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2-My goddess-【千歳SIDE】

39俺の女神①

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「見ぃつけた」
「ひぁっ」

 その背中を見つけて、千歳は一直線に彼女の元へと飛び降りた。記憶よりも髪が短くなっているが間違いない。彼女だ、と千歳の全細胞が告げる。
 逃がさないように手を伸ばし、彼女を閉じ込める。
 ああ、「ひぁっ」て可愛い悲鳴だったな。悲鳴まで可愛いなんて、と口元が緩む。
 自分が出させた言葉を脳内でリプレイさせながら、やっと見つけた彼女がこの腕の中にいることを噛みしめた。

 柔らかな感触。何か策を練るまでもなくこの手に閉じ込めた己の衝動的な行動は、この小さく細い存在に自分が思った以上にとても飢えていたことの表れだった。


 “My goddess”


 気まぐれに隠れてしまわないように、他の者に見つかって取られてしまわないように。
 ずっと探していた俺の女神。

 千歳は固まったまま彼女が動かないのをいいことに、彼女をしっかり堪能するよう抱きしめた。
 ほぅっと安堵の息が出る。

 彼女と同じ学校に転校しさえすればすぐに会うことができると思っていたのに、見つけるのにこんなに時間がかかるとは想定外だった。
 やっとのことで見つけることのできた喜びが広がり染み渡ると、次第に学校にいたのにこんなにも探させた彼女への不満が浮かび上がる。

 同じ学年だったのに、一週間も会わないなんておかしい。
 休み時間になると彼女を学年問わず探しに行っていたのに、同じ学年ならなおさら廊下ですれ違いもしないなんて……。すれ違いさえすれば、こうして千歳は気付いたはずだ。
 ついつい、その気持ちのまま咎めてしまう。

「どこに隠れてたの?」
「ひ、人違いでは?」

 やっぱりというか、彼女は千歳のことを覚えていないようだ。
 今まで女性に忘れられるという経験をしたことがない。それだけ、自分の容姿が特に異性から好感度が高いことを長年の経験から千歳は嫌でも理解していた。

 どうでもいい相手ではなくて、彼女にこそ覚えていて欲しかったが、相手は女神なのだから仕方がない。
 こうやって見つけた今、闇雲に探していた時期とは違いこれからがあるのだ。関係を築いていける。
 自分のことを知ってもらい、むしろ自分が彼女のことでいっぱいなのと同じように、彼女も自分のことでいっぱいになればいい。そのうち、自分たちが初めて会った大事な日も思い出してもらいたい。

「何を言ってるの? 俺が間違うわけないだろう」

 それでも、自分が彼女のことを間違うなんてありえないことは知っていてほしい。
 誰かと彼女が同じに見えるわけがない。──……こんなにも彼女だけが違うのに。

 千歳の言葉にわずかに首を傾げ、一生懸命考えているのが伝わってくる。

「えっと、……誰?」
「ええ? 声聞いてわからないんだ? 悲しいな」

 彼女がすごく戸惑ってる。
 その姿に心が揺れる。自分の知る彼女の姿とは違って頼りない姿は、すぐに伝えてしまいたくなる。あの時にいたって教えたくなる。

 だけど、それではダメだ。ぜんぜん足りない。
 千歳が気が狂いそうなほどたくさん彼女のことを考えた分、彼女も俺のことを考えたらいいのだ。気になって気になって仕方がなくさせたい。
 すぐさま優しく甘やかしたい気持ちもあるけど、ちょっと意地悪な気分の方が勝る。

 あの時のことを覚えていなくても仕方がないと思っていても、誰? なんて言われてショックは受ける。すっごく悲しい。
 なにこれ。彼女の放つ言葉に、ずきずきと胸が痛くなってくる。

「わからない、です」

 そんな他人だよって言わんばかりの言葉遣いはやめてほしい。もっと俺のところまでき降りてきてほしい。

「なんで、敬語? 同じ年だろ?」

 むっとして思わず彼女を責めてしまった。彼女の横にいる一人は千歳と同じクラスだ。なら、同じ学年であるはずだ。
 本当はもっとスマートに、彼女を怖がせることなく自然な感じで距離を詰めたいのに、どうしても感情が前へ出てしまう。

「そ、そうなんだ……」
「というかさ、いい加減こっち向いて」

 いつまでも顔が見えないのが辛い。
 俺に焦がれてやまない顔を見せて、と彼女の小さな顎を優しく掴んでくいっと向けさせ視線を合わせる。

 指の近くにある小さな唇はほんのりピンクでかぶりつきたくなるくらい可愛らしく、大きな瞳が驚いたように見開いているが黒い瞳はとても澄んでいて綺麗だと思った。


 ──────ああ、彼女だ。


 顔を見てさらに嬉しさを噛みしめる。
 俺の可愛い女神だ。記憶のまま、それ以上に可愛いかもしれない。なんでだ。
 こうなると全身が見たい。くるりと体勢を変えさせて、逃げられないように彼女の腰に手を回した。

 驚き戸惑った彼女の顔が間近にある。くりくりとした瞳の中に自分が写っている。
 その事実に言い知れないほど千歳は歓喜した。

 細い腰はとても庇護欲をそそり、自分に馴染むようにぴったりくる。小さな鼻はかじりたくなるし、同じく小ぶりな口からもっと声が聞きたい。
 名前を知りたい。
 彼女のいろんなところを見たい。

 次から次へと、会ったら治まると思った衝動が溢れ出す。
 見つからず焦りだけが募っていた時のことを思えば、捕まえた今はその願いが叶えられることに箍が外れる。

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