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物語の強制力①
しおりを挟むパーティー会場を離れ、私はシオドア・クロンプトンと廊下を歩いていた。
ベリンダが生徒とぶつかり、その際に足をくじいたと言うので(もはや本当かどうかわからないが)騒ぎとなった。
ベリンダは懲りずに離れた場所にいるデュークに付き添ってほしがったが、その場にいたケネスがなだめすかしnなかば強引にベリンダの取り巻きとともに保健室に連れていった。
デュークは絶対にベリンダと行動はしないとクリストファー殿下たちに告げてあったそうで、彼らの見事な連携でしぶる彼女と周囲を言いくるめた。
ベリンダは思惑通りにはならず、内心かなり憤っていそうだ。
それからケネスが席を外した代わりに、デュークがクリストファー殿下のそばについていることになった。
これは敢えて私に隙を作るためで、このタイミングしかないと私は頷く。
「フェリシア」
話し合って互いに納得して決めたのに、苦渋の表情で私を見下ろすデュークに笑いかける。
デュークが事前に動いてくれていたことで、ある程度相手の行動を制御できる。すでに寂しく一人という状態は脱していて、未来は変わってきている。
相手が動くならばこの機会を絶対逃さないし、確実に私たちの目の前から退場してもらうつもりで動く。
今までいつ仕掛けてくるか怖かったけれど、むしろここで仕掛けてきてという気持ちのほうが強い。
「大丈夫です。デューク様を信じています」
「わかった。また後で」
離れがたいときゅっと手を繋ぎ、いろいろ言いたいのを振り切るように殿下のもとへと向かったデュークを見送る。
それからしばらくクラスメイトと歓談していたのだけれど、一人になった隙に話しにきたのがシオドアだ。
そのまま静かなところで話がしたいと言われ、デュークの言葉を胸に彼についていくことにした。
夕刻から始まったパーティーは終盤を迎え、辺りはすっかり暗くなり会場を抜けた途端に静けさが押し寄せる。
「いつもと違って静かな校舎もいいものですね」
「そうですね。ところでどこで話を? あまり遠くに行くと心配されるのでこれ以上は困るのですが」
「ああ、ちゃんと目的地はありますよ。ここです」
そう言ってシオドアが指したのは音楽室であった。
この日のために演奏する劇団の楽器が数日前から収納されていたが、今は会場に運ばれていて何もない。本日楽器を出し入れするために鍵は開けられたままだ。
いよいよかとそっと息を吐き出す。
鍵が開けられていることを知っていたらしいシオドアが迷いなく扉を開けると、中にはすでに人が立っていた。
その人物を見て眉を寄せる。予想を裏切らないと言えば裏切らない相手。
そこで待っていたのは、ベリンダと共に会場を後にしたはずのコーディー・アドコックだった。
「これは、どういうことですか?」
第三者の登場にシオドアを見ると、彼は薄い青の瞳をすぅっと眇めた。
「騙すように連れてきてごめんね。彼があなたと誰にも邪魔されず話したいからと、俺はここまでの案内役だよ。日頃は人目もあるしオルブライト嬢には婚約者がべったり張り付いて話せないから、今日がチャンスだと思って」
「私によく話しかけてきたのも彼の指示で?」
「うん。俺は彼には逆らえないからね」
これは予想外だ。
ベリンダではなく、コーディー・アドコックのためにシオドアは動いていたらしい。
シオドアはあらゆる人に親しげに話しかけていて、最初の頃は人好きな、悪く言えば女性に気安いので軽々しい印象を持っていた。
それからベリンダが露骨に接触してくるようになって、てっきり私の情報などもベリンダに請われて収集しているのかと予測を立てていた。
孤児院に訪れた際の街での様子についての話題も、あまりにも打ち合わせされていたようなタイミングだった。
ローマンの話を聞いてさらにそれはあり得ると考えたけれど、それもコーディーの指示だったということだろうか。
「どういう関係なんですか?」
「俺からは言えないな。主導権は彼にあるから彼に聞いて。俺は言われたことを忠実に動くだけの駒だからね」
一人になった途端にシオドアが接触してきたから彼が物語の犯人かと思えば、彼はコーディーに従っているだけらしい。
ただ、コーディー・アドコックはベリンダに傾倒している。そうはっきりとローマンも断言していた。
ベリンダのために動いているのは間違いなく、シオドアが誰について情報を集め案内役をしていようが、それらはやはりベリンダに繋がるのは変わりない。
二人の男性に挟まれるのはさすがに怖いと縫い付けたアクセサリーに手を伸ばしかけたところで、俺はこれでとシオドアはあっさりと去っていった。
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