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不調と新たな問題
心ここにあらず②
しおりを挟む貴族社会に限らず、優劣がある以上常に競争心や妬みなどはつきもので、他人を貶め己の地位向上を謀る者はどのコミュニティーにも一定数存在する。
そういった社会でどのように切り抜けるかも実力のうちであり、過度な行いは推奨されないが多少はそういったものは黙認されるシステムである。
地位が高ければ高いほど、目立てば目立つほどそのような対象になりやすい。
悪巧みをするほうが悪ではあるが、簡単に落ちるようなものは軟弱者認定され貴族社会では信頼を得られない。
跳ね返すほどのものを身につけることが必須であり、その力がまた高みにいる者を強くする。
「その反応はティアも考えていたということだな」
「なくはないかなくらいですが」
私は田舎出身で貴族社会に疎いが、前世の情報もありその辺りは理解しているつもりだ。
ここ最近、カルラに煽られ続けたので、さすがに楽天的だと言われる私でももしかしたらと疑う気持ちは避けられない。
授業のときはただただショックであったが、お野菜たちが元気に動いている姿を見ていると、その可能性もあるかもしれないと思うようになった。
どちらかといえば、今後活動しているお野菜ズに影響を与えるかもしれない不調よりは、そうであったほうが気分的にマシだ。
だけど陥れられているほうがいいとは、さすがに心配してもらっている人たちに口に出しては言えない。
不調か意図的か。どちらにしても問題は山積みだ。
どちらであった場合も、私は向き合ってその都度対処するしかない。
改めて指摘されたことで決意を固めていると、頬を撫でていたアンドリューの手が顎を掴みさらに視線を合わせるよう覗き込んでくる。
「そうは言っても心配なのは変わりない。どうか無理だけはしないように」
「ありがとうございます」
こつんと額を合わせ、鼻が触れるか触れないところで告げられ、吸い込まれるような美しい双眸に間近でとらわれ自然と笑みがこぼれた。
この瞳を見ながらアンドリューと話していると、軽んじるわけではないけれど小さなことだと、気持ちを大きく持てる。なんとかなると思えるから不思議だ。
プラチナブロンドの髪がさらりと頬を撫でていく感触にさえ、私の気持ちを押し上げる。
「さて、せっかく二人でいるのだからそろそろ恋人として俺に集中してくれないか?」
「集中?」
後頭部に手が回り、押しとどめようとした両手を片手であっさり掴むと、ふわっと掠めるだけのキスをされた。
「俺ができることはティアを応援することと、二人のときは至福だと感じてもらえること。少なくとも俺といるときはそんな心配事など忘れるくらい俺のことで埋め尽くしたい」
「これ以上ないというくらい埋め尽くされてます」
「まだ足りない」
その言葉を実行するかのように唇が重なり今度は深く貪られ、苦しさとともに甘い息が私の鼻から抜ける。
「ふ、……んっ」
「ティア。部屋に行こうか」
「……はい」
くいっと腰を抱かれ、断らないよなときらきらと爽やかな笑顔を振りまかれる。
ここで否定しようものなら、いつ誰が入ってくるかもわからない場所で実行される。それよりかは、王子の部屋のほうがまだいい。
承諾すると、嬉しそうに目を細めたアンドリューにもう一度唇にキスを落とされる。
「ふっ。素直だなティア」
「だって」
「俺に慣れてきてくれて嬉しいよ」
アンドリューの笑みが深くなり、ちゅっとかわいい音とともに眦に口づけされた。
男女の関係が次の段階に進んでから肌と肌の触れ合いも増え、アンドリューの手練手管に翻弄される日々。
外でもどこでも平然と手を出してくる相手に、室内でことが済んでいる現状を良しとするしかないとなんとか自分に言い聞かせ、会えばすっかり手を出されるのが通常になっていた。
満足げな吐息とともにアンドリューは軽々と私を抱えると、慣れた動作で移動する。
抵抗しても仕方がないんだと、私はそっとアンドリューの逞しい胸板に頬を擦り付けた。
トクトクトクといつもよりやや速い鼓動はアンドリューも平静ではないことを示しているようで、その事実に胸がきゅっと苦しくなるほど高鳴った。
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