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1-something quite unexpected-
19高塚くんの距離が近い③
しおりを挟むやめて。
こういうのは本当に困るんだよ。
だって、わからない。
高塚くんのことを、私はよく知らない。
特別だと思わせる扱いも学校ではってだけで、学校外ではお付き合いしている女の人がいるかもしれないし。ここでもし自分は特別なんだって勘違いして、後がしんどいのは莉乃の方だ。
そういうことを詮索するような関係でもないから、莉乃からは訊ねない。訊ねられないし、訊ねる気もおきない。
なにせ、前の学校では学校外ではお付き合いとか噂になるくらい盛んだったらしいし。
周囲も認める美女だらけだったみたいだから、莉乃とのこの関係はそれとは全く別ものだろう。
高校生の女子の中での特別なだけで、高塚くんの日常からしたらちょっとしたことなのだ。きっと。
それに、大人な女性とのお付き合いばかりならば、同じ年の相手なんて物足りないのだろうって思うし。
だって、さっきのキスとかもそうだけど、いろいろ手馴れてると思うし……。
そう考えると、すっと気持ちが冷える。
さっきまでトクトクと鳴る心音とともに上がった体温も、すぅっと下がっていった。
視線を斜め下にして、なるべく高塚くんを見ないようにする。なんか、甘い雰囲気を出している高塚くんといま目を合わせるのは嫌だ。
「りの?」
「……えっと、そろそろ離して」
「イヤだ」
「嫌って言われても、充電したならもう十分でしょ?」
「……さっきまで可愛い反応だったのに、急にどうしたの?」
「どうもしないけど」
可愛い反応ってなんだ?
何それ?
からかっていたってこと?
あんなことしてしっかり反応見る余裕あるんだ。やっぱり手馴れてる。
高塚くんといるのは楽しい。ちょっと知らない世界っていうか、ドキドキする感じでこれもいい経験だと、勉強だと思っている。
だけど、やっぱりそういう経験豊富さが見えてしまうくらい、いろいろやることなすことスマートなのは気になる。
ごくごく自然とこなせるその姿は、非常に格好いいことだとは思うけれど、素直に感心できなくって、なんかモヤモヤっとする。
いまだに抱きしめられたままだけど、視線は意地でも合わせたくなくてずっと遠くの道路を見る。
すると、頭上ではぁっと溜め息をついた高塚くんが、一層低くし棒読みみたいな声音で耳元で話してくる。
「嘘だ。絶対違う。ねぇ、りの。何か考えてるんだったら言って」
ちょ、溜め息。
お、怒った?
「何もないよ」
内心、少しびびりながら答える。妙に、ひとつひとつの動作が印象的で心臓に悪い。
それでもこっちに非はないわけで、考えていることを一から十まで説明する義理もないわけで、する気もない。
本当、高塚くんの仲良くなりたいってどこまでのことを指すのだろう?
いつまでなのだろう?
私といることでこうしてすぐ不機嫌になってるっぽいのに、どうしたいんだろうか、って思う。
「…………」
「…………」
言葉が続かず、妙な沈黙が落ちる。
「りの、取りあえず俺を見て」
淡々と告げられて、無言の圧に耐え切れず莉乃は恐る恐る高塚くんを見た。
すると、はぁーとまた思いっきり溜め息をつかれ、思わず後ろに下がりかけたが抱きしめられたままだったので、結局そのまま見上げることとなった。
ガタンゴトン、ガタンゴトン、
ピィーーッ
『まもなく2番線に列車がまいります。危ないですので、黄色い線の内側まで、』
カンカンカンカン
拘束する力を緩めないまま、高塚くんが唸る。電車の走る音とともに風が通り抜けたが、やけにはっきりと莉乃の耳に届く。
「りのが遠い」
ざわざわと周辺からの雑音が、その言葉を後押しするかのように浮きだたせる。
踏切前で止まっていた車が動き出した頃、莉乃はようやく思考が追いつき、声を発した。
「遠いって、今すっごい近いけど」
「物理的には近いけど、そういうことじゃない。俺が言っているのは精神的に遠いって話」
「……?」
精神? そんなの近いも遠いも、ずっと変わらないと思う。少なくとも、莉乃は遠ざかったつもりはない。
ほぼ毎日、短時間とはいえどこれだけの時間を過ごしたら、むしろ近くはなっているのじゃないだろうか。
少なくとも、莉乃的には初対面からの始まりだから縮まっている方だと思うが、なんだかそう言われると精神とは何かなってなる。
さらに前屈みになるように顔を近づけて、高塚くんが端正な顔を引き立てるような笑みを浮かべ、莉乃につめよってくる。
「なにわからないっていう顔してるの? 俺はりのと仲良くなりたくてこうして一緒にいるし、触れていたい。少しでも多くの時間をりのと過ごしたい。そろそろその意味考えてくれてもいいんじゃないかな?」
「考えてるよ」
「考えてないよね。考えてたら、もっと言うこと他にあると思うけど」
考えてないってどういうこと?
言うこと他にあるってなに?
莉乃はむっと眉間にしわを寄せた。
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