164 / 185
第二部 第五章 これから
推測③
しおりを挟む「昨夜のことだね」
「そう。相手は学園を狙っていたようだけど、私が知らず知らず邪魔をしていたようだし。それを認識されたからには逃げられないと思う」
口に出して話すと、ずぅーんと肩にのしかかる。
「とにかく、予言のようなものや昨夜のことも含め、エリーは危険に巻き込まれる可能性が高いということだね。ひとまず、学園の結界の強化し直しこれからも警戒は怠らない。彼らの使った魔法も今は誠意解明中だから」
「さすがだね。仕事が早い」
「力が集結している王都での出来事だ。みすみす逃すことはしない。テレゼア家も動いてそろそろ情報が集まってる頃じゃないかな」
「そうだね」
我が家はそういったことに特化しているから、後ほど詳細がわかることだろう。
「転生を繰り返していても、今目の前にいるエリーがとても大事だよ。それはきっと僕だけじゃない」
「…………っ」
頭上で響く声。包み込むように手を握られ、頭上に柔らかな感触が落とされる。
──えっ? もしかして? いやいや。
度重なるルイの言動にドキドキしながら、話が続きそうな気配がしたのでそのまま黙り込む。
くすりと笑ったルイは、指に力を込めた。
「様々な葛藤があったと思うしまだまだこれから大変だけど、今、こうして出会えて僕の腕の中にいることが何より尊い。エリーが諦めず頑張ってくれて嬉しいよ」
「尊いって、褒め殺し?」
「ふふっ。昔から木登りだとか探検だとか驚かされてばかりだよ。行動の意味と事情はわかったけれどエリーの本質はきっと変わらないのだろうから、そういった意味でもこれからも僕は少しも気が抜けないだろうね」
「今度は下げてる?」
結局黙ったまま聞いていられず合いの手を入れてしまうが、どれもこれも柔らかに笑って返される。
相変わらず力を込められた手だけは言葉や態度以上にルイの緊迫した心情を物語っているようで、私はこみ上げる思いを漏らさないように小さく唇をかんだ。
「突拍子もないことでもそれがエリーにとって憂いの原因になっているのなら、一緒に取り除く方法を考えたい。だから、信じる信じない以前の問題だよ。エリーがそういうなら、僕はエリーが望むように動く。エリーが大事だというのなら僕にとってもそれはとても何よりも優先させるべきことだからね」
「……ありがとう」
自分の今までの葛藤などあっという間に吹き飛ばし、可能な限り私に寄り添う形で接してくれるルイ。
ふぅと息を吐き出し、私は瞼を下ろした。
いまだにがっちり抱え込むように離されない温もりや、変わらぬ匂いの中に好意さえも感じるようになって頬が熱いけれどひどくリラックスした。
私のことをよく知る人物が、抱え込んでいた話をすんなりと信じてくれて、これからを一緒に考えてくれると当たり前のように言ってくれた。
そのことが今まで一人で奮闘してきた私にとって、どれだけ得難いものか。
まるでじわじわと冷めないお風呂に浸かっているかのように、ずっと温かいものに包まれている気分になる。
どこを向いても冷えきらない気持ちが、今まで以上に力を与えてくれる。
「ルイと出会えて本当に良かった」
「僕もだよ」
心からの言葉に、ふわっ、と心の底から嬉しそうに微笑まれて、不覚にもきゅぅんと胸が高鳴った。
無防備っていうか、取り繕わなくなったから直接当てられて、恋愛どころじゃないと思っていても反則級の笑顔は癒やしと神々しさのミックスで耐えられそうにない。
気持ちは向き合いたいけど、今はきちんとした判断ができそうにない。
ほどほどに頼みますよーと睨んでみたのだが、またにこにこっと笑顔が返ってきた。
わかってるのか、わかってないのか。……まあ、これはわかっててやっているんだろうなぁ。
柔らかな笑顔に騙されがちだが、ルイも結構強引だ。
こういうところは、完璧王子であるシモンと同じだ。化かしあいの最高峰にいる王族っぽい。そう考えると、サミュエルは随分まっすぐだ。
考えがそれたけど、これからは転生など気にしないで邁進していくだけだ。
頑張るぞーと鼓舞していると、緩やかな停車とともにルイがくすくすと笑った。
「エリー、着いたよ。どうやらマリア嬢がお待ちかねみたいだね」
ルイの視線の先を辿ると、カーテン越しにわかる見慣れたシルエット。
接近しすぎでは? 馬車の中にも伝わる存在感が半端ない。
これから心配をかけた家族と対峙だ。そして、本日は誕生日。
これからやることいっぱいだけど、今まで自由に見守ってきてくれた家族との時間も大事だ。特に姉様。
「エリー。出てらっしゃい」
うっそりと馬車の外から聞こえる声。
「ほーら。早く出てこないとどうなるかしら? そういえば、三年前の」
「マリア姉様!? 出ます。出ますから。ちょっとお待ち下さい」
「もう! 早くその可愛い顔を見せてちょうだい。ルイ殿下も着いたのですから、エリーを私に引き渡してくださいな」
「わかってます。開けてくださっても結構ですよ。ほら、エリー」
扉が開くと、仁王立ちのマリアがうふふっと笑って待っていた。
三年前のやらかしがもしかしてばれてるのかなっとちらりと見るが、ずっと目が笑ったままでわからない。
その上、五、四、三となぜかカウントダウンが始まる。
ルイがくすりと笑い先に降りると、手を差し出したのでそっとその手を掴む。
降りると、すぐさまルイと繋がっている手とは反対の腕をマリアに掴まれた。このまま屋敷の中まで行くらしい。
朝からいろいろ濃いけれど、まだ一日は始まったばかり。
52
お気に入りに追加
627
あなたにおすすめの小説
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
殿下、そんなつもりではなかったんです!
橋本彩里(Ayari)
恋愛
常に金欠である侯爵家長女のリリエンに舞い込んできた仕事は、女性に興味を示さない第五皇子であるエルドレッドに興味を持たせること。
今まで送り込まれてきた女性もことごとく追い払ってきた難攻不落を相手にしたリリエンの秘策は思わぬ方向に転び……。
その気にさせた責任? そんなものは知りません!
イラストは友人絵師kouma.に描いてもらいました。
5話の短いお話です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
新人神様のまったり天界生活
源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。
「異世界で勇者をやってほしい」
「お断りします」
「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」
「・・・え?」
神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!?
新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる!
ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。
果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。
一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。
まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる