンスターに掘られ雌にされる〜

金盞花
BL
ダンジョン探索が生き甲斐の冒険者である「俺」。 とあるダンジョンの最奥部で邪神から力を貰うも、ついでに「モンスターが発情し襲って来る」という呪いも受けてしまう。 犯されまくり、種付けされまくりの「俺」は更に妊娠する身体になり—— ※モンスター姦、排泄、男性妊娠・出産、レイプ、♡喘ぎ等の描写を含みます。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

私、王太子殿下の妃になりたいのです!

ほったげな
恋愛
私は公爵令嬢で、この国の王太子殿下と婚約した。殿下とは幼馴染だから、婚約するのも当然の流れだ。私は殿下との婚約は祝福されていると思っていた。でも、祝福していない人もいたようだ。お茶会で友人のディアナが「私、王太子殿下の妃になりたいです」と言い出して…?!※短編集です。

最上級超能力者~明寿~ 社会人編 ☆主人公総攻め

まむら
BL
  東条明寿が社会人になって帰って来た!!   父親の会社を譲り受け社長になった明寿は、超能力を使って男たちに快楽を植え付けてゆく。   催眠の力で歪む彼らの表情に、明寿は更なる快楽を植え付けてゆくのだった。       ※前回同様、過激描写満載です。  過激な表現が含まれているため、苦手な方はご遠慮ください。        

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。