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婚約と俺様王子

安定の俺様王子①

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「ティア」

 アンドリューに静かに名をばれる。
 ちゃぽんとチョコレートに浸かったような甘さがあるのに、どこか有無を言わせない口調にされる。
 私は引きつりそうになる顔を、なんとか笑顔に変えた。

「ふふふっ」

 秘儀。笑って誤魔化せ。
 すると、こちらに向けられた艶やかな碧眼が、すぅっと面白そうに細められた。
 かすかに笑った気配とともに、アンドリューの脊髄に響くような声が耳朶をかすめる。

「わかってるだろ?」
「わかる、というか、わかりたくない、というか……」

 なんとも言えないこそばゆさに肩を竦める。じわじわくる不安によるぞわぞわするものを逃すように軽く首を振った。

 この国の王太子として多忙なアンドリューと学生である私はすれ違いも多く、互いにゆっくりとした時間を持とうとするとなかなか難しい。
 前回、王子直轄地の畑で顔を合わせてから会うのは久しぶりで、そのときに次は容赦しないと言われてから通信魔道具で連絡は取り合ってはいたが会うのはその時以来である。

「というか、ね」
「というか、です」

 私は及び腰になってお尻を横にずらそうとするが、それを許すはずがないアンドリュー。
 あっさりと腰に手を回され引き寄せられた。

 一瞬のことに気をとられていると、そのまま方向を変えられ端整な顔が近づき唇に柔らかな感触を押し当てられた。
 当前のように私のおとがいを持ち上げると、優しくついばんでくる。

「ティア、よく顔を見せろ」
「んっ……、………………? 見すぎじゃないですか?」

 言われたし顎を持たれているので顔を上げていたが、あまりにも長い間じっと見られるので堪らず私は口を開く。

「久しぶりだろう? ティアに変わりないか確認したい」
「顔を見てわかるんですか?」
「多少は、な。隈があるなしでも睡眠がとれているかどうかもわかるだろうし、俺の場合は魔力の大きな乱れがあれば気づけることもある」

 心配してくれているのだろうが、しげしげと観察するように視線を走らされては落ちつかない。

 穴が空くのではないかと思うほど見つめられ、その間私もアンドリューを見ることになる。
 金の睫毛が一本一本数えられるほどの近さで美貌に真剣に眺められては、最近畑に出ることに夢中で肌のお手入れをサボり気味だったことを今更ながらに後悔した。

 一応、最低限のケアはしているが、目の前の美しい容姿とともに高貴な人に見られていると思うといたたまれない。
 かといって、簡単に俺様王子が行動を改めることはないだろうし、せめて比較しないですむようにそっと視線を外そうとしたが、「よし」という言葉とともに身体を押される。

「えっ、……うわっ」

 徐々に私の体勢が倒れていき、ぽすっとソファに押し倒される。
 しっかり上半身がソファにもたれると、それが合図のように唇を奪われすぐに口づけが深くなった。

「アンデ、……んんっ、……」

 片方の手は私の手を掴み、絡んだ指先にどちらのものかわからない力がこもる。
 ちょんちょん、と舌で合図されるだけでふっと口が開く。
 しっかり慣らされた私は、「ふぁっ」と甘えた声が漏れたがそれを封じるかのように口内はアンドリューの舌に浸食された。

 会わなかった時間を埋めるような口づけに、なんだかんだ言って二人きりになると毎回貪るように奪われるそれは、私の中でも嬉しいものと変わりつつあった。
 愛されている、必要とされている、そしてそれを返せるようになったのは、求められる激しさに伴う苦しさとは別に、とても気持ちが温かくなる。

「ティア、会いたかった……」

 キスのあとささやくように言われては、抗議の言葉も引っ込んでしまう。

「……はい。わたしもです」

 優しく髪を梳かれ、頬にキスを受けながらはにかみ、私は差し出された頬にキスを返した。

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