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第二部 第五章 これから

推測③

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「昨夜のことだね」
「そう。相手は学園を狙っていたようだけど、私が知らず知らず邪魔をしていたようだし。それを認識されたからには逃げられないと思う」

 口に出して話すと、ずぅーんと肩にのしかかる。

「とにかく、予言のようなものや昨夜のことも含め、エリーは危険に巻き込まれる可能性が高いということだね。ひとまず、学園の結界の強化し直しこれからも警戒は怠らない。彼らの使った魔法も今は誠意解明中だから」
「さすがだね。仕事が早い」
「力が集結している王都での出来事だ。みすみす逃すことはしない。テレゼア家も動いてそろそろ情報が集まってる頃じゃないかな」
「そうだね」

 我が家はそういったことに特化しているから、後ほど詳細がわかることだろう。

「転生を繰り返していても、今目の前にいるエリーがとても大事だよ。それはきっと僕だけじゃない」
「…………っ」

 頭上で響く声。包み込むように手を握られ、頭上に柔らかな感触が落とされる。

 ──えっ? もしかして? いやいや。

 度重なるルイの言動にドキドキしながら、話が続きそうな気配がしたのでそのまま黙り込む。
 くすりと笑ったルイは、指に力を込めた。

「様々な葛藤があったと思うしまだまだこれから大変だけど、今、こうして出会えて僕の腕の中にいることが何より尊い。エリーが諦めず頑張ってくれて嬉しいよ」
「尊いって、褒め殺し?」
「ふふっ。昔から木登りだとか探検だとか驚かされてばかりだよ。行動の意味と事情はわかったけれどエリーの本質はきっと変わらないのだろうから、そういった意味でもこれからも僕は少しも気が抜けないだろうね」
「今度は下げてる?」

 結局黙ったまま聞いていられず合いの手を入れてしまうが、どれもこれも柔らかに笑って返される。
 相変わらず力を込められた手だけは言葉や態度以上にルイの緊迫した心情を物語っているようで、私はこみ上げる思いを漏らさないように小さく唇をかんだ。

「突拍子もないことでもそれがエリーにとって憂いの原因になっているのなら、一緒に取り除く方法を考えたい。だから、信じる信じない以前の問題だよ。エリーがそういうなら、僕はエリーが望むように動く。エリーが大事だというのなら僕にとってもそれはとても何よりも優先させるべきことだからね」
「……ありがとう」

 自分の今までの葛藤などあっという間に吹き飛ばし、可能な限り私に寄り添う形で接してくれるルイ。
 ふぅと息を吐き出し、私は瞼を下ろした。

 いまだにがっちり抱え込むように離されない温もりや、変わらぬ匂いの中に好意さえも感じるようになって頬が熱いけれどひどくリラックスした。
 私のことをよく知る人物が、抱え込んでいた話をすんなりと信じてくれて、これからを一緒に考えてくれると当たり前のように言ってくれた。
 そのことが今まで一人で奮闘してきた私にとって、どれだけ得難いものか。

 まるでじわじわと冷めないお風呂に浸かっているかのように、ずっと温かいものに包まれている気分になる。
 どこを向いても冷えきらない気持ちが、今まで以上に力を与えてくれる。

「ルイと出会えて本当に良かった」
「僕もだよ」

 心からの言葉に、ふわっ、と心の底から嬉しそうに微笑まれて、不覚にもきゅぅんと胸が高鳴った。
 無防備っていうか、取り繕わなくなったから直接当てられて、恋愛どころじゃないと思っていても反則級の笑顔は癒やしと神々しさのミックスで耐えられそうにない。

 気持ちは向き合いたいけど、今はきちんとした判断ができそうにない。
 ほどほどに頼みますよーと睨んでみたのだが、またにこにこっと笑顔が返ってきた。
 わかってるのか、わかってないのか。……まあ、これはわかっててやっているんだろうなぁ。

 柔らかな笑顔に騙されがちだが、ルイも結構強引だ。
 こういうところは、完璧王子であるシモンと同じだ。化かしあいの最高峰にいる王族っぽい。そう考えると、サミュエルは随分まっすぐだ。

 考えがそれたけど、これからは転生など気にしないで邁進していくだけだ。
 頑張るぞーと鼓舞していると、緩やかな停車とともにルイがくすくすと笑った。

「エリー、着いたよ。どうやらマリア嬢がお待ちかねみたいだね」

 ルイの視線の先を辿ると、カーテン越しにわかる見慣れたシルエット。
 接近しすぎでは? 馬車の中にも伝わる存在感が半端ない。

 これから心配をかけた家族と対峙だ。そして、本日は誕生日。
 これからやることいっぱいだけど、今まで自由に見守ってきてくれた家族との時間も大事だ。特に姉様。

「エリー。出てらっしゃい」

 うっそりと馬車の外から聞こえる声。

「ほーら。早く出てこないとどうなるかしら? そういえば、三年前の」
「マリア姉様!? 出ます。出ますから。ちょっとお待ち下さい」
「もう! 早くその可愛い顔を見せてちょうだい。ルイ殿下も着いたのですから、エリーを私に引き渡してくださいな」
「わかってます。開けてくださっても結構ですよ。ほら、エリー」

 扉が開くと、仁王立ちのマリアがうふふっと笑って待っていた。
 三年前のやらかしがもしかしてばれてるのかなっとちらりと見るが、ずっと目が笑ったままでわからない。
 その上、五、四、三となぜかカウントダウンが始まる。

 ルイがくすりと笑い先に降りると、手を差し出したのでそっとその手を掴む。
 降りると、すぐさまルイと繋がっている手とは反対の腕をマリアに掴まれた。このまま屋敷の中まで行くらしい。

 朝からいろいろ濃いけれど、まだ一日は始まったばかり。


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