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第二部 第三章 記憶と夢と過去
この世界で①
しおりを挟むホォー、ホォーと、フクロウに似た鳥、この世界で平和の象徴であるホクロウが鳴く。
日本人だったことを思い出した時、ひねりのない安直なネーミングだと思ったが、わかりやすく齟齬を感じずにすんで助かっている。
名前はそのままだったり、ちょっと変えただけだったり、西洋風なのにそれでいいのって思うところも多々あるがさすが微ファンタジー乙女ゲーム。
剣と魔法がある世界といっても、学園もので恋愛メインだからかその辺の設定も緩い。
その恋愛も修道院行きだとかなかなか進まず購入者泣かせだということは、友人の熱弁という嘆きで知っている。
ゲームをしてこなかった私にとっては持っている記憶と違いが少ないことは助かり設定ではあるけど、隠れ主人公(残念なことに自分)設定するあたり、斜めなこだわりも感じて気を緩めることはできない。
静かな暗闇から聴こえる鳴き声はどこか哀愁さえ漂うが、ホクロウは私にとってトラウマだ。
幼かった頃、次第に騒がしくホォーホォーホォーホォーと鳴きだしたことに驚いて、私はいったい何匹いるのだと窓から顔を出して後悔した。
合唱とも呼べる盛大な鳴き声に驚く前に、ギラギラと闇の中から光る目が視界に入り、うぎゃぁー、と可愛げもなく叫んだのもご愛嬌。
ジロ、ジロ、ジロジロジロジロジロジロ、と順にロウソクの火でも灯しているかのように二つの目が並んでいく。
いったい今までどこに隠れていたのか、一通り鳴き終わるとさっきまでが嘘のようにまた一匹が静かに鳴くのだ。
もうホラーだ。
腰を抜かしてシクシクと泣いて、その夜は姉のベッドにお邪魔することになった。
距離感を大事にと思っていたことも忘れて、不覚にも泣き縋った。
なのでいまだに、『あの時のエリーは私のナイトドレスをきゅっと離さないで可愛いかったわぁ。少しでも動こうものなら、目を覚まして姉さま行かないでってオネダリするの。ああ、今はたまにツンとしてるエリザベスも可愛いわよ。私限定なんて、ふふ。でも、やっぱり物足りない。そうね、また一緒に寝ましょう』と、何度あの時のことを引き合いに一緒に寝ることを誘われたか。
私は当時を思い出し遠い目をした。
そこでホクロウのことを教えてもらった。
ホクロウは滅多に鳴くことがなく、鳴き声は貴重でたくさん鳴き声を聞くと守護がつくと言われている貴重でありがたい鳥。
そして、合唱を聞くことはごくごく一部の人間のみしか聞くことができず、同じ空間にいても、他人には聞こえないし見えないらしい。
もう、その変な設定、今考えると何かのフラグだよね?……ああ、うん。考えたくない。
『見れて聞けて良かったね』と言われて、ちっとも気持ちは晴れなかった。
滅多にないことだからと言っていたけど、いまだに夜に違う鳥でも鳴き声を聞くとびくぅっとなる。
やっぱり、このゲームの世界の製作者は変わっている。こだわるところが違う。
そして何度も転生していて今世初めての経験に、嫌な予感しかしない。絶対、何かあるって言ってるよね?
これってやっぱりフラグ……。
見た目ホラーだけど、赤目の集まりが守護。守護が必要なことがあるって啓示……、いやいやいや。
「なんで、こんな日にそれを思い出させるかなぁ」
あの日以来、実際ホクロウの鳴き声は聞いてなかったのですっかり油断していた。
私は開けていた窓を閉めて、気持ちを切り替えさあ寝ようとベッドに寝ころんだ。
侍女のペイズリーのおかげで、いつもふっかふかの寝具は気持ちが良い。
良いのだが、爽やかな太陽の下で干された自然な匂いが昼間のことを思い出させ、私の頬はじわじわと熱くなった。
たまらず身体を起こし、顔を覆う。
「うっわぁ、改めて考えると濃い一日だった」
はっきり言って、王子舐めてたよ。
王子たちそれぞれ魅力的なのはよぉ~く知っている。
知っていて、距離を持って接していた相手にぐっと来られたのは不意打ちすぎて、心の準備もないままの私にはたまったものではなかった。
そんな相手に、髪を絡め取られ見せつけるように髪にキスされて妙に意識してしまう。主役級の美貌と立場の人のやることは破壊力がある。
ましてや、『力になる』とありがたくも好意的で頼りになる言葉をもらい、鼓動が跳ねてしまうのは仕方がない。
これまで思い出せる前世も含め、色恋ごととは無縁だった。
姉の取り巻きはさておき、大事な友人としてしかも女性として扱われると、ちょっとしたことでもむずむずしてしまう。
長年付き合いのあるルイもふとした瞬間にどきりとすることが増えたし、サミュエルも先日顎くいからの頼ってくれ発言だ。
そして、シモンと同じように王子の対応の違いを責められ名を呼ぶことを請われた。
三人ともタイミングや若干詰め寄り方に違いがあるだけで、言ってることとやってることは変わらない。
すごく血の繋がりを感じる。そして、まんまと流されている私。
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