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魔力検証

覗き見隊②

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 ああー、ちょっと失敗したかも……。

 なんとなく予想はしていたけれど、やっぱり余計に攻められそうな予感。
 だけど、自分だけ言葉にしないまま相手ばかりを不安にさせたり、状況をアンドリューのせいばかりにするのもさすがに限界だと思ったのだ。

 ああああぁぁぁぁー、と王子から顔を隠したくなった。
 じわじわとずっと熱が溜まりっぱなしで、赤くなっている顔を見られていると思うと、言ってしまったものは仕方がないけどすっごく不安だ。……大丈夫かな?

「俺のティア。ほら、たくさん俺に慣れていかないとな」

 嬉々として告げる王子が、それはもう幸せそうにしながら意地悪くなんとも満ち足りた顔で笑う。
 口元にくるかと近づけていた顔が首元に埋められ、ちゅぅっと音を立てて吸われていく。
 なぞるように移動する唇が徐々に上がっていき、頬まできたときに一度見つめられた。

「殿下……」

 いつの間にか両手は顔の横でしっかりと指を絡められ、のしかかるアンドリューに身体の動きも封じられている。
 じっと見下ろしてくるアンドリューの瞳に先ほどよりちらちらと熱が見え隠れして、私は顔を赤くして口ごもった。

「照れるティアも可愛いけれど、婚約したらこんなものではないからな」

 その言葉とともに、唇を塞がれた。
 嬉しいとばかりに浮かれたアンドリューに、容赦なく深く口づけられ吐息とともに奪われる。

「んんんっ……」
「ほら、口開けて。舌、からめて」

 散々行きの馬車で口づけを慣らされた私は、アンドリューに促されるとゆるゆると勝手に口が開いていく。
 気づけば、引っ込めてしまいそうになる舌も、ほらこれね、とつんつんとノックされると差し出してしまう。

 撫でるように上顎を舐められ、さらに絡まる舌の動きに翻弄される。
 口づけと同様に、絡まる指の力も痛くはないけれどとても強くて、逃さないとの言葉通りの拘束を感じる。

 全方位からアンドリューの熱を感じ、私は握られた手をきゅっと掴んだ。
 まだ、まだだ、と抵抗する思いも残っているのに、温かなアンドリューの体温に触れていると親近感の中に愛しさも混ざり、どうしようもなくこみ上げてくるものが自然と手に力を入れさせる。

「ほら、もっと。ティアならできるだろう」

 はぁ、と熱い吐息とともに、アンドリューがキスの合間に嬉しそうに声を弾ませる。
 さらなる要望とともにじゅるりと舌を吸われ、さらに顔の角度を変えて深まった。

「はぁ、んんっ……」

 息を吸う間もしっかりと合わせられ、痛いほど吸われたと思ったら宥めるように優しく撫で動く舌にずっと翻弄されっぱなしだ。
 自分たちの混ざり合う水音が、脳内をもかき乱していく。

「ティア」
「……ふぅ、……んっ」

 合間に自分から漏れる声も言葉にならない。
 アンドリューが私の名を呼ぶ声は相変わらず甘やかで、口づけの激しさとは反対に気持ちは優しく撫でていくようだ。

 請われるまま舌を絡め、どちらの熱かわからないくらいになって、頭の中はアンドリューのことでいっぱいになる。ほかのことが考えられなくなる。
 情熱的なキスは思考力を奪い、アンドリューが言うように確実に刻みつけてくるようだ。

 絡んだ指先はどちらともわからない力がこもっており、解くことを忘れるくらいしっかり繋がっている。
 仕掛けたのはアンドリューだとしても、もはや同意の上のようなものだ。

「はぁぁんっ……」

 もう、いっぱいいっぱいだと、考えることもできなくどうしようもない吐息が漏れると、アンドリューがきゅっと舌を引っ張りゆっくりと舐め、また引っ張りと何度か繰り返し、そっと解いていった。
 最後に、ちゅっ、と可愛らしいキスの音とともに唇を離すと、目を細めて愛おしくてたまらないとばかりに相好を崩す。

「ティア」

 強引だけど、甘く、優しいアンドリューそのものの声音に、私は息苦しさとともに涙目になった眼差しで王子を見上げた。
 にこっと笑った王子は爽やかだけど、どこか裏もあるようで、それでいてまっすぐに向けられる心は、アンドリューの容貌と同じく眩しくて、美しい碧色の瞳に見つめられるたびに捕らわれていくようだ。

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