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婚約と俺様王子
姉妹で王宮へ③
しおりを挟むいや、日頃からサボっている相手も相手であるので、この場合はその人物の仕事もさばいていた分と思えば妥当なのだろうけど、ついでとばかりにあれこれ押し付けていそうと思うのは穿った見方だろうか。
王宮勤めの人にもいろいろなタイプの人がいるのだなと、しみじみ思う。
オズワルドはシルヴィアに視線を戻した。
仕事の話のときは冷ややかさが瞳に宿っていたが、それは一瞬のうちに消えとろけるように微笑んだ。
「ですので、ヴィア。こんな時間から空くのは久しぶりですので、どうか私の誘いを受けていただけますか?」
ですので?
まあ、そうなのかな。一貫してオズワルドは姉と一緒にいたいと言っているだけである。仕事も終わったと言えば、断ることはできない。
というか、用事ってこれ?
なら、私は?
なんだかとても嫌な予感がするなか、シルヴィアがゆっくりと瞬きをして控えめに頷いた。
「お仕事が終わってらっしゃるなら」
ああぁぁ~~、承諾しちゃったよ。まあ、するしかない流れだったけど。
「では、参りましょうか」
「もうですか?」
「はい。殿下に婚約者との時間をもっと欲しいとうかがっていますしね」
そう告げたオズワルドの言葉に、シルヴィアはこちらを見た。わずかに目を見開き、仕方がなさそうに苦笑すると小さく頷いた。
その反応はどういう意味!?
どうしてか姉のその態度に不安が煽られる。私は縋るように姉の名を呼んだ。
「ヴィア姉さまっ!」
「ティア。私たちはここで退出しますね。あなたの帰りは殿下がしっかり送ってくださると思いますので、ご安心ください」
だが、応じたのはその夫。
オズワルドはつと薄い色の双眸を笑ませ、ついでにこれぞお手本といった綺麗な笑みを浮かべる。
────安心できませんけどーっ!!
殿下、という言葉に横にいるアンドリューの気配が急激に増す。
「では、失礼いたします」
「殿下、失礼いたします。ティアはあまり殿下に迷惑かけないようにね」
オズワルドにエスコートされながら立ち上がったシルヴィアが頭を下げ、最後に私を見てわずかに眉尻を下げながら穏やかに告げた。
「大丈夫ですよ。お二人は仲が良いので、多少の無礼などは恋人だからこそですよ。むしろ、そうでないとくつろげませんからね」
「だと、いいのですが」
「気遣うことのできる優しいヴィアが大好きです。ですが、二人のことは二人のこと。私たちも私たちで仲良くいたしましょう」
愛おしげにシルヴィアを見つめながら、ふふふっと微笑むオズワルド。どうしても天使とかではなく、魔王に見える。
麗しすぎてその美しさをただただ堪能するだけに留められない美貌って、本当厄介な人である。
ヴィア姉さま大丈夫かな?
すっごい機嫌が良さそうなオズワルドに、私はちらっちらっと姉と義兄を交互に見た。
すると、アンドリューが嘆息する。
「ティアは人の心配している場合じゃないよな」
「え……っと、そう、なのですか?」
「そうだな」
にやりと笑いながら、すげなく言われ私はひぇっと背筋を正した。
やっぱり嫌な予感しかしない。
「そのですね、えっと……」
さっき自分のことも考えてほしいってアンドリューに言われたし、たまに言われることでもあるが、私からすれば十分に考えている。
俺様腹黒エロ王子ではあるが、頼りになって優しくもあって、好きな相手である。
好きな人のことを考えないなんてことはありえない。
いつも多忙なアンドリューの体調だって心配しているし、会いたいなって思うことだってある。
ドキドキはするけれど、決して二人っきりが嫌なわけではない。
ただ、お仕置きと言われたままだったことが気になっているだけで……。
「なんだ? ティア」
「あのー、ここでのんびり日向ぼっこという選択肢は?」
「ないな」
じっと見つめる視線に気づいたアンドリューに問いかけられ、私はわずかな期待を込めながら控えめに小声で提案してみる。
だけど、それはあっさり撃沈した。
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