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試みと自覚

新たな仲間②

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「これからよろしくね」

 そう告げると、また左右に揺れる。どしっと構えてるから、葉が揺れているだけだけど。
 落ちついた野菜というのもなんだかいい。どちらかといえば活動的な野菜たちが多かったので、どしっとしているのも味がある。

 小さく手を振り葉を揺らしながら去っていくニンニクを見送りながら、次々くる野菜たちに水をかける。
 なんのための水やりかわからなくなっているけど、うまくいっているのならいいし、好いてくれているのがわかって嬉しいし、なによりやっぱり和む。

 伯爵領での収穫はすっかり任せっきりになり、私がしなくてはいけないことは少ない。
 ぽかぽか陽気に癒やしの風景。気も緩みふわぁっとあくびが出る。

「本当、平和ねぇー」
『わふ、わふぅ』
「シュクリュもいつもありがとう!」
『わふっ』

 わかりやすく喜びさらにぶんぶん振る尻尾を眺めながら、私はあははっと笑う。
 シュクリュとお野菜ズに囲まれながら、自分にできること、何かいいアイディアが浮かばないかと考える。

「何かないかなぁ?」

 別に自分がアイディアを出さないといけないということではない。ただ、まだ何かできるような気がするので、思考を止めないでいたかった。
 己のもつ魔力が人の役に立ち成果が出るのなら、伯爵領、そしてアンドリューの力にもなるのならできることはしていきたい。

 お店のほうも軌道に乗っているし、商品の開発も順調でたまに私が提案することもあるが、関わる皆が意欲的なので常に新しい風が吹きいい感じに動いている。
 品質を保持しつつ飽きがこないよう、定期的に新商品に取り込むことは皆心得ている。ならばそこに敢えて入り込まず、まったく別のアプローチを考えるのもいいかもしれない。

 そもそもここまで大掛かりになったのは、アンドリューと出会ってからであるし、そのときの話では北部の食料問題の協力ということだった。
 ずいぶん北部も活性化されてきたけれど、まだまだ南部と比べると豊かとは言いがたい。

 辺境伯と話す機会も増え、魔物に対しての認識やそれと戦う人たち、さらに寒いであろう地での戦いを思うと、今のままでいいのかと考えることもある。
 王都に行って、学園に通って改めて思った。やはり、北部の冬は厳しい。

 南部の貴族などはリゾート気分で暑い時期に北部にくることはあっても、本当のところで冬の寒さがどれだけ厳しいかわかっていない。
 だから、書類上の数値だけであれやこれやと文句を言うだけで、何も動きはしないのだ。

 ロードウェスター伯爵領がある一定の供給ができているからといって、すべてに行きわたるわけではない。
 なにより、魔物と戦う兵士には野菜だー、果物だーといっても、それだけで満たされるわけもない。

 すべの食料に魔法付加をかけられればいいけれど、それができる能力者は数が限られているしお金もないので、届くころには傷むことも多い。
 それでも、ずいぶん野菜たちが頑張ってくれているのでマシになったほうだ。

 王都で売り出しているジャムやチップスだとかも悪くはない。
 ないよりはあるほうがいいのはわかってはいるが、そういったものは余裕があるからこそ味わえるもの。腹の足しには程遠い。

「となると、携帯食というのもありだと思うのよね」

 前世では気軽に食べられるように豊富な種類の商品があった。
 その中には、スティック状にして目的別に栄養を摂れるようなものまであった。

 今日、新たにニンニクが加わったのもいいきっかけだ。
 今までは野菜たちの美味しさ、新鮮さにこだわっていたけれど、栄養補助食品的なものもありかもしれない。

「普通に味が美味しいのも多かったし、お菓子感覚のものから、遠征向きの手軽に栄養をがっつり摂れ、それでいて美味しいものって作れないかな?」

 ここのお野菜と果物を使えば、絶対美味しくなるはずだ。
 それを今から準備して冬に間に合わせられるようにできれば、昨年より食料事情は改善されるのではないだろうか。

「そうと決まれば、活動開始よ」
『わふぅ』

 さっそく隊長に相談しようと、野菜たちの列が途切れたのを機に、私は隊長たちのところへと向かった。


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