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魔力検証
覗き見隊①
しおりを挟むちらりと枝に嫋やかに咲く花が見えたが、眼前に美貌の主に遮られ、私はすべての意識を持っていかれた。
この国の王太子であるアンドリュー・ジュード・ハインリヒ王太子殿下が、覆い被さってくる。
すべてをもってして逃さないと、態度で言葉で私を攻めてくる。
「で、殿下」
「デートだと言っただろう? しっかり俺を刻みつけていかないとな」
「じゅ、十分です」
これ以上はとんでもない。勘弁してほしい。
「そうか。それは良かった。ちゃんとティアに俺が刻みつけられているようでなによりだ」
「…………ちが」
ちがーう。そういう意味ではない。
反論しかけたが、金の睫毛に縁取られた瞳に捕らわれて私は口を噤んだ。
意識している宣言はしてしまったが、まだそこまでではないと咄嗟に出た否定の言葉は、その瞳に見つめられると本能が警告音を鳴らす。
はっとして頬を引き締めたが、時すでに遅し。アンドリューがにっと口の端を上げ私の耳元へと顔を近づけてくる。
「違うのだったら」
吐息とともに美声が耳を撫で、ぞくりと肌が粟立った。
危険な匂いにわなわなと唇を震わせ、必死にこの状況から逃れようと言葉を重ねる。
「ええええっっと、殿下のことでいっぱいです」
「そう。ならもっとだな」
王子ぃぃぃぃぃぃ。
どのみち私が何を言ったところで、やりたいことをやる王子だ。わかっていたけれども、毎回痛感させられる。
「ティア。ほら。口開けてごらん」
「…………」
そこで素直に開けられたら苦労しません。
それに、開けたら最後奪われ尽くされることをわかっているのにどうして開けられると?
絶対開けてはなるものかと、私はきゅっと口を引き結んだ。
無言の抵抗にアンドリューがくすりと笑う。
「ああ、ほんといちいち可愛いな」
滴るような色気とともに、アンドリューが頬を下からすぅっと撫で上げる。
「……んっ」
こそばゆさで漏れた小さな声に気をよくしたアンドリューの顔がいつも以上に意地悪そうに、そして嬉しそうに笑んでいる。
もう、心臓がばくばくしすぎてしんどい。
「ティア。答えてほしい。俺と婚約するよな?」
頬にかかった髪を優しく梳かれ、こつんとおでこをつけて視線を合わされる。
少しの変化も見逃さないとばかりの真剣な眼差しに、私は逃げきれないことを、逃してもらえないことを知る。
徐々にのペースがずいぶんと早いが、先ほどあやふやにしていた答えをここで求めてくることの意味。
私が大事にしたいものの不安を取り除きながらの口説きは、着々と舞台が整えられていると感じる。
それだけ本気であるということがわからないほど、疎くはないつもりだ。
今までのまっすぐに伝えられてきた王子の気持ちが痛いほど伝わってきて、じわりと熱のこもった感情がこみ上げてくる。
「ティアの口から了承の答えを聞きたい」
切実な声に陥落し、私は己の心を素直に認めた。
熱する心は、このままアンドリューに捕まっていたいと、抵抗しきれないと、惹かれているのだと訴えてくる。
ただ、前世の記憶がやたらと不安を煽るだけで、それさえなければこれほど求められて嫌なわけがない。
王族に嫁ぐことの不安はあっても、アンドリューが必要だと思ってくれる限りできることはしていきたいし、王子の力になれるのならと先ほども思ったばかりだ。
ここで返事をすれば、さらに加速するかのごとくアンドリューに捕まってしまうことは目に見えているが、それも仕方がないかと思う。
「…………はい」
俺様で腹黒で、だけどまっすぐに気持ちを向けてくる人のそばなら、きっと気持ちはずっと温かいままだろう。
返事をすると、アンドリューはまるで泣くのではないかと思うくらい眉尻を下げて、心の底から喜んでいるのだろうとばかりにくしゃりと相好を崩し微笑んだ。
自分の言葉ひとつでこんなに喜んでくれるアンドリューのこういう姿を見ると、これからもそばで笑っていてほしいと思う。その姿を、そばで見ていけたらいいなと心から思う。
「良かった。ティアは俺のものだからな」
「私の答えがなくても殿下は進めていそうですが……」
照れくさくもあってそう告げると、にやっと笑うアンドリュー。
切り替えが早い王子は、愛おしいとばかりに私の頬を撫でながら鮮やかな眩しい笑顔で宣言した。
「それでもだ。言葉があるのとないのとでは、俺のモチベーションが違う。ティアが嫌がっていないことはわかっていてもな。ああ、これで俺はこれからはもっといける」
いける?
どういう意味のいけるかな?
ものすごく不安になり私は目を瞬いた。
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