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1-something quite unexpected-
28私の知らない高塚くん③
しおりを挟むそれらの会話を一通り振り返ったところで、莉乃は溜め息をついた。
鞄は物質みたいなものだと私は思っている。
最初が最初だからかな。
必ず持ってくれるのって優しいなとは思う。最初だけでなく、継続することって見せかけのものではないって証拠なのだろうし。
だけど、それに対しては返されるまで帰れないのはどうかなぁって気持ちも強くて、半ば諦めてはいるけれど納得はいってはいない。だって、最後の最後ばいばいするまで返してくれない。
とても名残惜しそうにされて、鞄を返してくれても今度は手が離れていかなかったりと、それからがちょっと長かったりする。
まるで寂しいとばかりにきゅっと掴まれたまま、莉乃と離れたくないって言っているかように、指があちこちに這い出して莉乃を引きとめようとしてくる。
言葉はなくても、そんな行動を毎日されていたら莉乃だって帰る時は後ろ髪が引かれる。もうちょっといてもいいかなって考えてしまう。
こんな風にいろいろ思い出すたびに、高塚くんの行動は、んん? て少しずつ思うことがある。
本当、なんなんだろうね?
昨日だって、抱きしめてくるのは当たり前みたいになっていて、額や頬にだけど、隙あらば唇を触れさせようとしてきた。
キスというよりは、挨拶みたいなものかなって思ってるのだけど、日常的にそんなスキンシップをしたことがない莉乃は、たとえそこに深い意味はないとしても当然意識はするわけで。
気軽にできるものではないから毎回抵抗はしているのだけれど、その度にすっごいしょんぼりするものだから、莉乃の抵抗も弱々しいものになっていく。
しょんぼりされて、拒絶しすぎて悪いことしたかなって気にしていたら、しばらくたったら懲りずにスキンシップを再開してくる。
高塚くんの行動と一喜一憂に振り回されているようで、あまりに腹が立って本気で文句を言ったことだってある。流されてばかりではないんだ。一応。
だけど、高塚くんの主張は、『急にぐっと込み上げてしたくてしたくて堪らなくなって耐えられない』とのこと。
すごく切実に訴えられて、そこは耐えてほしいと心底思った。
そんなことを真面目に語られても、こちらは苦笑するしかないし。
だって、結局はしたいようにするって言われてるのと変わらない。しょんぼりしたりするくせに、改めるって言葉は聞いたことはないし。
いつも、“できるだけ”ってついてるから、高塚くんのできるだけの配慮であれなのだろうし。
強引にはしてこないからその辺は安心しているけど、いったいどういうつもりで言ってるのかな。……不安だ。
でも、高塚くんは強引だけど、こっちが本気で嫌がるところは見極めて引いてくれていると思う。
その分、深く考える前にさらっとペースに乗せられてしまうことも多々あって、流されがちな自分が心配でもあった。
徐々に距離を詰められてる気がしてならない。
もともと、パーソナルスペース狭って思ってたのが、さらに密着度増えてきて、正直言うとそれに慣らされて感覚が鈍ってきていると思う。
自分でもなんで全部拒否しないのかもわからない。もちろん、高塚くんの妙な圧があるのも理由なのだけど。
あと、好かれてるなって思うから、全部を断れないし嫌だと思えない。
そんな莉乃の態度のせいで本気で怒ったり嫌がっていないことがばれているのだろうし、そのため今の状況が続いているわけなのだけど。
じわじわと距離が詰められていて、この先どうなるのだろうと不安で仕方がない。こんなことは初めてだ。
「はぁぁぁ~」
莉乃は知らず知らずのうちに、溜め息をついた。
あとは、やっぱり理由かな。
どうしてこんなに構ってくるのかを、高塚くんの口からはっきり語られないことがもやもやする。
噂を知らないわけではないと思うのに、周囲の誤解をそのままにしているし、ここまできたら高塚くんが何を思ってるのか知りたいって思いが強くなってきた。
今まで一人でもんもんと考えていたけれど、志穂たちと話すことで前向きになったというか、うだうだするのが馬鹿らしいかなって思うというか。
そう伝えると、二人とも顔を見合わせて納得半分って感じだったけど。
志穂も美咲も莉乃の気持ちをわかりつつも、高塚くんが莉乃を好きなのだと疑っていないのだ。でないと、あそこまでしないよっとの話だ。
でも、それもどうなのって思う。
高塚くんの基準がわからない。
人を弄ぶような人ではないと思うけれど、男女の関係についてそもそも考えが違ったら本人に悪気がなくてもって話もあると思うし。
それに、志穂と美咲以外には、付き合っているのかなんて直接聞かれたことはないから、否定する場もなく勝手に噂が流れているだけ。
聞かれてもいないのに、付き合っていないなんて主張するのもおかしなものだし、下手したら調子に乗っているって思われるイタい子発言になる。
だから、よくわからないまま莉乃は周囲に彼氏持ちだと思われているのだ。そして、一定の女子から疎まれている。事実無根のことなのに。
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