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1-something quite unexpected-

37高塚くんがわからない②

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 相槌も打てずに黙っていると、今度は両肩を抑えられて顔を覗き込まれる。熱を帯びた視線が莉乃を射抜く。

「ようやく見つけて、会えば会うほどりのと一緒に過ごしたくなった。わかってると思うけど」
「……よくわからないよ」

 どうして、高塚くんは私と一緒に過ごしたいのか。その肝心の部分がわからない。

「なんでわからないの?」
「……なんでって言われても」
「はぁ。心配でこの1日何も手がつけられなかった。せっかくの休みだったのに」

 休みだったから何?
 なんの休み?
 わからないよ。知らないよ。高塚くんは肝心の部分は話さないくせに。なんで、溜め息をつかれないといけないの?

 私の知らない高塚くんの姿はまだまだあるんだと思うと、それを知らせないままわかれと言われて腹が立った。
 内側からぐぅっと熱くなる。期待や不安の中揺れ動いて、学校では終始人の目があって、心がこの状況に堪えられないと悲鳴を上げた。考えるのもどうでもよくなってくる。

「心配してくれてありがとう。連絡すぐ返さなくてごめんね。でも、もう放っておいて欲しい」
「りの。急にどうしたの?」
「急じゃないし、どうしたもこうしたもないよっ」

 気づけば、思ったよりも大きな声が出ていた。

 もう、よくわからない。
 高塚くんが何を望んでいるのかわからないことがしんどい。好きでもない相手に、1日連絡つかなかったぐらいでバイクを飛ばしてきて。

 この関係の先って何なのか。いつまでこのよくわかないことに付き合えばいいのか。
 先が見えない関係はすごくしんどい。そして、私たちは受験生。いつまでもこんなことしていていいわけもなく、精神的によくない。

 恋愛するなら普通の恋愛がしたい。
 なにを考えてるかわからないような相手じゃなくて、気持ちが通い合うような、穏やかな恋愛に憧れる。
 なのに……。

「もう、高塚くんがよくわからないよ」

 気づけば、するっと言葉に出ていた。
 別に彼女でもないのに、まるで付き合っているかのようなやり取りなんてしたくない。

「俺がよくわからない?」
「高塚くんの行動そのものがだよ。大事な休日だというなら、私に構わなかったら良かったんじゃないの? 台無しになったのが私のせいみたいに言われるくらいなら、放っておいて欲しい」

 高塚くんと話していると、揶揄われてるだろうとかそういうことは思えなくなる。真摯に向き合おうとしてくれているのだろうなと、思ってしまう。
 だから、余計に困る。
 本当に高塚くんが私を困らそうとか思ってこういった行動をとっていないのだとしたら、困っているとはっきり言わないと高塚くんはわかってくれないのだろう。

「りの。落ち着いて。連絡がない間に何かあった?」
「…………」
「りの」
「気安く名前を呼ばないで」

 問い詰めるような声音に、急激に膨らんだなにかが爆発しそうになる。
 これ以上はもう駄目だ。絶対、ほだされる。さっきバイクから降りてきた姿を見てそう思った。


 ──私は、高塚くんに確実に好意を抱き始めてる。


 だから、昨日からずっともやもやして、高塚くんのすることを無視できないんだ。

 これ以上、高塚くんのことを好きになりたくない。引き返しが気かないくらい気持ちが引っ張られて好きになった後、飽きたからバイバイって、昨日の女性を振り払ったようにされたらどうするの。耐えられるわけがない。
 パシンっと乾いた音が忘れられない。好意を示したら、あんな風に私もされるのだろうか。
 
「りの。ちょっと落ち着こう。ほら、座って」

 ベンチに誘導されて、ぽんぽんと座る場所を叩く。莉乃はふるふると首を振った。

「無理、いや」

 子供っぽい抵抗しか出なくて、自分でも情けない。それでも、なんでも高塚くんの思い通りに動くと思われるのは嫌だ。
 絶対、高塚くんを見ないぞと視線をそらし無言でいると、彼のまとう空気が変わり低い声で告げられる。

「こっち向いて」

 硬い声で言われ空気に耐えられなくなって、ゆっくりと視線を上げる。高塚くんの表情を見て、こくり、と息を飲んだ。
 さっきまで匂い嗅いでいた人と思えないほど、目つきがきつくなってる。細められた眼差しは全てを見透かそうとばかりに、ひたと莉乃を据える。
 暗い中で、瞳だけが冷たく光って見えた。

「……高塚くん、ちょっと怖い」
「怖い? ああ、ごめん。でも、りのが放っておいて何ていうから悪いんだよ」

 おざなりに謝られ、なじられる。
 無表情でじっと観察されて、不快なことに憤ってるとばかりの冷え切った空気がのしかかってくる。
 理不尽に思いながらも、莉乃も積み重なった不満や不安といった衝動に突き動かされているので、いつもみたいに流されるつもりもなかった。

「……離して」
「嫌だ」

 すげなく却下され、莉乃は唇を噛み締める。
 伝わらないのが悔しい。それでも、今日でこの関係をはっきりさせてしまいたいという気持ちは変わらない。期待して、砕かれる未来なんていらない。

「お兄さんの友人と何かあった?」
「なにもないよ」
「なら、なんで急にそんなことを言い出したの?」

 高塚くんから放たれる重圧を感じながら、莉乃は負けないぞと高塚くんをきっ、と睨んだ。
 なんで、そこで拓真くんが出てくるのかな。私は高塚くんのことに悩んでるのに。

「本当に何もないよ」
「なら、」
「……聞いて。こういったスキンシップもさ、高塚くんにとっては普通の事かもしれないけど、私にとってはそう割り切れるものでもない。探してたから? 見つけたから? 過ごしたいから? そんなものを急に押し付けられて、私はどうしたらいいの? どうして欲しいの? まったくわからないよ」
「りの」
「やめてっ」

 ベンチに誘導された時に掴まれた手をさらに引かれそうになって、莉乃は渾身の力で振り払った。

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