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3-Love doesn't stop-

76高塚くんの愛の証明②

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「りの。慣れてね」

 いや、慣れませんから。

「……外でとかはちょっと」
「なら、家の中ならいい? あれから家に来てくれないし、もっとりのにくっつきたいのにすぐ離れていくし」

 そりゃそうだ。
 所構わず、好き好きアピールされては気持ちが持たない。
 もともとこの美貌とスタイルで目立つ人だったのに、最近の行動は驚くほど莉乃一直線になって、誰が見ても溺愛してますって顔はさらに目立つことこのうえない。

 当初は嫉妬や釣り合わないと侮蔑を含む眼差しだった女子生徒も、今は逆に呆れ気味というか、ああ、またやってるわって感じで見守られることが多くなった。
 嫌われるよりはとは思うのだけど、その視線の方が恥ずかしい。たまに、居た堪れなくなってしまう。
 それだけ、高塚くんは気持ちも隠さなくなったし、行動はさらに大胆になって、今では学校の名物カップルとして受け入れられていた。

 外でもそれだったら、家でとかどうなることか。
 はっきり言って、手練れた上に莉乃愛が強すぎる高塚くんを止められる自信がない。
 だって、莉乃も高塚くんが好きだから。
 好きな人に求められて、完全に拒絶なんてできない。

「だから、私はこういうの慣れてないから。あと、恥ずかいし」
「俺も慣れてない。でも、りのがそばにいると手が伸びてしまうし、止められない」
「…………」
「こういうの、りのにしかしたくない」

 口づけを落としていた髪を後ろにくしけずり、そのまま撫でてくる。
 腰に回った腕に隙間を埋めるように引き寄せられ、そのまま身体が高塚くんに傾いてたくましい胸に肩が触れる。

「ね、もっともっとくっついていたい。だから、りぃの。家に来て?」

 密着した莉乃の頬をそっと撫でながら、高塚くんが顔を寄せて耳元で囁く。触れる吐息にピクリと肩が跳ねたその時、

「ブフォッ」

 第三者の吹き出した音に、びくっと身体を跳ねさせ莉乃は慌てて高塚くんから離れた。──実際は離れようとしたけど、離れられなかった。
 がっちり掴まれたままで、かろうじて顔を若干離せたかなくらいの隙間を確保した。

 ここ、公の場!! 奥にあるカップル席であまり人目を気にしないでもいいような場所とはいえ、当然見ようと思えば見えるわけで。
 危ない。油断ならない。

 莉乃はかぁっと顔を赤くなっていくのが自分でもわかった。
 すぐに高塚くんのペースに持っていかれるし、手数も多いし一手一手が早くて対処しきれていない。
 客観的にただのイチャイチャカップルだということは自覚していて、もう恥ずかしくてむぅっと高塚くんを睨むけど、高塚くんは涼しげに笑ってみせると、相手から莉乃の姿を隠すように身体を前にした。

「キョウ。お客さんに対してそれはないんじゃない?」

 高塚くんの背後から見えるのは、腰に黒いエプロンを回した男性。彼はくっくっと肩を動かし持っていたお盆をテーブルに置いた。
 お盆の上にはすでにいつもよく頼むアイスカフェオレとブラックコーヒー、そしてショートケーキが乗ってある。お店の看板にもオススメメニューって書いてあったし、美味しそうって言ったのを聞いた高塚くんが先に頼んでくれたようだ。

「いや、だってお前。なにその声」
「なにが?」
「お兄さん、びっくりして二度見したからね。それに、その話し方なんて別人かと思った」
「……普通」
「なるほどな。何をもって普通っていうかだよな。あー、おもしろっ」

 そう言ってまたくくっと笑っていたキョウと呼ばれた男性は、ちろりと莉乃を見て視線が合うと、ふっ、と微笑んだ。

「ごめんね。あまりにもこいつが普段と違ったから面白くって。よっぽど君のことが大事なんだなぁって。こっちは別人すぎて鳥肌ものだけど、……ぶっ。笑える」
「……はぁ」

 長めの髪を無造作に後ろにくくり、それが妙に色っぽい男の人だ。きっと、彼目当てにもたくさん女性がやってくるのだろう。
 その彼は話している間にまた収まらないとばかりに手を口に当て肩を震わせ、ようやく治まったかと思えばちらりと高塚くんを見て、また「ブフォッ」と吹き出した。

「いい加減にしろよ、キョウ。さっさと出すもの出して下がったら?」
「そんなこと言うんだ? お前の可愛い彼女を俺に紹介してくれるんじゃなかったの? 俺は初めての紹介をとても楽しみにしていたのだけどねぇ」
「彼女……」

 そこで感極まったように繰り返す高塚くん。はっ、と隠すように手を当てたが、一瞬見えた口元は嬉しそうに上がっていた。
 人に彼女って言われるのがよっぽど嬉しかったようだ。
 いまいち、高塚くんのポイントがわからない。けど、そんな姿も嬉しくて可愛いなって思ってしまう莉乃も大概だ。

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