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3-Love doesn't stop-
65高塚くんが必死④
しおりを挟む「高塚く、ん……?」
「りの。名前呼んでほしいな」
仲直りの証みたいってことかな。
恥ずかしいけれど、信じきれず高塚くんを振り回したことを思うと、昨夜の反省を思うと、己の恥ずかしさは後回しにして名前くらいって……。
「………………千歳くん」
顔が赤くなるのを止められないまま小さな声でそう呼ぶと、ものすごく嬉しそうに顔を綻ばせるから、それを見て嬉しくてさらに恥ずかしくなった。
「りの。もう逃げられないし、逃がさないから。今日は一目でもりのの姿を見たらそのまま浚ってしまいそうだったから放課後まで我慢した。了解を得られたのだから、もういいよね?」
褒めてとばかりに、ふふっと笑って掴んだ手を撫でてくる。
───なにが?
再度、そう思う。
本当に思っていた方向と全く違う。思わず、掴まれていた手を引きそうになったが先にぎゅっと掴まれる。
あと、生ぬるいのは……唇だったような。いやいや、こんな公の場でまさか、ね。
「このまま俺の思いを話してもいいけど、さすがにこれ以上はね。だから、俺と一緒に来てくれるよね?」
にこっと微笑む高塚くん。その瞳は捕食者のように、ずっと莉乃だけを捉えていて、言葉通り逃しはしないと告げている。
言葉の節々に不安を感じるが、それでも高塚くんと一緒にいれること、相手もそう望んでくれているとわかって喜びの方が勝る。
好き、をしっかり自覚してから、手の大きさだとか、近距離で話す息遣いだとか、本気でやばい。
すべてが格好良く見えて、笑いかける姿だとか、莉乃だけを映す瞳だとか、いろんなことを意識していっぱいいっぱいだ。
すごく恥ずかしくて嬉しくて顔に出さないようにするのが精一杯で、高塚くんのように言葉ではうまく返せる気がしなくて、向き合おうって思っていたことを思い出し気持ちを振るい立たせる。
少しでも思いを返せるようにと、莉乃は自分からも手を握り返した。
自分よりも大きく硬い手の感触に、顔が緩みそうになる。
すると、はっと瞬きを繰り返した高塚くんが、ゆっくりと蕩けるような笑顔を浮かべた。とってつけたようなものでもなく、ふわっと漏れ出たような笑顔に、胸がキュンキュンとする。
自分が引き出したんだと思うと、もう高塚くんが可愛く見えて。カッコイイのに可愛いってなんだ。
自分の心情も混みですっごく恥ずかしくなる。見ていられなくて視線を逸らすと、離さないとばかりに指を絡めてきた。
恋人繋ぎ。いつも思うけどすっごくナチュラル。やっぱりこういうのは慣れているなって思うと胸がわずかに軋むけれど、本当に今は自分だけだというのなら信じてみたい。
「帰る準備はできてる?」
「うん」
「じゃあ、行こうか」
鞄を軽々二つ分持った高塚くんに、引っ張られるままに教室を出た。
教室を出て廊下を曲がる頃に、わっと静まり返っていたクラスが湧いた気がしたが、莉乃はそれどころではない。
高塚くんがいつもより糖度増しで、甘く自分の名前を呼ぶ。
告白されたからか、名前を呼ばれるたびに好き、好き、と言われているようで、さっきからまともに思考が働かない。ずっと逆上せているような状態だ。
「りの。りの。早く二人きりになれるところに行こう」
「それはいいのだけど、今日はどこに?」
私も二人っきりになりたい。落ち着ける場所でたくさん話したいし、自分の気持ちも伝えたい。
だったら、初めて行った喫茶店とかかな? 誰かの視線を気にせずと思うと、そこしか浮かばない。
ああー、さっきからバクバクする。
歩いているだけで心臓やばいのだけど、向かい合って二人っきりとかまともに話し合えるかも心配だ。
「俺の家でいい?」
家……家? 高塚くんの家? いきなりハードルが高い。
密室とか、本気で無理なんですけど。心臓持つ気がしない。
「…………家はちょっと」
「りの。ダメ? 誰にも邪魔されずゆっくり話したい。誤解があるならしっかり解きたいし、気持ちを隠さないと決めたから、人に聞かせるようなものでもないだろうし。だから、俺の家が一番かなって思ったのだけど」
「…………」
おおぅ。一体なにを話すつもり?
一瞬、頭が真っ白になった。
言い分はわかるのだけど、休日からのこの展開は整理できてなくて、高塚くんのプライベート空間とか想像つかないけれど、なんかいろいろやばい気がする。わかんないけど、ただただやばいって思う。
「りの。来てくれる? ゆっくり話したい」
にっこり笑顔付きで言われると、副音声で逃さないって聞こえるのは気のせい?
それでも、余裕もなくすっごく必死に言葉を重ねる高塚くんの姿は、言葉をもらったせいか本気で莉乃を逃したくないと、好きだと思っての行動だと思えて、散々彼の行動を否定してきた莉乃はここで拒否することはできなかった。
高塚くんに言われた言葉が響いていて、今の莉乃はお願いされるのに弱くなっていた。
それに、多少の不安よりは好きな人と一緒に居たい。話せるのなら、この関係が前進するのならそういったことは些細なことのはずだ。きっと。
「私も、ゆっくり話したい。迷惑でなければ行かせて欲しい」
この時、部屋で二人っきりになる危険性を莉乃は認識していなかった。
ましてや、高塚くんが一人暮らしをしていて、扉が閉まったら最後、ずっと二人っきりということも。
微笑みながらもその瞳の奥はずっと飢えていたことも、余裕もなく必死なことも、餓えた獣のように莉乃を見つめられていたことを気づくことなく、莉乃は獣の巣穴へと導かれていった。
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