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2-My goddess-【千歳SIDE】
54りのだけ①
しおりを挟む千歳はいつもより早めにキョウの店を出て、自宅のマンションへと戻った。
なんか、情けなくもらしくない反応ばかりしていた気もするが、年上のケントたちとの時間で少しばかり気持ちは落ち着いた、……気がする。
男と一緒にいるりのを見た状態で連絡をずっと取れないまま一人でいたら、今頃りのの家に押しかけていたかもしれないと思うほど、気持ちが募りすぎて自分でもやばい状態だったと思う。
「はぁー」
行き場のない思いとともに溜め息をつくと、千歳は鍵とともに財布をテーブルの上に放り出し、スマホだけを手にソファに沈み込む。
りのの姿を見てからこうして帰宅するまでに何度もスマホを確認し、りのに迷惑に思われない程度にしようと思いながらも、起きている時間なら大丈夫かと電話とメールを数度。
折り返しの電話もなく、メールもなく、徐々にあの男とどっかのホテルにいてとか悪い妄想が止まらなかった。
だが、りのは付き合っている相手がいて自分と毎日放課後過ごすような軽い女じゃないと必死に自分に言い聞かせた。
言い聞かせて、理性ではそうだと思っているが、ただの送り迎えにしても、自分以外の男の存在は気になって仕方がない。
兄かもって自分の都合のいいように考えたが、『りぃちゃん』っていう呼び方はあまりにもシスコンすぎてなんとなくりのの兄と違うように思う。
だったら、やっぱりあの男は誰なんだと苛立つ。血縁以外の男がりのの近くにいると思うだけで、心が荒む。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ」
千歳の気持ちは行ったり来たり、期待や不安と忙しなく、自分で自分のことを傷つかないように予防線を張ってあれこれ考えていることには気づいていない。
今までの千歳なら、女性の気持ちを慮ることもなく、最低限の礼儀をもってそれなりに女性を喜ばせる行動はするが、言われた言葉をそのままに受け止めたあとは自分の気の向くままに動いてきた。
言い換えれば、自分の気持ちに誰も侵略されるようなことはなく、土足で入ってくるような女は速攻切り捨てたらいいだけで、どれだけ縋られても嫌だったら気持ちは動くこともなく、異性関係で気持ちを乱されたことはない。
だが、りのに出会ってからは、何もかも初めての心の動きに精一杯で、りのだけが千歳の心を揺さぶる。
あれこれ考えて、悩んで、結局ただ携帯を手元に置いてなくて何もなかった場合しつこく連絡を残すことになってもと思い、これで終わりだと自分に言い聞かせるように11時におやすみのメールを打った。
しばらくそのままスマホを片手に待ってみたが、諦めてお風呂に入る。その間に連絡が来ているといいと、いつもより少し長めに入ってみたが、出て髪を拭きながらスマホを確認しても、りのの連絡はなし。
「りの」
暗い画面に言葉が落ちる。
寂しい。苦しい。りのを俺だけのものにしたい。
親しげな男の存在を見ただけで、自分の存在があっという間に脆くなった。今までの経験上、どこか驕っていた自分を自覚する。
人から見れば順風満帆な千歳だが、なにも苦労しなかったわけではない。それなりに千歳も努力をしてきたし、悩みだってある。
だけど、大抵、望まなくても手に入る事の方が多く、それはだいたいがどうでもいいものであったけれど、人よりは恵まれていることはしっかりと自覚もしていた。
自覚した上で、それをしっかり利用して自分の過ごしやすいように周囲に干渉してきた。それがうまくいっていたから、りのに対しても自分が頑張ればどうにかなると思っていたところもあったのだろう。
それに気づくと、途端に自分が小さな存在だと改めて思う。そもそも相手は女神だ。
そんな自分が女神に手を伸ばしていいのだろうかと一瞬だけ悩むが、やはり一瞬で。それ以上に欲しい気持ちが、あっという間にそんな感情を上書きする。
どうしても渇望せずにはいられなくて、結局、捕まえることしか考えられないことを自覚する。
だいたいが、りのがあんなに可愛いのがいけない。
そんなりのが自分以外の他の男を虜にしないわけがなくて、やはり側に置いておかなければと焦る気持ちが大きい。
心が見えないから、わかりやすく身体からなんて悪い男の考えだって湧いてきて、一度考えると興奮で下肢が熱くなるが、大事な大事なりのに同意もなしにそういうことはできないとすぅっと冷める。
寝付けなくて、布団に潜りながらどれだけマイナスな感情が浮かんでも、逃がす気はないというのは千歳の絶対だった。
捕まえるのが絶対なのなら、あとはどう捕まえるのかが問題で。
できることなら、怯えさせず喜んでりのから千歳のもとへと来てくれることがベストなのは変わらない。
それが無理なら、どんな手を使ってでも絡め取るつもりだ。絡め取って、あとは幸せにしたらいい。
幸せにするには、やっぱり怯えさせることはよくないとわかっているから、どこまで積極的にいっていいのかを迷いはする。
だけど、逃がさないってことは絶対で。
結局は自分の要望を押し通す気満々なことには変わりなく、あとは少しでもりのに寄り添えるようにと思うばかり。
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