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死に役をやめたら婚約者が激変した①
しおりを挟むベリンダがいなくなった学園。パーシヴァル殿下たちもこのたびの騒動を受け、予定より早めに帰国し現在両国で話し合いがなされていた。
私の家とデューク家の人たちは「精神的苦痛分の慰謝料をしっかりもぎ取って、甘やかしが生んだ身内の仕出かしを反省させるから任せて」と、隣国との話し合いにかなり熱が入っていた。
これから行われようとしていた留学の話は一度流れ、ベリンダの仕出かしで完全に我が国に優位の交渉が進むようになった。
ベリンダはコーディーのもとで身を落ち着かせる方向でまとまっているらしい。
コーディーもベリンダを増長させ事前に止めず騒がせたことの罪として、入国禁止令が出た。
物語で私を殺したコーディーの思惑通りというのに腹立ちはあるが、ベリンダが自国から出られないだけでなく伯爵領に縛られるのなら彼もそこにいることになる。
私としてはこの先一生彼らに関わらなければそれでいい。
そう思うのは彼らのようにこの世界の前世で殺された記憶がないことは大きく、あくまでうろ覚えな物語の記憶があるだけというのが救いだった。
殺された記憶があったら、恐怖心とこの結末をここまで割り切れていなかったかもしれない。
私の望みは復讐ではなくて、自分のための未来。
結果としてこうして無事生き残り悪いことばかりではなかったこと得たものに感謝して、私だけの人生を歩んでいきたい。
平和な日常が訪れ心なしかいつもより青空が澄み渡ったランチタイム。
学園のテラスで私は突き刺さる視線に耐えきれず、横に座るデュークをちらりと見て後悔した。
彼は心底幸せそうな顔をして、愛しくて仕方がないとばかりに微笑を浮かべながら私を見ていた。じわじわと頬が熱くなる。
「デューク様……、その、恥ずかしいのですが」
「ダメか? 少しでもフェリシアと一緒にいたいんだ」
「だからと言って」
これからジャクリーンとヘンウッドとともに起ち上げる事業のための話をすることになっていた。
テーブルに肘を置きじっと私だけを視界にとめるデューク。前の席にはジャクリーンとその横にはヘンウッドが座っている。
事業はアクセサリーの取り扱いがメインになる。
製造ラインの主軸はもちろんケネス・ヘンウッド。彼は伯爵家の三男なので爵位を継がずスペアでもないのでいずれ自立するために技術を磨き工房に通っていた。
これも縁だと工房仲間である私たちが資金提供して独自ラインを作り、ヘンウッドのしたいことを応援しようということになった。
それだけ彼の作る物には魅力があった。
私たちと一括りにするには、ジャクリーンと私では物作りに対して熱意は違うけれど同じ好き同士。
夢を追いかけ才能のあるヘンウッドに成功してほしかったし、貴族子女として打ち込むには限界があるのはわかっていたので、少しでも関われる形を模索したゆえだ。
そして慈善事業も続けていくことも決めている。
ジャクリーンは今回の私の事件を受けて人生何があるかわからないと、好きなことは堂々としてしまおうと工房でしていることを隠すのはやめた。
そんなわけでこそこそする必要もなく、放課後はそれぞれ忙しく少しでも内容を詰めるためにこうして学園で話すことも増えた。
聞かれて困る話でもないのでデュークが一緒にいるのは別にいいのだけど、ぴったりくっついてじっと私だけを見つめるデュークの視線が正直暑苦しい。
主な話が事業のことなので余計な口を挟まないのはデュークらしいのだけど、これはこれで逆に気になる。
「話の邪魔はしない」
きりりとした凜々しい表情を浮かべ、そのままにっこりと笑みを浮かべるデュークの堂々とした態度に私は頭を抱えたくなった。
――さすがにその顔は反則では?
愛情表現を隠さなくなったデュークは、その気質を全振りしてまっすぐに愛情を向けてくる。
貴族らしく適切な距離(?)を保っているのに、その眼差しや一つひとつの行動が私を好きだと語ってきた。
今や私たちの不仲を噂する人はおらず、私の好きが大きいと思われていた私たちの関係は、むしろデュークの熱心さのほうが有名なほど世間の印象は変わってしまった。
婚約破棄する話はデュークと話し合い改めて告白され、絶対解消するつもりはないと意思表示された。
私もこの世界で生きる自信とデュークを心から信じることができたので、改めて婚約関係を維持していくうえでどちらかに偏るようなことのないよう向き合っていこうと話し合った。
婚約者であると同時に恋人としての時間を過ごす。
以前の私たちでは考えられないほどたくさん話すようになり、楽しいと思える恋の進み方に心が弾む。
何より諦めきれなかった好きな人と過ごせる喜び。
あの時諦めなかったから掴めた今が愛おしくて、幸せだと思えるものだった。
だけど、あのクールで朴念仁だったデュークはいったいどこにいったのかと疑うほどの激変。
こんなに甘々になるなんて誰が想像しただろうか。
正直、まだ慣れない。
それは目の前に座る二人も同じだったようでヘンウッドは小さく苦笑し、ジャクリーンが我慢できないとぱんっとテーブルを叩いた。
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