【書籍化決定】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)

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誤算と決意③

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 現実と物語はどこまで同じになるのかわからない。
 絶対死ぬつもりはないし、もしかしたら私が変えた行動によってそういうことが起こらないかもしれない。
 だから逃げてばかりいないで、今を大事に好きにする。そう決意した。

 ただ、やはりベリンダを見ると心が乱れる。彼女が悪いわけではないのに、その存在を必要以上に意識してしまう。
 だから、なおさらデュークと視線すら合わせないように気を配るようになった。
 そして話は戻るが、それに対して周囲が盛り上がる。

 あそこにいたよとかどうしていたかの情報は入ってくる。ついでに、ベリンダとこうしていたああしていたと教えてくれる人が増えた。
 どうやら放っておかれている婚約者として同情されているらしく、彼女たちも悪気がないのでやんわり否定するしかできない。

 実際にデュークがベリンダ担当なのかと思えるほど彼女はデュークの横にいるので、周囲が心配するのもわかる。
 別に彼らも二人きりで話しているわけではないのだから、気にしていないとそのたびに言っているのだけれど、どうしても周囲は私に動いてほしいようだった。
 
 何気なく視線をやった先に見るつもりもなかった二人の様子が目に入り、私は眉尻を下げた。
 視界の先でベリンダがデュークに向かって話しかけ、それを受けたデュークが笑みを浮かべて応えている。
 それからくいっと袖をひっぱられたデュークは、何かを言うベリンダに耳を傾けるように少し頭を下げた。

「あっ……」

 ちく、と胸が痛む。
 長年恋い慕ってきた心は、割り切ったつもりでいても割り切れていない。

 諦めよう、婚約破棄すると決めているのに、最近の熱っぽい視線を感じるとどうしても奥に引っ込めていっぱい鍵をかけている恋心が出たいと疼く。
 それでいて二人の仲の良さそうな姿を見て、物語の二人を思い出して胸が冷える。

 ――ああ、私の恋心しつこすぎない!?

 デュークが自分以外の女性と笑っているところを見て、私はショックを受けた。
 立場上、流れ上、もてなす側がむすっと応対するほうが問題だ。どうしようもないことだとわかっていても、心はそのように受け取ってくれない。

「フェリシア、いいのですか?」

 同じように見ていたジャクリーンが、心配そうに声をかける。
 本当にこのままで……、と言葉にはせず視線だけで訴えられて私はこくりと力なく頷いた。

 まだ何やら話している二人を視界から無理矢理剥がし、深く息を吸い込んだ。
 恋心と前世の物語がぎゅうっと胸を圧迫してくる。それらを逃すように、何度も何度も息を吸って吐き出した。

「フェリシア?」

 そんな私を見て、ジャクリーンが美しい顔をくしゃりと歪めた。
 苦しい気持ちを少しでも軽くするように長めに息を吐き出すと、私は努めて笑みを浮かべた。

 今、自分がどんな表情になっているのか、ちゃんと笑えているのかわからない。
 だけど、大丈夫だと、大丈夫にするのだと俯いていたくなくて笑う。

「ええ。公務ですから」
「でも……」

 私は周囲をうかがい、誰も近くにいないことを確認してからそっと顔を寄せた。
 ジャクリーンならいいかと、むしろ少し吐き出したくなって心の内を吐露する。

「ここだけの話、私はデューク様を諦めようと思っているのです。いずれは婚約破棄を申し出ようと」
「そんな!? 確かに今までのウォルフォード様はちょっとあれでしたが、今は確実にフェリシアを気にかけていると……」

 ジャクリーンは困惑気味に私とデュークを交互に視線をやり、最後に私を見ると小さく嘆息し肩を竦めた。
 その様子に私は苦笑する。友人として思うことがあっての動きは親身になってくれているからで、困らせてしまっているけれど嬉しいものでもあった。

「確かに視線は感じますが、きっと私が話しに行かなくなったから気にかけてくれているだけだと思います」
「それは少し違うような」

 ぎゅっと眉を寄せるジャクリーンは、どうしてもデュークの現在の視線が気になるようだ。
 私も気になる。だけど、どうしてかと考えることもつらくてわからないことを深く考えるのはやめた。

「もういいのです。もともと両親たちの仲が良かったことによる婚約でしたから。そのほうがお互いのためです」

 自分の思いを聞いてもらうことで、自分自身に発破をかける。
 そうしないといけないのだと強く言い聞かせた。

「お互いのため、ねえ。私はフェリシアがそれでいいのでしたら構わないけれど、でも最後の決断を下す前にウォルフォード様と一度ゆっくり話し合うべきだとは思うわ」
「ジャクリーンも両親と同じことを言うのですね」

 隣国の王子が帰ったら婚約関係の解消を進めてくれないかと、すでに両親には話してある。
 考え直さないかと何度も言われたけれど、私は首を縦に振ることはなかった。

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